「データ移行の案件に入ることになりました。夜間や休日も多いと聞きましたが、実際どのくらいきついのでしょうか」。SESの営業から案件を提示されたとき、こう感じる人は少なくないはずです。

私は3社目の約1年、金融系のWebサイトの刷新で、旧システムの顧客・契約データを新システムへ移す、リハーサルと本番切り替えの実施を担当しました。

今回は、数百テーブル・数百万件以上を動かした現場で、何がきつく、どう備えれば楽になるのかを、実体験をもとにお伝えします。

この記事で分かること

  • データ移行案件のきつさの正体は、作業量より「時間の拘束」と「止められない緊張」だったこと
  • 本番切り替えが24時間以上・複数日にまたがる現場で、何が負担になるか
  • リハーサルが3〜4回ある理由と、そこでできること・できないこと
  • 「件数・値が合わない」「時間内に終わらない」「手順書の誤り・漏れ」の3つのトラブルと、備え方
  • 向く人・向かない人、入る前に確認しておくこと
目次
  1. SESのデータ移行案件はきついのか|実施役を約1年やった結論
  2. 私の役割は「手順書に沿って実行する」ことでした
  3. 対象は数百テーブル・数百万件以上でした
  4. 本番切り替えは24時間以上|複数日にまたがる負担
  5. 作業そのものより「待つ時間」と「終わりの読めなさ」が重い
  6. リハーサルは「本番の予行」であり「手順書を直す場」でした
  7. 起きたトラブルは3種類|件数・値の不一致、時間超過、手順書の誤り
  8. 件数・値が合わない|突合の前に原因の当たりをつける
  9. 時間内に終わらない|止める基準は事前に決めておく
  10. 手順書の誤り・漏れ|一番怖いのは「書かれていない作業」
  11. 夜間・休日の切り替えが一番きつい理由と、体を守る工夫
  12. 休日出勤は振替休日で処理されました
  13. 体を守るために気をつけたいこと
  14. データ移行案件に向く人・向かない人
  15. 移行期に身についたもの、身につかなかったもの
  16. 入る前に確認しておきたいこと|データ移行案件の備え方
  17. まとめ

SESのデータ移行案件はきついのか|実施役を約1年やった結論

まず結論を示します。そのうえで、私の役割と現場の規模を書きます。

結論きついのは、作業の難しさより「夜間・休日に長時間、止められない作業を受け持つこと」です。ただし、リハーサルを重ねる設計の案件なら、本番の前に見通しは立てられます。

私の役割は「手順書に沿って実行する」ことでした

3社目は二次請けの現場で、前半約1年がデータ移行、後半約1年半がWebサイトの保守改善でした。データ移行チームでの私の担当は、手順書に沿って、リハーサルと本番切り替えを実行する役です。

手順書のステップを順に実行して、結果を記録し、ずれがあれば報告します。自社の人間は、移行期は私1人でした。

画面や機能を作る仕事ではないので、担当しているのは「作る」より「動かす」ことです。この違いが、後で書く向き不向きに効いてきます。

対象は数百テーブル・数百万件以上でした

規模と切り替えの条件を並べると、次のようになります。

移行対象数百テーブル数百万件以上
リハーサル3〜4回本番前の通し確認
本番切り替え24時間以上連休・複数日

私の現場の規模と条件です。正確な件数や時間は、客先の情報につながるため伏せています。

データ移行は、旧システムを止めてから新システムで業務を再開するまでを、決められた休止期間に収める作業です。だから本番は、連休のような長い休みに置かれ、夜間も休日も作業が続きます。

本番切り替えは24時間以上|複数日にまたがる負担

本番切り替えは、連休を使い、24時間以上かけて複数日にまたがりました。ここでは、その負担の中身を書きます。

作業そのものより「待つ時間」と「終わりの読めなさ」が重い

意外だったのは、手を動かしている時間より、ロード処理が終わるのを待つ時間のほうが長いことです。件数の多いテーブルは、流し込みだけで長い時間がかかります。

その間にやることは、進捗を見て、結果を記録するくらいです。ただ、トラブルが起きたら即座に判断を仰ぐ必要があるので、席を離れて休むわけにもいきません。

体を動かす仕事の疲れと、待つ仕事の疲れは、種類が違います。待つ仕事は、眠くなるのに気を抜けない疲れでした。

24時間以上の体感

作業量そのものより、終わりの時刻が読めないことが疲れを増やしました。確認や再実行が入るたびに終了が後ろへずれるので、気持ちの置き場がなくなります。

外部の事例では、@ITの連載に「40時間でデータ移行」の壁という題で、限られた停止時間内にデータ移行を終えることの難しさを扱った記事があります(出典: @IT(2008年)のデータ移行の記事)。時期も規模も違うので傍証程度ですが、停止時間の枠に収める難しさは、昔から変わらない課題のようです。

リハーサルは「本番の予行」であり「手順書を直す場」でした

リハーサルは、本番を想定した通しの実行です。私の現場では3〜4回ありました。

回数が多いのは、それだけ本番で失敗できないからです。リハーサルで見つかった問題は、手順書に反映されて次の回に持ち越されます。

私の体感では、リハーサルで潰せるのは「本番と同じ条件の問題」です。環境の差で出る問題は本番で初めて出ることもあるので、リハーサルは本番の保険であって、保証ではないと考えていました。

起きたトラブルは3種類|件数・値の不一致、時間超過、手順書の誤り

私の現場では、「件数や値の不一致」「作業の時間超過」「手順書の誤りや漏れ」が、一通り起きました。個別の詳細は客先の情報につながるため書きませんが、それぞれの性質と備え方を整理します。

件数・値が合わない|突合の前に原因の当たりをつける

移行元と移行先で件数や値が合わないのは、データ移行の定番のトラブルです。1件でも合わなければ、突合は不合格として扱われます。

一般に、原因は変換できない値の読み飛ばし、文字コードや桁数の違い、移行対象の条件の取りこぼしなど、データの中身に近いところにあります。実施役としては、差異を見つけたら件数や該当の範囲を整理して、すぐに報告することが仕事でした。

時間内に終わらない|止める基準は事前に決めておく

作業が予定時間を超えることも、起きました。ここで重要なのは、作業が遅いこと自体より、どの時点で打ち切って判断するかです。

基準が決まっていないと、実施役は「待つのか、止めるのか」を自分で背負うことになります。判断者と基準が手順書にあるかは、入る前に確認したい点です。

手順書の誤り・漏れ|一番怖いのは「書かれていない作業」

手順書の誤りは、実行すれば気づけることが多いものです。一方、漏れは実行しても出てこないのが厄介で、手順書をなぞるだけでは見つかりません。

だからリハーサルを重ねる意味があります。実施の中で「この手順の前後に何か必要ではないか」と疑う目を持つと、実施役でも貢献できます。

この体験の前提

トラブルの種類は、私の現場のものです。移行の方式、データベースの種類、規模によって、起きることは変わります。ここで書いたのは、実施役の立場から見えた範囲です。

夜間・休日の切り替えが一番きつい理由と、体を守る工夫

私が一番苦労したのは、夜間と休日の対応でした。理由は、作業そのものよりも、生活リズムが崩れることにあります。

3社目全体の残業は、平均で月約20時間、最も多かった月でも40時間弱で、多くはありません。ただ、その少ない時間が、特定の連休やリハーサルの日に集中するのが移行案件の特徴です。

休日出勤は振替休日で処理されました

休日出勤の扱いは、手当ではなく振替休日でした。出勤前に休日を入れ替えるので、休日労働にはなりません。

計算の仕組みと、割増賃金の考え方は、別の記事で詳しく書いています。

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移行案件の場合、見ておきたいのは、休日出勤が振替になるか代休になるか、手当になるかを、承認する前に確認することです。法定休日の労働は35%以上、22時から5時の深夜は25%以上が加算されます(出典: 時間外・休日労働と割増賃金|確かめよう労働条件)。夜間にまたがる切り替えでは、この確認が他の案件より効いてきます。

体を守るために気をつけたいこと

きつさをゼロにはできませんが、次の3つを意識するだけで、負担は変わります。

切り替えの前後で意識すること

  • 前日は早く寝て、当日は時間に余裕を持って動く
  • 食事と水分は、作業の合間に時間を決めて取る(空腹で集中が切れる)
  • 切り替え後の休みには予定を入れず、体を休める

予備日が置かれる現場では、その拘束がどう扱われるかも事前に聞いておくと、気持ちが楽になります。

振替休日の日付は、出勤前に会社と調整して決まります。希望を伝えられるのは、承認する前までです。「この日だと助かる」と先に営業へ伝えておく余地があるので、迷ったら早めに相談するのが得策です。

データ移行案件に向く人・向かない人

1年やってみて、向き不向きははっきりしていると感じました。実施役の立場に限った話ですが、整理します。

向いていると思うのは、次のような人です。

  • 手順書どおりに、淡々と正確に実行できる人
  • 結果を記録することが苦にならない人
  • 待つ時間が長くても、集中を保てる人
  • 夜間や休日の作業に、生活面で対応できる人

逆に、きついと感じやすいのは、設計や実装の技術を伸ばしたい人です。

移行期に身についたもの、身につかなかったもの

私自身、移行期に身についたのは、データ移行の流れです。一方、身につかなかったと感じているのは、システム全体の設計・構造の理解と、コードを書く経験でした。

身についたもの

  • データ移行の流れ

身につかなかったもの

  • システム全体の設計・構造の理解
  • コードを書く経験

後半の保守改善では、設計から実装・テストまで一人で完結する力や、障害の原因特定、影響範囲の調査の進め方が身につきました。移行期だけだと技術面の幅が狭くなるので、その後に設計・実装に関われる見込みがあるかは、入る前に確認したいところです。

担当が変わったのは、移行プロジェクトが終わったためで、私の希望ではありません。後半の保守・改修の経験は、別の記事に書いています。

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入る前に確認しておきたいこと|データ移行案件の備え方

最後に、これから入る人が、面談や入場前に確かめておけることをまとめます。

面談・入場前に聞いておくこと

  • リハーサルは何回の予定か。本番と同じ条件で実施するか
  • 本番切り替えは何日にまたがるか。夜間はどう分担するか
  • 自分の役割は実施役か、手順書の作成にも関わるか
  • 休日出勤は、振替休日か代休か、手当か
  • トラブル時の判断者は誰か、止める基準は決まっているか
  • 移行が終わった後、別の工程に移れる見込みはあるか

なかでも、役割とトラブル時の判断者は、必ず聞いておくべきです。判断者が決まっていない現場では、実施役に重圧がかかります。

まとめ

SESのデータ移行案件は、きついと感じやすい案件です。ただ、きつさの正体は、作業の難しさより、夜間・休日の長時間拘束と、止められない緊張にあります。

私の現場の条件を、もう一度並べておきます。

  • 対象は数百テーブル・数百万件以上。リハーサルは3〜4回
  • 本番切り替えは24時間以上で、連休・複数日にまたがった
  • トラブルは、件数・値の不一致、時間超過、手順書の誤り・漏れの全部が起きた
  • 休日出勤は振替休日で処理。担当が変わったのは、プロジェクトが終わったため

これから入る人は、リハーサルの回数・役割・休日の扱い・判断者の4点を、先に聞いてください。そのうえで、移行の後に設計や実装へ広げられるかも確認しておくと、案件の経験が次につながります。