今の現場に入って9か月、業務中にChatGPTやCopilotを一度も開いたことがありません。周りが当たり前のように使っていると聞くたびに、置いていかれている気がしてきます。
総務省の令和8年版情報通信白書では、自社の何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%にのぼります。それでも私の現場では、使っていいとも悪いとも言い切ってもらえないままです。
今回は、二次請けとして常駐する今の現場で生成AIの利用可否を確認した実体験と、多重下請けの中で誰に何を聞けばいいのか、禁止された環境でも取り残されないためにやっていることを、正直にお伝えします。
この記事で分かること
- 客先常駐の現場で生成AIが使えないことが珍しくない理由
- 多重下請け構造の中で、利用可否を誰に確認すればいいのか分からなくなる仕組み
- 禁止の背景にある企業側の慎重な姿勢(個人情報保護委員会の注意喚起など)
- 利用可否を確認するときの相手の順番と、ツール名・契約形態・データ範囲を伝える聞き方のひな形
- 禁止環境にいるエンジニアが感じる「取り残される不安」の正体
- ルールを守ったまま、スキル面で取り残されないためにできる具体的な行動
目次
- 客先常駐で生成AIが使えない現場は、実は珍しくありません
- 今の現場で「ChatGPTやCopilotは使っていいですか」と聞いてみました
- 貼り付け型とエディタ常駐型で、判断の重さが違う
- 誰に聞けば分かるのか、多重下請け構造がAI利用の可否をあいまいにする
- 禁止の裏側にある企業の慎重な姿勢
- 全面禁止がシャドーAIを招く懸念
- SESでAIの将来性に不安を感じた、社内勉強会での出来事
- 使えるかどうかは、本人の努力では決まらない
- 生成AIの利用可否を確認するときの相手と聞き方
- 聞く順番は、自社の営業から
- 聞くときに添える3点
- 禁止環境でも取り残されないためにできる工夫
- 私物環境で実践していること
- 自社側で確認・許可を取る手順
- まとめ
客先常駐で生成AIが使えない現場は、実は珍しくありません
私は今、4社目の現場に二次請けとして常駐しています。2025年の後半から入っていて、2026年9月時点で9か月ほどです。
担当しているのは、客先の社内向け業務システムの保守・改修です。独自の社内フレームワークの上でJavaとTypeScriptを触っていて、もともとは週1出社の予定で、最近はほぼフル在宅です。
入ってから今日まで、業務中に生成AIツールを使ったことは一度もありません。ブラウザ版のChatGPTはもちろん、GitHub Copilotのようにエディタに常駐するタイプのツールも同様です。
総務省の令和8年版情報通信白書によれば、自社の何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%にのぼります(出典: 令和8年版情報通信白書 企業における生成AIの利用状況)。それなのに私の現場では、使っていいとも悪いとも、はっきりした答えがないまま9か月が過ぎています。
今の現場で「ChatGPTやCopilotは使っていいですか」と聞いてみました
参画初日のセキュリティ研修では、書類管理や離席時の画面ロックについての説明はありましたが、生成AIという言葉は一度も出てきませんでした。当時は特に気にしていませんでした。まだ現場側の規程が、生成AIの存在を想定して更新されていなかっただけだろうと、今は思っています。
気になり始めたのは、参画から4か月ほど経ったころです。自社主催のオンライン勉強会でCopilotの話が出て、自分の現場ではどうなのか確かめたくなりました。現場のリーダーである客先のプロパーの方に、直接聞いてみました。
ChatGPTとかCopilotって、ここでは使っていいんですか
正直、自分もよく分かっていない。使っている人を見たことがない。念のため確認しておきます
その場しのぎの回答でした。正式な答えが来たのは、それから3週間ほど経ったあとです。元請けとして明確な許可は出していないので、使わないでほしい、という趣旨の内容でした。
このルールの位置づけ
書面化された正式なルールではなく、口頭での申し送りにとどまっています。
貼り付け型とエディタ常駐型で、判断の重さが違う
このやり取りで印象に残っているのは、リーダー自身が、ツールの種類による違いをあまり意識していなかったことです。ChatGPTのブラウザ版に自分でコードを貼り付ける行為と、Copilotのようにエディタに常駐するタイプのツールとでは、情報が外に出る仕組みがまったく違います。
| 貼り付け型(ChatGPTのブラウザ版など) | エディタ常駐型(Copilotなど) | |
|---|---|---|
| 情報が外に出る仕組み | 自分でコードを貼り付ける | 周辺のコードが自動的に送信される |
| 送信への自覚 | 「今、何を送っているか」という自覚がある | 意識しないうちに送信されている可能性があり、詳しくない人には線引きが見えにくい |
この違いを説明しても、リーダーの答えは変わりませんでした。「よく分からないので、どちらも使わないでほしい」という、いわば安全側に倒した判断です。ある意味、自然な結論だと思っています。
なお、外部のオンラインツールにコードやデータを貼れないという制約自体は、生成AI以前から別の現場でも経験しています。今回の話は、その延長線上にある生成AI固有の論点です。
誰に聞けば分かるのか、多重下請け構造がAI利用の可否をあいまいにする
結論最終的にここに聞けば分かる、という窓口はありません。客先・元請け・自社で答えが違い、重ねても線引きがぼやけたままだからです。
目の前にいて日々指示をくれるのは、客先のプロパー社員です。ただ、契約上の元請けは別に存在していて、実際にルールを決める権限がどちらにあるのか、常駐している立場からは見えません。
自社の営業に同じ質問をぶつけたこともあります。返ってきたのは、自社が2023年に情報セキュリティ規定を見直し、「顧客の非公開情報を外部の生成AIサービスに入力しない」という一文を加えた、という説明でした。ただし、その規定はあくまで自社としての社内向けの取り決めであって、常駐先の方針を上書きするものではない、とも付け加えられました。
生成AIの利用可否に対する三者の答え
- エンド(客先)「よく分からない」→ 確認後は「使わないでほしい」
- 元請け明確な許可は出していない
- 自社(二次請け)=私非公開情報を入力しなければ社内規定には反しない
総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIを「積極的に活用する方針」または「領域を限定して利用する方針」とする日本企業は、2025年度調査で68.9%でした。前年度の49.7%から大きく増えています。規模別では大企業が74.0%、中小企業が58.1%です。
| 調査年度 | 生成AIの活用方針がある企業(積極活用+領域限定) |
|---|---|
| 2023年度 | 42.7% |
| 2024年度 | 49.7% |
| 2025年度 | 68.9% |
出典: 総務省「令和8年版情報通信白書」(企業の活用方針)、2023年度の値は「令和7年版情報通信白書」(企業におけるAI利用の現状)
ここで気になるのは、業務で生成AIを使っている企業が86.4%あるのに、方針がある企業は68.9%という差です。使う現場が先に増えて、方針の整備があとから追いかけている形に見えます。
この定義に当てはまらない企業は約3割で、中小企業に限ると約4割です。そこに客先常駐特有の事情が重なります。世間で使われていることと、自分の現場で使えることは別の話で、常駐先ではその客先のルールが優先されるからです。方針が定まっていない会社を経由して、さらに別の会社の人間が常駐している状況では、現場のリーダーが即答できなくても無理はないと今は思っています。
ポイント: 客先・元請け・自社のどこか一つでも「明確に禁止」と言っていれば、その時点で使わない一択です。三者三様の答えが返ってくること自体、社会全体としてまだルールが固まりきっていない裏返しだと捉えています。
禁止の裏側にある企業の慎重な姿勢
自社の規定が2023年に見直されたという話には、思い当たる背景があります。
個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しました。生成AIサービスに個人情報を入力する際は慎重な対応が求められるという趣旨の内容で、あわせてOpenAIに対する注意喚起も行われています(出典: 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会)。
業務システムの保守・改修という仕事の性質上、私が触るコードには、客先の業務ロジックや、場合によっては個人情報に近いデータ構造が含まれます。国のAI事業者ガイドラインも2026年3月に第1.2版が公表されるなど、ルール作りは今も進行中です。
会社が慎重になる理由は理解できます。ただ、当事者としては、その慎重さのしわ寄せが、現場で日々コードを書いている自分のところにそのまま来ている、という感覚も拭えません。
全面禁止がシャドーAIを招く懸念
全面禁止のままだと、現場から見えないところで無断利用が起きるシャドーAIの心配もあります。ただ、それを理由に無断で使うのは筋が違うと私は考えていて、必要なのは禁止か許可かの二択ではなく、条件つきで許可を検討してもらえる形に持っていくことだと思っています。
SESでAIの将来性に不安を感じた、社内勉強会での出来事
きっかけになったのは、先ほど触れた自社主催のオンライン勉強会そのものです。3か月に一度くらいの頻度で開かれていて、その場で聞いた話が今も頭に残っています。
勉強会で聞いた後輩の話
別の客先に常駐している、入社2〜3年目くらいの後輩が、Copilotを使ってテストコードの雛形を数分で作った、という話をしていました。その現場では、Copilotの利用が正式に認められているとのことです。
同じ自社に所属していて、常駐先が違うだけでここまで使えるツールが変わるのかと、素直に驚きました。何が違うのか聞いてみると、その客先は自社サービスを持つ企業で、社内向けのAI利用ガイドラインを早い段階で整備していたとのことでした。方針を決める会社があるかどうかで、これほど差がつくのだと実感した出来事です。
この話の位置づけ
後輩から聞いた伝聞なので、その客先の詳しい制度までは分かりません。
総務省の令和8年版情報通信白書では、個人で何らかの生成AIサービスを使っている日本人の割合は、2025年度に58.8%でした(出典: 令和8年版情報通信白書 個人における生成AIの利用状況)。2024年度は26.7%だったので、1年で2倍以上に増えたことになります。
なお、令和7年版の調査では、2024年度の20代の利用率が44.7%でした(出典: 令和7年版情報通信白書 個人におけるAI利用の現状)。最新の年代別の値までは確認できていません。
使えるかどうかは、本人の努力では決まらない
この数字を見て感じたのは、AIを使えるかどうかは本人のやる気の問題ではなく、所属する会社や常駐先の方針にかなり左右される、ということでした。使えない環境にいることは、自分の努力不足ではないと、一度は自分を納得させています。
ただ、納得しても不安が消えるわけではありません。数年後、AIを使いこなす前提で採用や評価が進んだとき、この9か月の空白がどう響くのか、正直まだ答えは持てていません。
生成AIの利用可否を確認するときの相手と聞き方
結論聞く相手は自社の営業から順に、聞く中身はツール名・契約形態・入力するデータの範囲の3点に絞ります。漠然と「使っていいですか」と聞くと、安全側の「ダメ」しか返ってきません。
私が最初にリーダーへ投げたのは「使っていいんですか」の一言だけで、答えが来るまで3週間かかり、返ってきたのは口頭の「使わないでほしい」でした。今ならもう少し聞き方を工夫できたと反省しています。
聞く順番は、自社の営業から
現場のリーダーは日々の指示をくれる人ですが、生成AIの利用を許可する権限まで持っているとは限りません。実際、私のリーダーも自分では決められず、元請けに確認する形になりました。
そのため私は、次の順番で聞くのが現実的だと考えています。
- 自社の営業 自社の規定と契約上の制約を確認し、元請けや客先への確認を依頼する窓口にもなってもらいます
- 元請けの窓口 二次請けの立場では直接聞けないことが多いので、営業経由で問い合わせてもらいます
- 現場のリーダー 最終的に日々の運用を左右する人なので、結論が出たら必ず共有します
聞くときに添える3点
聞き方のひな形は次のとおりです。
「業務の効率化のため、次の条件で生成AIを使えないか確認させてください。①使いたいツールは○○(ブラウザ版/エディタ拡張のどちらか)、②契約は個人契約ではなく法人契約(会社が管理するプラン)を想定、③入力するのは○○のみで、顧客情報・個人情報・業務コード本体は入力しません」
ツール名と利用形態を書くのは、前のセクションのとおり、貼り付け型とエディタ常駐型で情報の出方が違うからです。契約形態については、GitHub Copilotの公式ページのFAQに、Copilot BusinessとEnterpriseのデータをGitHubがモデル学習に使わない旨の記載があります(出典: GitHub Copilot 公式ページ)。
料金は2026年9月時点で、Businessが1ユーザーあたり月額19ドル、Enterpriseが39ドルです(出典: GitHub Copilot プランと料金)。ただし、学習に使われないことと、客先が許可することは別の話です。この材料を渡して判断してもらうところまでが、私にできる範囲だと考えています。
禁止環境でも取り残されないためにできる工夫
結論許可された範囲の中で工夫します。私物の環境での練習と、自社側で確認が取れる範囲の洗い出しなら、今日からできます。
現場のルールを破ってまで使うつもりはありません。ただ、何もしないまま数年が過ぎるのも避けたいので、今のところ次のようなことをしています。
取り残されないための4つの工夫
- 1. 誰に何を確認したかを記録しておく 客先のリーダー・元請け・自社、それぞれに聞いた内容と回答を残しておくと、状況が変わったときに聞き直す手間が減ります
- 2. 自社側で許可されている範囲を先に確認する 業務外のポートフォリオ用リポジトリや、自社が用意する研修環境であれば、利用可否がはっきりしていることがあります
- 3. 私物の環境で、抽象化した課題を作って練習する 業務で困った内容そのものではなく、似た構造のミニ課題を自分で作り直し、機密情報を含まない形で試します
- 4. 契約更新のタイミングで定期的に聞き直す ルールは固定ではありません。方針が変わっていないか、更新の面談のたびに確認するようにしています
私物環境で実践していること
自宅では、個人で契約した生成AIの有料プランを使っています。月に3,000円ほどの出費ですが、業務で使えない分を補う投資だと割り切っています。
ただ、個人向けのプランは、設定によって入力内容がモデルの学習に使われうるものがあります。GitHub Copilotの個人プランなども同様なので、契約前に学習利用の設定を確認し、業務に近い内容は入れないようにしています。
練習の材料は、業務で実際に困った内容そのものではなく、似た構造を持つ小さな課題を自分で作り直したものです。
練習の題材の例
現場で扱っている改修対象の処理に近い形で、架空の商品データと架空の集計ロジックを自分で用意し、CSVの整形やバリデーションのコードをAIとやり取りしながら書いてみる、といった具合です。
業務のコードそのものは一切使いません。構造だけを借りて、中身は完全に架空のものに置き換えています。
月に2回ほど、週末にまとまった時間を取ってこの練習をしています。週末の勉強時間の作り方については別の記事で詳しく書いていますが、今はその時間の一部をAIとのやり取りの練習に充てている形です。
自社側で確認・許可を取る手順
もう一つ試しているのが、自社側の環境での利用です。自社が社員向けに用意している研修用のリポジトリや、業務に関係のない社内ツールの開発であれば、生成AIの利用について客先の許可を経由せずに判断できる場合があります。
私の場合、自社の情報システム担当に「業務外の自己学習用に、個人契約のAIツールを使ってもよいか」と確認したところ、会社の端末や資産を使わず、業務データに一切触れない前提であれば問題ない、という回答をもらえました。
当たり前のようですが、この「業務データに触れない」という前提を自社側からも明確にもらえたことで、私物環境での練習を後ろめたさなく続けられるようになりました。
別の選択肢として、会社の研修として受けさせてもらう形も考えられます。法人向けのAI研修を提供しているところに、AI駆動開発協会のAI研修サービスがあります。私自身は受講していないので、内容の良し悪しは判断できません。費用や研修内容は公式ページで確認のうえ、まず自社の営業や上長に相談してみるのが筋だと思います。
次の現場を考える段階になったら、生成AIの利用ルールも条件の一つとして営業や面談の場で聞いておくつもりです。自分で動いて環境ごと変えたいなら、IT職種に特化した転職エージェント(@PRO人
など)に、希望条件として相談する手もあります。
まとめ
客先常駐の現場で生成AIが使えないのは、珍しいことではありません。私が今いる4社目の現場でも、参画から9か月経った今も、業務中に使う許可は出ていません。
- 使えない理由 客先・元請け・自社という三者の方針が重なり、誰に聞いても言い切れる答えが返ってこない構造にあります。総務省の調査でも、生成AIの活用方針がある企業は68.9%で、約3割にはまだ方針がありません
- 守る順番 まず自社の営業から順に、ツール名・契約形態・データ範囲を添えて確認し、許可された範囲の中で工夫します。禁止されている環境で無理に使おうとする必要はありません
- 今日からできること 私物の環境での練習と、自社側で確認の取れる範囲の洗い出しです
使えない現場にいることと、スキルが伸びないことは、必ずしもイコールではありません。9か月経った今も、私はこの現場で生成AIを使えていません。それでも、確認を止めず、外で練習を続けている限り、置いていかれるだけの9か月にはならないはずだと考えています。




