「この子、見てあげて」と言われて後輩を任されたものの、自分の作業は減らない。そんな状況で、どこまで面倒を見るべきか迷ったことはないでしょうか。

私はSESエンジニアとして4社の現場を経験し、3社目では途中から入った後輩の面倒を見ました。今の4社目では、手を動かしながら3〜5名を見ています。今回は、後輩指導の線引きと、案件の中でできる教え方を、実体験を交えてお伝えします。

この記事で分かること

  • SESで後輩指導を任されたとき、契約や評価の面でどう考えるか
  • 質問に追われて自分の作業が遅れた私の失敗と、立て直した方法
  • 教える時間の上限、質問を受ける時間帯、手順書化の具体例
  • 客先の方から後輩への指示が入ったときの対応と、断り方・相談の仕方
目次
  1. SESの後輩指導はどこまでやる?まず「契約上の業務か」を確認する
  2. 私が後輩を任された2つの場面
  3. 契約上は「指導する」とは書かれていないことが多い
  4. 評価・単価への反映は、頼んでいないと反映されにくい
  5. 3社目で質問に追われた失敗|最初の2週間で自分の作業が遅れました
  6. 1日5〜6回の質問で、レビュー提出が1日遅れた
  7. 答えをそのまま教えすぎて、同じ質問が戻ってきた
  8. 後輩指導の線引き|時間の上限と質問を受ける時間帯を決める
  9. 質問を受ける時間帯を決めた
  10. 「15分調べて詰まったら聞く」を共有した
  11. 自分の作業を守る時間も、先に確保する
  12. 同じ質問を減らす|手順書化とレビューの使い方
  13. 手順書にしたのは「環境構築」と「証跡の作り方」
  14. レビューは「直す」より「理由を伝える」場にする
  15. 教えすぎず、放置もしない
  16. 客先の方から後輩に直接指示が入ったとき|指示系統を崩さない
  17. 3社目で起きた「後輩に直接お願いしていいですか」
  18. 偽装請負の観点|判断が分かれる点は営業や労働局に確認する
  19. 私が決めた対応
  20. 断り方と相談の仕方|教える負担が限界を超えたとき
  21. 相談は「困っている」ではなく「数字」で
  22. 断るときは「できない」ではなく「この枠なら」
  23. 見る人数が増えたら「個別対応」から「共有」に切り替える
  24. まとめ|後輩指導は、時間と責任の線引きから始める

SESの後輩指導はどこまでやる?まず「契約上の業務か」を確認する

結論後輩指導は、頼まれたから自動的にあなたの仕事になるわけではありません。自社の業務として任されたのか、客先との契約の範囲なのかを分けて考えると、線引きの出発点が決まります。

この章では、後輩指導の位置づけを契約・評価・責任の3つの面から見ていきます。先に私の状況を書いたうえで、確認しておくべき点を整理します。

私が後輩を任された2つの場面

1つ目は3社目の後半です。保守改善の約1年半のうち、半年ほどたったころに、自社の後輩が保守チームに入ってきました。前半の移行チームでは自社は私1人でしたから、教える側に回るのは初めてでした。

2つ目は4社目で、現場に入って数か月後に自社の役職上の管理職になってからです。設計・実装・テストが中心の仕事は変わらず、そこに3〜5名を見る役割が加わりました。残業代は出ません。

3社目のときは、役職も何もなく、「同じ会社の先輩だから」という理由で、自然に面倒を見る流れになりました。誰からも「あなたの業務です」と言われないまま、教える責任だけが乗っていたわけです。

契約上は「指導する」とは書かれていないことが多い

SESの契約は、多くの場合、システム開発や保守といった業務の遂行に対するものです。後輩教育そのものが、契約書に書かれている場面は多くありません。自分の現場でも、指導が契約上の項目として示された記憶はありません。

つまり、後輩指導は、契約というより自社内の役割分担として降りてくるものです。上長や営業から「見てやってほしい」と言われたなら、それは自社からの依頼です。客先の方から指示や依頼の形で言われた場合は、後の偽装請負の話に関わってきます。

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評価・単価への反映は、頼んでいないと反映されにくい

後輩を見ても、それが自動で評価や単価に反映されるとは限りません。私の3社目では、教えた時間は誰にも記録されず、評価面談でも話題に出ませんでした。見えない仕事は、見える形にしないと評価に乗りにくいというのが実感です。

4社目では、管理職という肩書きが付いた一方で、残業代はなくなりました。肩書きと引き換えに、労働時間の外側でも教える時間が膨らみやすい構造です。

3社目で質問に追われた失敗|最初の2週間で自分の作業が遅れました

後輩が入った直後、私は「聞かれたら全部答える」という方針で動き始め、それが失敗の元でした。ここでは、何が起きたかと、どう立て直したかを順に書きます。

1日5〜6回の質問で、レビュー提出が1日遅れた

後輩が入って最初の2週間、質問は感覚で1日5〜6回ありました。環境の立ち上げ、依頼票の読み方、ログの見方と、内容はどれも新人なら当然の質問です。

ところが、1回ごとの対応は10分前後でも、作業の流れが切れる損失はもっと大きいものでした。集中して影響範囲を調べているところに声がかかり、元の状態に戻るまで、さらに10分ほどかかります。

その結果、自分が担当していた改修のレビュー提出が1日遅れました。連絡窓口のリーダーには、遅れた理由を説明する羽目になっています。

窓口のリーダー

今日出る予定だった改修、まだですか?

私

すみません、明日の午前に出します。

心の声

後輩の質問対応で時間が取れなかった、とはここでは言えない。

後輩のせいにはできません。質問を受ける仕組みを作らず、全部を自分の作業時間に食い込ませたのは私だからです。教える時間を確保しないまま教え始めると、遅れは自分の作業に出ます。

答えをそのまま教えすぎて、同じ質問が戻ってきた

もう1つの失敗は、答えをそのまま教えてしまったことです。聞かれるたびに「ここを、こう直して」と言ってしまうので、後輩は自分で調べる前に私のところへ来るようになりました。

2週目には、ほぼ同じ種類の質問が、言い方を変えて何度も戻ってきました。教えたつもりが、後輩の主体性を削っていたわけです。

逆に、突き放しすぎるのも危険です。質問しづらい空気ができて、後輩が1人で3時間悩み続けるほうが、現場にとっても損失になります。この間のどこに線を引くか、が次の章の話です。

後輩指導の線引き|時間の上限と質問を受ける時間帯を決める

結論線引きは「何を教えるか」より先に、「いつ、どれだけ時間を使うか」で決めます。時間の枠を決めておけば、自分の作業との両立が、気持ちの問題から運用の問題に変わります。

3社目で立て直したとき、最初に手を付けたのは教え方の工夫ではなく、時間の枠でした。ここでは、実際に決めたルールと、その理由を書きます。

質問を受ける時間帯を決めた

後輩と相談して、質問を受ける時間を午前と午後の1回ずつにまとめました。急ぎでない質問は、チャットに書き溜めておいてもらい、決めた時間にまとめて答えます。

最初は、後輩に遠慮されるかと思いました。実際には、書いているうちに自分で解決する質問が増え、まとめて聞く質問の質が上がっています。詰まりやすい箇所が整理されたからです。

「15分調べて詰まったら聞く」を共有した

もう1つのルールが、「15分調べて分からなければ聞く」です。調べた内容を一言添えてもらうことも、条件にしました。

この15分ルールが機能した理由

  1. 放置にならない15分で聞いてよいと決めたので、1人で何時間も悩む状態を防げます。
  2. 丸投げにならない調べた内容を添えるので、どこまで分かっていて、どこから分からないかが私にも見えます。
  3. 教える側の判断が速くなる前提が揃った質問は、答えが1〜2分で済むことが多くなります。

自分の作業を守る時間も、先に確保する

質問を受ける枠とは別に、自分の作業に集中する時間も先に確保することにしました。4社目でも、午前の前半は集中する時間にして、メンバーには緊急以外は午前の後半以降にまとめてもらっています。

この運用は、メンバーの作業が止まるのを防ぐ仕組みとも相性がよいものです。在宅が中心の今は、顔が見えない分、チャットで呼ばれる頻度が増えやすいので、枠の事前共有は特に効きます。

ポイント: 教える時間の上限は、「1日のうち合計で何分まで」と数字で決めておくと、超えそうなときに上長へ相談しやすくなります。私は、1日あたり合計1時間前後を目安にしています。

同じ質問を減らす|手順書化とレビューの使い方

質問対応の負担を根本から減らすには、同じ質問を二度受けない仕組みが必要です。ここでは、手順書にするもの、レビューで教えること、教えすぎを防ぐ工夫に分けて書きます。

手順書にしたのは「環境構築」と「証跡の作り方」

3社目で手順書にしたのは、ローカル環境の立ち上げと、テスト証跡の作り方の2つです。どちらも、同じ質問が複数回来た箇所でした。

証跡は、現場の手順が重いと感じた点でもあります。書き方を一度まとめておくと、後輩が自分で進められ、私の側も確認が早くなりました。

  1. 同じ質問が2回来たら書き始める1回目は直接答え、2回目の時点でメモを作ります。
  2. 画面や実行結果をそのまま貼る文章での説明を減らして、手を動かせば再現できる形にします。
  3. 質問した本人に試してもらうつまずいた箇所が、手順書の不足箇所として見つかります。
  4. 共有の場所を1か所に決めるチャットに流さず、検索できる場所に置きます。

なお、現場のデータや設定を外に持ち出せない環境も多いので、手順書の置き場所は、客先のルールの範囲で決めてください。

レビューは「直す」より「理由を伝える」場にする

後輩のコードをレビューするときは、指摘の数より、理由を伝えることを重視しました。私自身が3社目で毎回レビューを受けて、指摘の意味が分からないまま直すと、同じ指摘が戻ってくると実感したからです。

指摘は、バグ、現場の決まり、読みやすさ、好みの4種類で伝えるようにしています。受ける側の視点は別の記事にまとめました。

関連記事SESのコードレビューの受け方|指摘を4種類に仕分けて凹まず成長に変えるSESのコードレビューの受け方を、保守改善で1年半毎回レビューを受けた実体験から整理します。指摘の4種類の仕分け、凹まない読み方…

「決まり」と「好み」を分けて伝えるだけで、後輩は優先度を判断できます。必須かどうかを明示すると、指摘への疲れ方がまったく違います。

教えすぎず、放置もしない

主体性を奪わないために、答えを言う前に「どこまで調べた?」「自分はどう思う?」と返すようにしています。答えを出すのは後輩で、私は合っているかを確認する役です。

一方で、2回やって方向が合っていなければ、そこで答えを示します。この境目が、教えすぎと放置の間の線だと、私は考えています。

後輩に質問されたときの確認

  • 調べた内容と、どこで詰まったかを言えるか
  • 調べ始めて15分以上たっているか
  • 急ぎではなく、決めた時間にまとめられないか
  • 答えを渡す前に、本人の考えを一度聞いたか

客先の方から後輩に直接指示が入ったとき|指示系統を崩さない

教える相手が自社の後輩でも、客先の方が直接やり取りを始める場面があります。ここは、線引きを間違えると、契約の問題にもつながる箇所です。

3社目で起きた「後輩に直接お願いしていいですか」

3社目の保守で、依頼元の連絡窓口とは別の方が、後輩に直接作業を頼もうとしたことがあります。軽い調査の依頼で、悪意は全くなく、「この件、後輩さんにそのままお願いしていいですか」と私に聞いてくれました。

私はその場で即答できず、窓口のリーダーに確認すると言って、いったん引き取りました。最終的には、依頼は窓口経由に戻しています。

今振り返ると、聞いてくれたこと自体が運が良かったと思います。何も聞かれずに、後輩が直接指示を受けていたかもしれないからです。

偽装請負の観点|判断が分かれる点は営業や労働局に確認する

厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に行うために」のページでは、請負か派遣かは契約の名称ではなく実態で判断されることと、その基準として37号告示があることが示されています(出典: 労働者派遣・請負を適正に行うために|厚生労働省)。

民間の法律事務所の解説では、発注者が受託側の作業者に直接指示を出すと、偽装請負と判断される可能性が高まる、と説明されています(出典: 偽装請負とは|BUSINESS LAWYERS)。客先の方が後輩に細かい作業指示を出す形は、この論点に近づきます。

ただし、どこまでが許される技術的な助言で、どこからが指揮命令なのかは、契約の形態や実態で判断が分かれます。公開されている資料から言えるのは、上記の範囲までです。一人で判断せず、自社の営業や上長に相談し、必要なら労働局の窓口に確認するのが安全だと考えています。

関連記事SESの偽装請負と指揮命令の境界線|3つの現場の指示で検証SESの客先常駐で偽装請負を疑う指示を何度も受けてきました。厚労省の疑義応答集が示す指揮命令の判断基準に、3つの現場で受けた指示…

私が決めた対応

この件以降、客先の方が後輩に直接頼みそうな場面では、次のように動いています。

客先から後輩への直接依頼が来たとき

  • その場で引き受けず、窓口のリーダー経由に戻してもらう
  • 後輩には、直接依頼は私か窓口を通すよう事前に伝えておく
  • 気になるやり取りは、自社の営業に共有する

後輩が断りづらい立場であることも、私は意識しています。断る役は、先輩の私が引き受けるほうが、後輩の負担が小さくなります。

断り方と相談の仕方|教える負担が限界を超えたとき

線引きを決めても、現場の状況で限界が来ることはあります。ここでは、上長や営業へ相談するときの伝え方と、断るときの言い方を書きます。

相談は「困っている」ではなく「数字」で

上長や営業に相談するときは、感情ではなく数字を出します。「後輩の質問対応が1日あたり合計で約2時間あり、自分の改修が1日遅れています」のような伝え方です。

数字があれば、相手も判断しやすくなります。体制の見直し、担当の調整、後輩側の別の相談先といった選択肢が、具体的に出てきます。

私

最近、質問対応が1日2時間ほどになっていて、自分の改修が遅れ気味です。何か調整できますか。

上長

分かりました。まず、いまの時間配分を見せてもらえますか。

断るときは「できない」ではなく「この枠なら」

後輩や周囲から頼まれたとき、全面的に断る必要はありません。「今日は難しいので、明日の午前の枠で見ます」のように、代わりの時間を示して断ると角が立ちません。

4社目で3〜5名を見る立場になって、いちばん意識しているのは、自分の手を動かす時間を残すことです。見る人数が増えるほど、手を動かす時間は削られます。この点は、管理職になった立場の記事でも書きました。

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見る人数が増えたら「個別対応」から「共有」に切り替える

4社目で3〜5名を見るようになって気づいたのは、同じ質問が別々の人から来ることです。1人ずつ答えていると、同じ説明を何度もすることになり、自分の手を動かす時間がどんどん削られます。

そこで、質問はなるべくチャットの共通の場所に書いてもらい、答えも全員が見える形で返すようにしました。1人への回答を、全員の手順書の材料にする考え方です。

人数が増えても、1日の上限という考え方は変わりません。むしろ人数が多いほど、個別に呼ばれる回数が増えるので、枠を決めておく効果は大きくなります。

まとめ|後輩指導は、時間と責任の線引きから始める

結論後輩指導は、頑張って全部引き受けるものではありません。時間の枠、教える範囲、指示系統の3つを先に決めると、自分の作業と両立できます。

私の失敗は、「聞かれたら全部答える」で始めて、自分の改修を1日遅らせたことでした。立て直す鍵は、教え方の工夫より、時間の枠と手順書化でした。

この記事の要点

  • 後輩指導は契約上の業務とは限らず、自社内の役割分担として降りてくる
  • 質問を受ける時間帯と、1日の上限を、先に決めて共有する
  • 「15分調べて詰まったら聞く」で、放置と丸投げの両方を防ぐ
  • 同じ質問が2回来たら手順書にする
  • 客先から後輩への直接指示は、窓口経由に戻し、判断が分かれる点は営業や労働局に確認する
  • 限界が来たら、感情ではなく数字で上長に相談する

今、後輩を任されて困っている方は、まず今週の質問の回数と所要時間を、メモに取ってみてください。数字が出れば、時間の枠も、上長への相談も、具体的に動かせます。

教えることは、自分の整理にもなります。ただし自分の作業を犠牲にしない範囲で続けるのが、長く教え続けるための条件です。