4社目にいたころ、独自の社内フレームワークの選定経緯を誰も知らないという状況に行き当たり、ふと「そもそも自分は何の契約でここにいるんだろう」と思ったことがあります。
調べようにも、契約書は見せてもらえる立場ではありませんでした。SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、自社と客先の間の契約書を自分の目で見たことは一度もありません。
今回は、契約書そのものは見られない立場でも、日々の運用の中から自分の契約類型を推測する手がかりを、4社目での実体験と民法の条文をもとに整理します。
この記事で分かること
- 準委任・請負・労働者派遣の3つが、働く本人にとって何がどう違うのか
- 「履行割合型」と「成果完成型」という、準委任の中にある2種類の違い
- 契約書がなくても観察できる、契約類型を推測する5つの手がかり
- これらの手がかりで分かること・分からないことの線引き
- 3か月ごとに更新される働き方の法的な背景と、その付き合い方
目次
- SESの準委任契約とは|契約書が見れなくても確かめられること
- 準委任・請負・労働者派遣、働く本人にとって何が違うのか
- 準委任契約は「事務処理」を引き受ける契約です
- 請負契約は「仕事の完成」を約束する契約です
- 労働者派遣は指揮命令が客先に移る契約です
- 履行割合型と成果完成型|工数で精算されているかが分かれ目
- 契約書がなくても分かる、4社目で気づいた5つの手がかり
- A. 月末に出しているのは「工数表」か「検収書」か
- B. 精算幅(基準時間)の下限が存在すること自体
- C. リリース後の不具合が「追加の工数」として扱われた
- D. 作業の指示が「順序の指示」なのか「使い方の説明」なのか
- E. 自社の管理者が現場にいるかどうか
- これらの手がかりで分かること、分からないこと
- 準委任だからといって不利とは限らない|651条の任意解除という背景
- まとめ
SESの準委任契約とは|契約書が見れなくても確かめられること
結論契約書そのものは見られなくても、日々の運用から契約類型は推測できます。ただし、推測は推測で、確定ではありません。
SESの客先常駐は準委任契約であることが多いと言われていますが、個別契約書そのものを本人が見る機会は、私の経験した範囲では一度もありません。
私の場合
単価を上司から一度だけ聞かされたことはあります。ただ、それも口頭で数字を伝えられただけで、契約書の現物を見たわけではありませんでした。
契約書が見られないなら、自分の契約が準委任なのか、請負なのか、それとも労働者派遣なのかを確かめる方法はないのでしょうか。私はそうは思いません。契約書という「答え」は見られなくても、日々の運用の中には、契約類型を推測できる手がかりがいくつも転がっています。
この記事では、独自の社内フレームワークを使った業務システムの改修に携わった4社目での実体験をもとに、その手がかりを具体的に紹介します。
契約類型を知っておく意味は、単なる知的好奇心にとどまりません。不具合が出たときに自分がどこまで責任を問われる立場なのか、指示の受け方がどこまで許容される範囲なのかを判断する土台になります。
準委任・請負・労働者派遣、働く本人にとって何が違うのか
3つの契約類型がそれぞれどういうものなのか、企業向けの比較表をなぞるのではなく、現場で働く本人にとって何が変わるのかという軸で整理しておきます。
準委任契約は「事務処理」を引き受ける契約です
民法上、委任は「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」契約と定義されています(民法第643条)。この記事で引用している条文は、いずれも民法の原文で確認できます(出典: 民法|e-Gov法令検索)。
法律行為ではない事務の委託については、この委任の規定が準用されます(民法第656条)。これが準委任と呼ばれるもので、SESのシステム開発・保守業務はこちらにあたります。
準委任契約で仕事を引き受けた側には、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務があります(民法第644条)。仕事を「完成させる」ことそのものは契約上の義務ではなく、決められた事務を誠実に処理すること自体が義務の中心になります。
働く本人の立場に置き換えると、担当した機能に後から不具合が見つかったとしても、日々の作業を誠実にこなしていた実態があれば、それだけで契約上の債務不履行に直結するとは考えにくい、という理解になります。
請負契約は「仕事の完成」を約束する契約です
一方、請負は「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です(民法第632条)。準委任との一番の違いは、この「完成」という言葉です。請負では、仕事を完成させること自体が契約上の義務になります。
完成させた仕事の内容が契約に適合しない場合、注文者は追完請求や報酬減額請求ができます(契約不適合責任)。ただし、その不適合が注文者の与えた指図や材料に原因があるときは、請負人の責任は制限されます(民法第636条)。この責任には期間の制限もあり、注文者が不適合を知った時から1年以内に通知しないと追及できなくなります(民法第637条)。
ちなみにこの「契約不適合責任」という呼び方も、2020年4月に施行された民法改正で、それまでの「瑕疵担保責任」という呼び方から整理されたものです。
労働者派遣は指揮命令が客先に移る契約です
労働者派遣法が定める労働者派遣は、自社が雇用する労働者を、雇用関係はそのままに、他社の指揮命令のもとで働かせる契約類型だとされています(労働者派遣法第2条第1号の趣旨)。
準委任・請負のどちらでも、労働者を指揮命令するのは本来、雇用主である自社です。客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしてしまうと、契約上は準委任・請負のはずが実態は労働者派遣に近づいてしまう、いわゆる偽装請負の問題が出てきます。
この線引きの詳しい判断基準は、37号告示と呼ばれる基準にまとめられています。この基準に自分が受けてきた指示を照らし合わせた話は、別の記事で詳しく書きました。この記事では指揮命令の実態判定までは踏み込みません。
3つの契約類型を、本人にとっての違いという軸でまとめると、次のようになります。
| 契約類型 | 指示を出すのは誰か(建前) | 報酬が発生する条件 | 成果物に不具合があった場合 |
|---|---|---|---|
| 準委任(SESの多くはこちら) | 自社(客先は直接指揮命令をしない建前) | 履行割合型は事務処理そのものに対して、成果完成型は成果の引渡しに対して | 契約不適合責任の規定はなく、善管注意義務を尽くしたかが問われる |
| 請負 | 自社(請負人が自己の労働者を指揮するのが原則) | 仕事の完成に対して | 契約不適合責任があり、注文者は追完請求・報酬減額請求ができる |
| 労働者派遣 | 客先(派遣先が直接指揮命令をする契約類型) | 雇用契約に基づく賃金 | 派遣先ではなく、雇用主である派遣元の責任 |
表の「指示を出すのは誰か」の列を、図にしたものです。
履行割合型と成果完成型|工数で精算されているかが分かれ目
準委任契約の中にも、実は2種類あります。原則は「履行割合型」と呼ばれる形で、報酬は特約がなければ請求できず、委任事務を履行した後でなければ請求できないとされています(民法第648条)。工数に応じて対価が発生する、いわば時間の積み上げ型です。
もう一つが「成果完成型」で、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う特約がある場合、その成果の引渡しと同時に報酬を請求できます(民法第648条の2)。この成果完成型は、2020年4月施行の民法改正で新しく明文化されました。それまでの準委任は履行割合型が中心で、成果に対する報酬という考え方は条文上あいまいでした。
IPAが公開している情報システムの標準的な契約書のひな形でも、この民法改正を受けて「成果報酬型準委任契約の位置づけ」や「中途解除の場合の報酬請求権の帰趨」が見直しの論点として挙げられています(出典: 情報システム・モデル取引・契約書 第二版|IPA)。
2つのタイプを並べると、次のようになります。
| 履行割合型(原則) | 成果完成型 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法第648条 | 民法第648条の2 |
| 報酬が確定する条件 | 委任事務を履行した後(工数の積み上げ) | 成果の引渡しと同時(特約がある場合) |
| 請負との近さ | 遠い | 近い |
| 日々の実感 | 稼働時間で対価が決まる感触 | 成果物の完成で対価が決まる感触 |
自分の契約がどちらのタイプなのかを知る手がかりは、実は日々の実感の中にあります。
月々の対価が稼働時間の積み上げで決まっている感触があるなら履行割合型寄り、特定の成果物の完成をもって対価が確定する感触があるなら成果完成型寄りだと考えられます。
4社目の私の実感は、次の章で書く作業報告書の運用を見る限り、はっきり履行割合型寄りでした。
契約書がなくても分かる、4社目で気づいた5つの手がかり
ここからが本題です。契約書という一次資料がなくても、日々の運用を観察すれば、契約類型を推測する材料はいくつも見つかります。4社目で実際に気づいたことをもとに紹介します。
A. 月末に出しているのは「工数表」か「検収書」か
4社目では、毎月末に自社の共通フォーマットで作業報告書を作成し、提出していました。中身は日別の稼働時間の一覧と、その月に対応した作業内容を数行でまとめたものです。
フォーマットの列は「日付」「開始・終業時刻」「作業内容」の3つだけで、成果物の名称や検収の可否を記入する欄はそもそも用意されていませんでした。
客先側にも同じ内容を確認してもらう運用でしたが、プロパー担当者がチャットで「確認しました」と一言返す程度で、成果物そのものに対して検収書や受領書のような書類にサインした記憶はありません。
時間の積み上げを申告する書類しか存在せず、成果物の完成を確認する書類がないという状態は、履行割合型の準委任らしさを示す手がかりの一つになります。逆に、月々の成果物ごとに検収書が回ってくるなら、請負や成果完成型の準委任に近い運用だと考えられます。
B. 精算幅(基準時間)の下限が存在すること自体
以前、契約更新のタイミングで営業に精算幅の下限を聞いたことがあります。返ってきたのは次の一言だけでした。
精算幅の下限は、何時間からですか?
140時間からです。
単価そのものには一切触れられませんでした。
正直に言うと、上限が何時間なのか、超過分や下回った分の単価がいくらなのかまでは、この記事を書くために振り返っても分からないままでした。
ただ、下限という考え方が存在すること自体が、稼働時間の多寡によって金額が変動する契約だという証拠になります。仕事の完成そのものに一括で値段がついているなら、下限時間という発想はそもそも出てこないはずです。
在籍していた期間中、月の稼働がこの140時間を下回った月があったかどうかを思い返してみましたが、幸い一度もありませんでした。だからこそ、控除という事態を実感として経験しないまま契約が終わった、というのが正直なところです。
C. リリース後の不具合が「追加の工数」として扱われた
参画から4か月ほど経ったころ、自分が担当していた画面で、入力チェック漏れによる軽微な不具合が本番リリース後に見つかったことがあります。
客先のプロパーからではなく、自社のリーダー経由で「次の工数として来月分に積んでください」という趣旨の指示が来ました。「無償で直してください」と言われることはなく、修正作業も通常の作業と同じように工数計上されています。
もしこれが請負契約で、しかも契約不適合責任の期間内(通知から1年以内)であれば、注文者側は無償の追完を求める権利を持っています。今回はそうならず、普通に工数として積まれたという運用は、準委任らしい対応だったと振り返って感じます。
この手がかりの注意点
これだけで契約類型を断定はできません。客先側がたまたま鷹揚な対応をしただけという可能性も残るからです。
D. 作業の指示が「順序の指示」なのか「使い方の説明」なのか
4社目では、独自の社内フレームワークについて、客先のプロパー社員から次のような説明を何度か受けたことがあります。
このメソッドはこう呼び出さないと動かない、なぜなら内部でこういう処理をしているから。
今日はこの3画面を先に、この2画面は明日でいい。
上は新しいツールの使い方を教えてもらっているという色合いが強く、その日の作業の順番を直接指定されるような指示とは質が違うものでした。下は3社目で、作業の優先順位そのものを客先から直接割り振られたときのものです。それと比べると4社目の説明は明らかに毛色が違います。
指揮命令にあたるかどうかの詳しい線引きは、別の記事で厚生労働省の資料をもとに整理しています。
ここでは深入りしませんが、「誰が」「何を」指示しているのかを普段から意識しておくと、契約類型の推測材料になるだけでなく、偽装請負のような望ましくない状態への気づきにもつながります。
E. 自社の管理者が現場にいるかどうか
4社目には、同じ自社から来ていた別の常駐メンバーが一人いましたが、リーダー職ではなく、自分と同格の担当者でした。自社の管理者という役割の人は、この現場に常駐していません。
以前、業務改善の提案を出したときも、窓口になったのは現場に来ないその自社のリーダーで、返答が来るまでに数日かかりました。決裁の経路が現場の外側にあるという実感は、指示や判断の起点が自社側にあるという建前とも重なります。
別の現場では、自社の人間が自分ひとりだけという配置も経験しています。管理者が現場にいるかどうかは契約類型そのものを決める要素ではありませんが、実務の指揮系統が誰を経由しているかを見る上での手がかりにはなります。
自分の現場で確かめる5つの手がかり
- 月末の提出物が工数表か検収書か
- 精算幅(基準時間)の下限が存在するかどうか
- 不具合対応が無償の修補義務として扱われるか、追加の工数として扱われるか
- 作業の指示が順序の指定なのか、使い方の説明なのか
- 自社の管理者が現場に常駐しているか
これらの手がかりで分かること、分からないこと
ここまで書いてきた5つの手がかりは、あくまで推測材料です。契約類型を法的に確定させる証拠にはなりません。作業報告書の運用も、精算幅の存在も、不具合対応のされ方も、自社と客先の間の合意という契約書の中身を直接示すものではないからです。私自身、4社目の契約が正式に何と呼ばれる契約だったのか、最後まで確定的には分かりませんでした。
それでも、これらの手がかりを積み重ねることには意味があると考えています。1つの手がかりだけでは断定できなくても、複数の手がかりが同じ方向を示していれば、少なくとも「履行割合型の準委任として運用されている可能性が高い」という見立てくらいは立てられます。
もし本当に確定させたいなら、次の2つの手段が考えられます。
- 自社に個別契約書の写しを求めてみる 断られる可能性は高いですが、実際に聞いてみた経験を別の記事で書きました
- 自分に交付されている労働条件通知書と照らし合わせる ただし労働条件通知書は自社との雇用条件を示す書面であって、客先との個別契約の中身そのものを保証するものではありません。この境界線についても、別の記事で詳しく整理しています
断定的な結論を急がず、複数の手がかりを積み重ねて見立てを立てる、という距離感が現実的です。
なお、三次請け・二次請けといった商流の深さと、準委任・請負・派遣という契約類型は、そもそも別の軸の話です。何次請けかを調べる方法と、二重派遣にあたるかどうかを確かめた話は、この記事とは別の切り口として書いています。
準委任だからといって不利とは限らない|651条の任意解除という背景
準委任契約には、もう一つ知っておくといい規定があります。委任は、当事者のどちらからでもいつでも解除できるという規定です(民法第651条)。ただし、相手方に不利な時期に解除したときなどは、損害を賠償する義務が生じます。
SESの契約更新が3か月ごとという短い周期になりがちで、その中で契約が切られやすい背景には、この任意解除という民法の考え方が土台にあるのだろうと私は理解しています。
この任意解除には、もう一つ続きの規定があります。委任が履行の中途で終了したときは、受任者はすでに履行した割合に応じて報酬を請求できるとされています(民法第648条第3項)。
言い換えると、契約が更新されずに途中で終わったとしても、それまで働いた分の対価がまるごと消えるわけではない、という建て付けです。
この報酬請求権の前提
この報酬請求権は自社と客先の間の話であり、私自身が客先に対して直接主張できる権利ではありません。あくまで、自社が客先との間で交渉する際の法的な土台になっている規定だと理解しています。
正直、この規定を知ったときは、自分の立場の不安定さを法律が裏付けているようで、あまりいい気分はしませんでした。ただ、見方を変えれば、この解除のしやすさは、双方にとって身動きの取りやすさでもあります。
現場が合わなければ、自社を通じて次の現場を探す動きも、理屈の上ではそれだけ取りやすいということです。実際には現場を変える主導権の多くは会社側にありますが、契約の建て付けそのものが一方的に不利というわけではありません。
準委任という契約類型そのものを恨むよりも、精算幅や有給の扱いのように、契約の建て付けの中でどう動くかを工夫するほうが、現実的な向き合い方だと今は考えています。
条文を読み直して、変えたこと
この記事を書くために条文を読み直してから、変えたことが一つあります。自分が提出した作業報告書の控えを、提出後も自分のクラウドストレージに残すようにしたことです。
契約類型そのものは変えられなくても、自分が誠実に事務を処理していたという記録を手元に残しておくことは、いざというときの手がかりを増やすことにつながると考えています。
まとめ
SESの客先常駐は準委任契約であることが多いとされていますが、契約書そのものを本人が見る機会は、私の経験した範囲では一度もありませんでした。
それでも、月末の提出物の性質、精算幅の下限の有無、不具合対応のされ方、指示の出どころ、自社の管理者の有無といった、日々の運用の中に契約類型を推測する手がかりは確かに存在します。
大事なのは、これらの手がかりを断定の材料にせず、あくまで見立てを立てるための材料として使うことです。確定させたいなら、個別契約書の写しを求めるか、労働条件通知書と照らし合わせるという次の一手があります。
もし今、自分の契約がどういうものなのか気になっているなら、まずは今月出した書類が「工数を積み上げる書類」なのか「成果物を検収する書類」なのかを、あらためて見直してみてください。そこに、最初の手がかりがあるはずです。




