入場して2週間たっても周りの会話が半分も分からず、「自分だけついていけていないのでは」と焦った経験はないでしょうか。私は4社の客先常駐を経験してきましたが、現場が変わるたびに、最初の1か月の動き方を考え直してきました。

特に3社目は、データ移行チームから保守チームへ担当が変わり、同じ現場なのに立ち上がり方がまるで違いました。今回は、入場後1か月の動き方を週ごとに、実体験を交えてお伝えします。

この記事で分かること

  • 最初の1か月で目指すのは「全部分かる」ではなく「自分の役割の範囲で自走できる」ことだという考え方
  • アカウントや権限が使えるようになるまでの、1週目の過ごし方
  • 仕様書が無い・古い現場で、現物から把握していく手順
  • 質問リストに入れるものと、自分で調べるものの切り分け
  • 営業に何週目に何を伝えるかの基準
目次
  1. SESで新しい現場についていけないとき、最初の1か月で目指すこと
  2. 「全部分かる」を1か月のゴールにしない
  3. 3社目では、同じ現場でも立ち上がりの壁が違いました
  4. 入場1週目|アカウントや権限が来るまでの過ごし方
  5. 権限待ちは珍しくない、だから黙って待たない
  6. 手を動かせない間にやること
  7. 入場2週目|仕様書が無い・古い現場での把握手順
  8. 資料より先に、動いているものを見る
  9. 現物から把握する4つの手順
  10. 移行チームで気づいた、立ち上がりの落とし穴
  11. 入場3〜4週目|最初の小さな作業で自分の型を作る
  12. 最初の1件は、遅くて当たり前と決めておく
  13. レビューの指摘は、そのまま次の型になる
  14. 質問リストに入れるものと、自分で調べるものの切り分け
  15. 聞くか調べるかの基準は「答えの置き場所」
  16. 前任の資料が薄いときは、自力で穴を埋める
  17. 営業に相談する基準|何週目に何を伝えるか
  18. 営業に相談する4つの基準
  19. 週ごとの動きと、営業に伝えること
  20. 伝え方は「事実・期間・やったこと」の3点
  21. まとめ

SESで新しい現場についていけないとき、最初の1か月で目指すこと

まず、「ついていけない」の中身を分けて考えます。最初の1か月で目指す到達点を決めておくと、焦りの正体が見えやすくなります。

結論最初の1か月のゴールは、現場の全体像を理解することではなく、与えられた役割の範囲を一人で回せる状態にすることです。

「全部分かる」を1か月のゴールにしない

入場直後は、飛び交う略語も、システムの全体像も、誰が何を決める人なのかも分かりません。周りは当たり前のように話しているので、全部を理解しないと追いつけない気がしてきます。

しかし、現場の側が新しく入った人に期待しているのは、たいてい全体の理解ではありません。割り当てた範囲の作業が、決められた品質と期限で上がってくることです。

ここを取り違えると、役割に関係のない部分まで読み込んで時間を使い、肝心の作業が遅れます。逆に、役割の範囲に絞れば、1か月でできるようになることはかなり具体的になります。

3社目では、同じ現場でも立ち上がりの壁が違いました

3社目は二次請けの金融系Webサイトの現場で、前半約1年が旧システムから新システムへのデータ移行、後半約1年半が保守改善でした。移行チームでは、自社の人間は私1人でした。

移行チームで私の役割は、手順書に沿ってリハーサルと本番切り替えを実行することでした。保守チームでは、依頼ごとに設計・実装・テストを割り振られます。

この2つで、立ち上がりの壁はまったく違いました。

移行チームに入ったとき

  • 役割は、手順書に沿った移行作業の実行
  • 対象は数百テーブル・数百万件以上
  • 壁になりやすいのは、手順書の読み方と環境・権限
  • 自社の人間は私1人

保守チームに移ったとき

  • 役割は、依頼ごとの設計・実装・テスト
  • 影響範囲の調査に1件あたり半日〜1日
  • 壁になりやすいのは、影響範囲の調査とシステム全体の把握
  • 改修は毎回レビューを受ける
同じ現場でも、チームが変わると「1か月で目指すところ」が変わりました。

移行チームでは、手順書の通りに動かせれば役割を果たせます。保守チームでは、依頼を受けるたびに「どこに影響するか」を自分で調べる必要があります。

つまり、何をもって「ついていけている」とするかは、役割によって決まります。入場したら最初に、自分の役割で一人で回せる状態とは何かを、窓口の人に確認しておくのが近道です。

入場1週目|アカウントや権限が来るまでの過ごし方

ここでは、アカウントが使えるようになる前後の、「手を動かせない時間」の使い方を扱います。入場直後の手続きや書類については、次の記事に書いています。

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権限待ちは珍しくない、だから黙って待たない

環境にログインできない、リポジトリの権限が下りていない、といった状態は、入場直後の現場ではよくあります。申請は自分の手を離れていて、客先や元請けの承認待ちになっていることがほとんどです。

そのとき、待っていること自体を窓口に伝えておくことが大事です。何も言わずに資料を眺めていると、周囲からは「作業を進めている人」に見えてしまい、権限の遅れが気づかれません。

「今日も環境に入れていません。申請は○日に出してもらっています」と、毎日終わりに一言添えるだけで、状況が共有されます。後で営業に相談するときにも、この記録が効いてきます。

手を動かせない間にやること

1週目は、環境に入れなくてもできることを、順番に潰していくのが現実的です。

  1. 体制と窓口を確かめる誰が依頼を出す人で、誰が確認する人で、困ったら誰に聞くのかを、メモに書き出します。
  2. 読める資料を一通り読む手順書、設計書、体制図など、閲覧できるものは全部開きます。理解しようとせず、まず存在と置き場所を知ることを優先します。
  3. 分からない語を書き出す略語、システム名、画面名を、意味を調べる前にまず一覧にします。
  4. 1日の終わりに3行書く今日分かったこと、まだ分からないこと、明日誰に聞くことを残します。

書き出した語は、後で質問リストの元になります。分からない語を一覧にしておくと、後日まとめて確認でき、同じことを何度も聞かずに済みます。1週目に溜めた一覧は、翌週の動きを決める材料です。

入場2週目|仕様書が無い・古い現場での把握手順

環境に入れるようになると、次の壁が来ます。資料が少ない、あるいは資料はあるが実際の動きと合っていない、という状況です。ここでは、現物から把握していく順番を整理します。

資料より先に、動いているものを見る

仕様書が古い現場では、資料から読み始めると、現物との食い違いで混乱します。私は、動いているものを先に見て、そのあとで資料と突き合わせる順番のほうが理解が早いと考えています。

保守改善のWebサイトなら、実際に画面を操作し、どの画面がどの処理を呼んでいるかを追います。移行チームなら、手順書のステップが、どのテーブルのどんなデータを動かしているのかを追います。

3社目の保守チームで使っていたのはObjectWorksというフレームワークで、古さが印象に残っています。資料にも検索にも頼りにくい古い技術ほど、現物の動きを見るのが確実だと考えています。

現物から把握する4つの手順

仕様書が無い、あるいは古い現場で、私が組み立てている順番は次のとおりです。

現物から把握する順番

  1. 画面や処理を実際に動かす操作して、結果を見ます。分かったことは画面名と処理名の対応として書き出します。
  2. 過去の依頼・チケット・変更履歴を読むこの現場で実際に何が改修されてきたかが分かります。仕様書より新しい情報が入っていることが多いです。
  3. 資料と現物のずれを記録するずれは、後で質問リストに入れる候補です。資料を直す権限がなくても、ずれを知っているだけで事故が減ります。
  4. 自分用の対応表を作る画面・処理・テーブルの対応表を、自分のメモとして育てます。これが、1か月後には一番使う資料になります。

過去のチケットは、全部読もうとすると終わりません。自分の担当領域に近いものから数件ずつ読めば、現場で使われている言葉づかいと、改修の進み方がつかめます。

移行チームで気づいた、立ち上がりの落とし穴

ここで、正直に書いておきたいことがあります。移行チームの役割は、手順書に沿った実行でした。決まった手順を実行する役割は、範囲がはっきりしているぶん、自走までの道筋も見えやすいものです。

一方で、後から振り返ると、システム全体の設計や構造の理解は、移行期にはほとんど身につきませんでした。役割の範囲で自走できることと、現場の全体像が分かっていることは、別物だったということです。

結論1か月で自走できるようになるのは、役割の範囲までです。全体像は、意識して取りにいかないと、そのまま薄いまま残ります。

役割の範囲だけで回っている間は、それで困りません。ただ、担当が変わったときや、トラブルで範囲外を見ざるを得なくなったときに、全体像の薄さが効いてきます。

1か月の動きとは別に、余裕ができたら、自分の対応表を少しずつ広げていくことをおすすめします。

入場3〜4週目|最初の小さな作業で自分の型を作る

資料と現物の把握がある程度進んだら、実際の作業に入ります。この時期に大事なのは、成果の大きさより、1件を最後まで通して自分の型を作ることです。

最初の1件は、遅くて当たり前と決めておく

保守チームでは、依頼1件あたりの影響範囲の調査に、半日〜1日かかる現場でした。調査にそれだけかかる現場なら、入ったばかりの人が1件目で周りと同じ速さを出せないのは当然です。

周りと時間を比べて焦るより、1件目の調べ方を手順として残すほうが、次に効きます。

調べた順番、見たファイル、確認したテーブルを、そのままメモに残します。2件目以降は、そのメモを元に進められるので、同じ調査が少しずつ短くなります。

レビューの指摘は、そのまま次の型になる

3社目の保守チームでは、改修のたびにレビューを受けました。指摘は、書き方の癖や見落としの傾向を、客観的に教えてもらえる機会です。

指摘された点は、その場で直すだけでなく、次回の確認項目としてメモに追加します。最初の1か月でこれを続けると、同じ指摘を何度も受けることが減ります。

この時期に作った型は、今も使っています

保守チームで身についた影響範囲の調査の進め方や、リリース手順・証跡の作り方は、4社目の現場でも役立っています。最初の1か月に作った型が、その後の現場にも持ち出せました。

同じ現場に長くいる人は、立ち上がりの頼りになります。3社目の保守の時期には、5年以上いる協力会社の方がいました。資料に載らない「なぜこうなっているか」は、そうした長くいる人に聞くのが一番早いと考えています。

質問リストに入れるものと、自分で調べるものの切り分け

最初の1か月は、質問が際限なく出てきます。全部聞いても迷惑がかかりますし、全部我慢すれば作業が止まります。ここでは、何を質問リストに入れ、何を自分で調べるかの基準を書きます。

この記事では聞くか聞かないかの切り分けに絞り、質問の出しどころや聞き方は次の記事に書いています。

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聞くか調べるかの基準は「答えの置き場所」

私の基準は、答えがどこにあるかです。資料・過去チケット・現物の動きに答えがあるものは、自分で調べます。人の頭の中にしか答えがないものは、質問リストに入れます。

切り分けの目安

種類具体例扱い
資料や現物に答えがあるもの画面名・処理名の対応、過去の改修内容、コードの動き自分で調べる
人の判断が必要なものこの仕様の意図、優先順位、例外の扱い質問リストに入れる
資料と現物が食い違うもの設計書と実際の動作のずれずれを記録して質問リストに入れる
作業を止めているもの権限、環境、承認待ちすぐに窓口へ伝える

「自分で調べる」の上限は、先に決めておくのが現実的です。分からないまま半日以上抱え込むと、作業が止まっている時間を現場が知らないまま過ぎます。

目安は、30分調べて手がかりがなければ質問リストに入れ、そのリストを窓口の人と決めた時間にまとめて確認する、というやり方です。時間は現場の雰囲気で変わるので、1週目に窓口の人に聞いて決めておくとよいと思います。

前任の資料が薄いときは、自力で穴を埋める

引き継ぎ資料が薄い現場では、前任に聞けばよいと考えがちです。ただ、前任がすでに別案件に異動していて、聞ける時間が限られることもあります。

前任への聞き方や、引き継ぎそのものの考え方は、次の記事に書きました。

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最初の1か月は、資料が薄いことを前提に、現物と過去チケットから自分で穴を埋める時間が必要になります。前任の時間が取れる間は、自分で調べても埋まらなかった部分だけを絞って聞くと、相手の負担も抑えられます。

営業に相談する基準|何週目に何を伝えるか

現場の中で解決できることは多いのですが、自社の営業に伝えておくべきこともあります。相談のタイミングと内容を、週ごとに整理します。

結論営業に伝えるのは「辞めたい」ではなく、期間と事実を添えた状況報告です。早めに事実を残しておくほど、対応の選択肢が増えます。

営業に相談する4つの基準

目安は次の4つです。

営業に伝えるかどうかの確認項目

  • 環境や権限が使えない状態が、1週間以上続いているか
  • 資料が無く、聞ける人も限られていて、作業が進められないか
  • スキルシートで伝えていた内容と、実際の担当が大きく違うか
  • 4週目時点で、自分の役割の範囲を一人で回せていないか

どれか1つでも当てはまれば、営業に状況を伝えます。現場の中で頑張る前提でも、伝えること自体は我慢の放棄ではありません。

自社の人間が現場に自分1人だと、現場の空気を知っているのは自分だけになります。私は3社目の移行期がまさにその状態でした。営業は現場の状況を直接見られないため、こちらから事実を出さないと、何も伝わりません。自社の人間が現場に自分1人だったときのことは、次の記事にまとめました。

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週ごとの動きと、営業に伝えること

1か月の動き方を、週ごとの表にまとめます。

週目標主な動き営業に伝えること
1週目体制と資料の置き場を知る窓口の確認、資料の通読、分からない語の一覧化権限待ちが続くなら、日数を添えて報告
2週目現物から全体の地図を作る画面・処理を動かす、過去チケットを読む資料が無い・聞ける人がいない場合の相談
3週目最初の1件を通す影響範囲の調査、実装、レビューの指摘を反映担当が想定と違うと分かった場合の相談
4週目役割の範囲で自走する調査メモの型を使い、2件目以降を進める自走できていない理由と、その期間の報告

伝え方は「事実・期間・やったこと」の3点

伝えるときは、感想ではなく、事実と期間を並べます。「環境に入れたのが入場から8営業日後で、その間は資料の通読と用語の整理をしていた」のように書けば、営業は客先に確認する材料を持てます。

「ついていけません」だけでは、営業は何を動かせばよいか分かりません。何が・いつから・どれくらい止まっているかを添えることで、客先への依頼や、期待値の調整を動かしやすくなります。

私が3社目で担当が移行から保守へ変わったのは、移行プロジェクトが終わったためで、自分の希望ではありませんでした。自分で選べない担当替えでも、役割の範囲を確認し、週ごとに動きを組み立てる手順は同じです。担当や現場が変わっても、1か月の動かし方は使い回せます。

まとめ

新しい現場についていけないと感じたときは、全部を理解しようとせず、自分の役割の範囲で自走することを1か月のゴールに置き直します。そのうえで、週ごとに目標を変えていきます。

最初の1か月で持ち帰ること

  • 入場したら、自分の役割で「一人で回せる状態」が何かを窓口に確認する
  • 権限待ちは、日数を毎日記録して窓口に伝える
  • 仕様書が古い現場は、現物を動かし、過去チケットと突き合わせて対応表を作る
  • 聞くか調べるかは、答えの置き場所で決める
  • 営業には、期間と事実を添えた状況報告として早めに伝える

役割の範囲で自走できるようになっても、全体像の理解は別に取りにいく必要があります。私の移行期はそれが薄いまま過ぎたので、余裕ができた時期に対応表を広げておけばよかったと思っています。

最初の1か月の苦しさは、能力の不足というより、情報と環境が揃っていない状態から来ることが多いものです。週ごとの目標に分けて動けば、何が足りないのかを、自分と周りに説明できるようになります。