2社目では、月40〜60時間の残業をしていました。繁忙期は60〜80時間になる月もあり、残業代は実際の時間に応じて全額が実費で支給されていました。みなし残業の枠はありませんでした。

一方、今の4社目は自社の役職上の管理職で、残業は月20〜40時間ありますが、残業代は出ません。同じSESでも、残業代が出る現場と出ない立場の両方を経験したことになります。

SESエンジニアとして5年ほど働いてきて、客先への請求側の仕組みは今でも全部が分かっているわけではありません。今回は、SESで残業代が出ないと言われる理由がどこにあるのかを、労働時間が二重に管理される構造と、契約側にある精算幅という仕組み、管理職の扱いに、労働基準法や厚生労働省の資料で確認できる制度の線引きを重ねて整理します。

この記事で分かること

  • 客先の記録と自社への申告が別物になっている、勤怠の二重管理の仕組み
  • 「残業代が出ない」の5つの類型と、私の2社目・4社目がどれに当たるか
  • 2社目の月40〜60時間の残業が、全額実費で支給された給与の形
  • 自己申告制の勤怠に、国のガイドラインが求めていること
  • SESの契約にある「精算幅」という仕組みと、単価が何時間ぶんの金額なのか
  • 固定残業代が有効になるための要件、割増率、管理監督者、賃金の時効
  • 自分の残業がどこへ行ったのかを確かめる4つの手順と、相談先
目次
  1. SESで残業代が出ない理由は、労働時間が二重に管理されていることです
  2. 「残業代が出ない」は、実は5つに分かれます
  3. 月40〜60時間の残業は、2社目で全額実費支給でした
  4. 残業代が出る現場でも、請求側は見えません
  5. 自己申告制は認められていますが、条件があります
  6. なぜ月末にまとめて入力することになるのか
  7. 契約の側にある「精算幅」という仕組み
  8. 年間単価490万円は、何時間ぶんの金額だったのか
  9. 上限を超えれば客先の負担も増えるはずですが
  10. 固定残業代は、条件を満たさなければ有効になりません
  11. 管理職だと残業代は出ないのか
  12. 月60時間を超えると、割増率が変わります
  13. 月40〜60時間は、平均と比べてどうなのか
  14. 未払いの残業代は、あとから請求できるのか
  15. 自分の残業がどこへ行ったのかを確かめる4つの手順
  16. ずれが見つかったときの相談先
  17. 残業代が出る・出ないは、制度と立場で決まります
  18. まとめ

SESで残業代が出ない理由は、労働時間が二重に管理されていることです

結論労働時間の記録が客先と自社の二か所に分かれていて、給与計算に使われるのが自己申告のほうだからです。両者を突き合わせる人が、本人以外にいません。

残業代が消えるとしたら、その入り口は労働時間の記録が二か所に分かれていることです。客先の側には、入館証の記録と日々の作業報告があります。何時に入って何時に出たか、その日どの作業に何時間かけたかが、客先のフォーマットで残っています。

一方、自分の給与を計算するのに使われるのは、自社の勤怠システムに入力した数字です。そしてこの2つは、連動していないことがあります。客先には実態が記録されているのに、給与に反映されるのは別の数字のほう、という状態になり得ます。

客先側の記録自社側の申告
内容入退館時刻、日々の作業報告勤怠システムへの自己入力
正確さ実態がそのまま残る記憶に依存し、月末にまとめて入力することもある
使われ方客先の稼働管理・請求の根拠自社の給与計算の根拠
突き合わせ契約の窓口担当と営業の間で行われることはある本人以外に照合する人がいない

この構造は、現場での働きぶりが自社に伝聞でしか届かないのとよく似ています。常駐という働き方では、現場で起きている事実と、自社の手元にある情報が、そもそも別々に存在しています。

「残業代が出ない」は、実は5つに分かれます

一口に残業代が出ないと言っても、中身は同じではありません。まず、働いた時間に対する割増賃金は労働基準法37条で定められていて、時間外労働には25%以上、深夜(22時から5時)には25%以上、法定休日には35%以上の割増が必要とされています(出典: 時間外・休日労働と割増賃金|確かめよう労働条件(厚生労働省))。

この前提のうえで、現場で聞く「出ない」を分けると、次の5つに整理できます。

類型何が起きているか私の場合
① 固定残業代の範囲内残業がみなし時間に収まっていて、追加分が発生していない2社目はみなし残業がなく、該当しません
② 申告していない実際には残っているのに、勤怠上は残業がない扱いになっている2社目・3社目は残業が実費で支給されており、該当しません
③ 申請を受け付けてもらえない申告したのに、承認されない・減らされる2社目・3社目は実費で支給されており、該当しません
④ 残業禁止と言われる残業は認めないとされているが、作業は終わらないこの記事では扱いません
⑤ 管理職として対象外にされている役職を理由に、時間外・休日の割増賃金が支給されない今の4社目が、この扱いです

①は、みなし時間の中に収まっている限りは追加がなくても不思議ではありません。問題になるのは、その時間を超えたあとです。厚生労働省のQ&Aでも、固定残業代が法定の計算額に足りなければ差額を支払う必要があり、みなし時間を超えた分は追加で支払う必要があるとされています(出典: 固定残業代を支払えば別途の残業代は不要か|スタートアップ労働条件(厚生労働省))。

②は制度の問題というより、記録の問題です。③と④は、法令に違反しているかどうかが個別の事情で変わるので、私は断定できません。該当しそうな方は、記事の終わりに書いた相談先を使うのが確実です。

⑤は、後半の「管理職だと残業代は出ないのか」の節で書きます。

月40〜60時間の残業は、2社目で全額実費支給でした

具体的な話に入ります。2社目では、月40〜60時間の残業をしていました。繁忙期は60〜80時間になる月もありました。

給与の側の構成は、基本給と手当に、実際の残業時間に応じた残業代が全額実費で上乗せされる形でした。固定残業代(みなし残業)の枠はなく、働いた時間のぶんがそのまま支給されます。額面月収は平均で約30万円(28〜32万円の範囲)で、この中に残業代が含まれています。

実際の残業(平均)40〜60時間月あたり
一番多かった月60〜80時間
固定残業代の枠なし全額が実費支給

2社目の残業時間と、残業代の扱い。

3社目も、残業は平均で月20時間ほどで、実費で支給されていました。残業代が出なかったのは、4社目で管理職になってからです。

残業代が出る現場でも、請求側は見えません

自分の残業代が給与として支給されていることと、客先への請求にどう乗っているかは、別の話です。給与の側は自社の就業規則と給与明細で確かめられますが、請求の側は契約書を見ない限り分かりません。

次の節以降で、請求の側にある精算幅を整理します。

自己申告制は認められていますが、条件があります

自己申告で勤怠を出すこと自体が、直ちに違法というわけではありません。客先常駐では、自社が常駐先の入退館記録を持っているとは限らないので、本人の申告に頼るのは自然な運用でもあります。

ただ、国は自己申告を無条件に認めているわけではありません。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月策定)では、労働時間は使用者が自ら確認するか、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間といった客観的な記録で把握するのが原則とされています(出典: 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省)。

自己申告制はあくまで例外の扱いで、これを採る場合は使用者に次の対応が求められます。

  • 労働者に、実態に合った時間を正しく申告するよう十分に説明すること
  • 勤怠を管理する側の人にも、自己申告制の適正な運用を説明すること
  • 申告できる残業時間に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置をしないこと

さらに、使用者が入退場記録やパソコンの使用時間のデータを持っていて、自己申告との間に著しい乖離があるときは、実態を調査して労働時間を補正することも求められています(出典: 労働時間の適正な把握方法について|確かめよう労働条件(厚生労働省))。

ここで気をつけたいのは、客先の入退館記録を自社が持っているとは限らない点です。ガイドラインが想定する突き合わせが、常駐の形ではそもそも成り立たないことがあります。

問題は、その申告が実態とずれたときに、誰も気づけないところにあります。客先には正しい記録があり、自社には過少な申告がある。両者を突き合わせる人がいないので、ずれたまま給与計算まで通ってしまいます。

なぜ月末にまとめて入力することになるのか

日々つけるのが難しい理由には、面倒だったという以上のものがあります。常駐先の端末から自社の勤怠システムに入れないことがあるからです。

客先から支給される端末は、業務に必要なサイトしか開けないように制限されていることがあります。自社のクラウドサービスは業務に必要なものとは見なされないので、当然そこに含まれません。私物のスマートフォンで入力することも、執務エリアへの持ち込みが制限されていれば難しくなります。

結果として、自社の勤怠は帰宅してから自宅の端末で入れるか、自社に立ち寄ったときにまとめて入れるかのどちらかになります。

この制約は、働く場所や環境が客先のルールで決まることの副作用の一つです。制度としては日々入力が正しいのに、環境がそれを支えていない。運用が現場の実態に合っていないと、ずれは個人の意欲の問題として現れます。

契約の側にある「精算幅」という仕組み

給与の話とは別に、請求の側にも仕組みがあります。SESの契約では、月あたりの稼働時間に幅を設けるのが一般的です。精算幅とか基準時間と呼ばれるもので、たとえば140時間から180時間、といった形で決められます。

この幅の中に収まっていれば、稼働時間が何時間でも請求額は単価どおりです。上限を超えれば超過分が時間単価で加算され、下限を割れば控除される。残業した分が客先への請求に反映されるかどうかは、この上限を超えたかどうかで決まります。

年間単価490万円は、何時間ぶんの金額だったのか

2社目では、リーダーや営業から、自分の単価を年間490万円(4月の更新後は530万円)だと聞いていました。ただ、聞けたのは金額だけです。精算幅が何時間から何時間なのか、上限を超えたときの超過単価がいくらなのかは、聞けていません。

契約書を見られる立場でもありませんでした。常駐しているメンバーが自社と客先の間の契約書を見る機会は、少なくとも私にはありませんでした。

だから、あの月40〜60時間の残業が超過精算として請求に乗っていたのか、それとも年間単価の中に最初から織り込まれていたのかを、私は今も知りません。自分の労働時間がどこに換算されたのかを確かめる手段が、当時の自分にはなかったということになります。

還元率の計算には、入れられていない変数があります

単価と手取りの記事では、年間単価490万円と額面月収をもとに、還元率を月次で約73%、年収ベースで約88%と計算しました。ただ、その計算には超過精算という変数が入っていません。

もし月40〜60時間の残業が超過分として別途請求されていたなら、会社が受け取っていた額は単価より多く、還元率はあの数字より低くなります。単価を聞いただけでは、実は還元率は確定しません。

上限を超えれば客先の負担も増えるはずですが

精算幅の仕組みを知ってから、一つ腑に落ちない点が残りました。上限を超えれば客先が払う額も増えるのだから、客先の側にも稼働を抑える動機があるはずだ、という点です。

実際には、残業が減らない現場があります。考えられる説明は2つあります。

考えられる説明現場で起こり得ること
客先が残業の抑制より期限を優先していた期限が動かない前提で作業が積まれる現場では、残業を減らすという選択肢が議題に上がりにくくなります。費用が増えることより、期限を落とすことのほうが問題として大きく扱われます
稼働が精算幅の上限に届いていなかった上限が180時間だとすると、所定労働時間が160時間前後の月なら、残業20時間ぶんは幅の中に収まります。40〜60時間の残業のうち、実際に超過精算の対象になったのは一部だけだったのかもしれません

どちらだったのかは、私には分かりません。ただ、幅の中の残業は請求額を1円も動かさないという点は押さえておく価値があります。自分の残業が客先の負担になっているとは限らず、その場合コストを負っているのは自社と自分だけになります。

固定残業代は、条件を満たさなければ有効になりません

制度の側にも、見ておくべき線があります。固定残業代は、どんな形でも有効になるわけではありません。

一般的な枠組みとして、固定残業代が有効とされるための要件は次の2つです。

固定残業代が有効とされるための主な要件

  1. 残業代の部分が判別できる残業代にあたる部分と、それ以外の通常の労働時間の賃金の部分とが判別できることが必要とされています。
  2. 時間外労働の対価としての性質を持っている雇用契約書の記載、会社からの説明の内容、実際の勤務状況などから総合的に判断されます。実際の労働時間と大きくかけ離れた時間設定は、対価性を否定する理由になり得るとされています(出典: 固定残業代が有効とされるための要件は?|西宮原法律事務所)。

この2つの要件は、最高裁の判決でも示されています。

  • 平成29年(2017年)7月7日、最高裁第二小法廷 年俸に割増賃金を含める合意があっても、割増賃金にあたる部分が判別できなければ、その合意で支払ったことにはならないとして審理を差し戻しました(出典: 医療法人社団康心会事件|労働新聞社)
  • 平成30年(2018年)7月19日、最高裁第一小法廷 雇用契約書などの記載から、業務手当が時間外労働の対価として支払われていたと認めています(出典: 日本ケミカル事件|労働新聞社)

つまり、固定残業代の名前がついていれば有効、とはなりません。契約書や給与明細で、何のための、いくらの手当なのかが確認できるかどうかが分かれ目になります。

求人の段階でも、固定残業代を採用する場合は、若者雇用促進法に基づく指針で次の3点を明示するよう求められています(出典: 固定残業代の明示に関する資料(厚生労働省 職業安定局))。

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数と金額などの計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金を追加で支払う旨

SESの求人でも、額面だけが大きく書かれていて、固定残業代が何時間ぶん含まれているのか分からない例は見かけます。求人票の時点でこの3点が読み取れるかどうかは、会社を選ぶときの判断材料になります。

私の2社目の給与には固定残業代がなく、残業は実費で支給されていたので、この要件に照らして問題になる場面はありませんでした。固定残業代がある会社に入るときや、給与明細を見るときの確認材料として整理しています。

関連記事SESの給与明細の見方と手取り|単価が高くても増えない人が確認する6項目SESの給与明細の見方を、手取りが決まる順に6項目で整理します。勤怠欄・基本給と時間外手当・各種手当・社会保険料・住民税・源泉所…

固定残業代について、自分の契約で確認しておきたい点

  • 固定残業代の金額と、それが何時間ぶんなのかが、契約書や給与明細で分けて書かれているか
  • その時間数を超えた分を別途支払う旨が、契約書または就業規則に書かれているか
  • 設定されているみなし時間が、実際の残業時間とかけ離れていないか

管理職だと残業代は出ないのか

結論役職が管理職でも、労働基準法で残業代の対象外になる「管理監督者」に当たるかどうかは、肩書ではなく実態で判断されます。

私は4社目で、現場に入って数か月後に、自社の役職上の管理職になりました。それ以降、残業は月20〜40時間ありますが、残業代は支給されていません。

労働基準法41条2号は、監督または管理の地位にある者(管理監督者)には、労働時間・休憩・休日の規定を適用しないとしています。これが、管理職の残業代が出ない法的な根拠として語られることが多い規定です。

ただ、厚生労働省の通達では、管理監督者に当たるかどうかは、役職の名称ではなく、職務内容・責任と権限・勤務態様・待遇などを総合して判断するとされています(出典: 多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について|厚生労働省)。この通達は小売・飲食の店舗を対象にしたものなので、そのままIT業界の管理職に当てはまるとは言えません。ここでは、役職名だけでは決まらないという考え方の参考として挙げています。

自社の役職上の管理職が、管理監督者に当たるかを考える観点

  • 職務内容・責任と権限: 経営者と一体的な立場で、労務管理や人事に実際に関与しているか
  • 勤務態様: 出退勤や働き方を、自分の裁量で決められるか
  • 待遇: 残業代が出ない分を補うだけの賃金・手当が支給されているか

私の場合、この観点に当てはまるかどうかは、この記事では判断しません。また、管理監督者であっても、深夜(22時から5時)の割増賃金は対象になります。

役職がついたことで残業代が出なくなるときは、賃金の総額がどう変わったかを確認しておくのが現実的です。

月60時間を超えると、割増率が変わります

もう一つ、金額に直接効く話があります。時間外労働が月60時間を超えた部分については、労働基準法37条により割増賃金率が50%以上になります。この扱いは以前は大企業だけが対象でしたが、2023年(令和5年)4月1日から中小企業にも適用されています(出典: 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は50%以上で|山口労働局)。

割増率を並べると、次のとおりです(出典: 時間外・休日労働と割増賃金|確かめよう労働条件(厚生労働省))。

区分割増賃金率
時間外労働(法定労働時間を超えた分)25%以上
深夜労働(22時から5時)25%以上
法定休日の労働35%以上
時間外労働が月60時間を超えた部分50%以上

固定残業代のみなし時間が、このうちどの割増ぶんまで含んでいるのかも、契約書で確かめる価値があります。

私の2社目は、60時間の境界を超える月がありました

2社目の残業は平均で月40〜60時間、一番多かった月は60〜80時間でした。60時間を超えた月があったことになります。中小企業への50%以上の割増率の適用は2023年4月からなので、時期によって扱いが変わる部分です。

多重下請けの下流にいると、稼働時間を自分で決めにくいことがあります。だからこそ、境界を超えたときに何が変わるのかは、知識として持っておく価値があると考えています。

自分の月の残業時間が今どのあたりにあるのかを把握していなければ、超えたことにすら気づけません。

月40〜60時間は、平均と比べてどうなのか

自分の残業が世間の水準から見て多いのか少ないのかは、数字で確かめておく価値があります。厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年・令和7年の確報、事業所規模5人以上)で、1か月あたりの所定外労働時間を見ると、次のようになっています(出典: 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報|厚生労働省)。

情報通信業調査産業計
就業形態計15.8時間9.8時間
一般労働者16.5時間13.2時間

情報通信業は全産業の平均より所定外労働が長いものの、一般労働者でも月16.5時間です。2社目の月40〜60時間は、この16.5時間のおよそ2.5倍から3.5倍にあたります。

ただし、この数字は情報通信業全体の平均で、SESに限った統計ではありません。月ごとの偏りもならされているので、自分の残業が極端だったかどうかの目安に使う程度が適切です。

残業の長さそのものを縛る36協定の側の話は、別の記事で詳しく書いています。

関連記事SESの36協定と残業上限|客先の残業指示は断れるかSESの残業に36協定の上限はあるのか。月40〜60時間残業が続いた三次請け現場の実体験から、上限の数え方と休日労働の扱い、客先…

未払いの残業代は、あとから請求できるのか

結論請求できるかどうかは、個別の事情で変わるので断定できません。ただ、賃金の請求権には時効があり、時間がたつほど不利になることは確かです。

賃金請求権の消滅時効は、労働基準法115条では5年とされていますが、附則143条3項により当分の間は3年です。2020年4月1日以降に支払期が来る賃金が対象で、割増賃金も含まれます(出典: 賃金請求権の消滅時効はどのように変更されたのか|確かめよう労働条件(厚生労働省))。

つまり、支払期から3年がたった分は、請求が難しくなる時期に入ります。残業の記録が手元になければ、そもそも請求の入り口に立てません。

請求できるかは、この記事では断定できません

未払いの残業代を会社に請求できるのか、できないのかは、契約の内容や、実際の労働時間を示す記録の有無で結論が変わります。この記事では判断できません。

はっきり言えるのは、記録が手元にあれば相談の入り口に立てるということと、時効があるため放置するほど不利になる、ということです。

在籍中から、残業の記録を残す習慣を持っておくほうが、制度の理解より先に効いてきます。

自分の残業がどこへ行ったのかを確かめる4つの手順

構造の話をここまで書いてきましたが、現場のメンバーにできることはあります。

  1. 契約書と給与明細で、固定残業代の時間数と金額を確認する分けて書かれていなければ、そもそも判別可能性の要件が怪しくなります。まずここを見ます。
  2. 超過分を別途支払う旨の記載を探す契約書か就業規則のどちらかにあるはずです。見つからなければ、自社の担当者に確認します。
  3. 客先の作業報告と自社の勤怠を、同じ月で突き合わせるこの2つがずれていたら、ずれを直せるのは自分です。誰も照合してくれないので、自分でやるしかありません。
  4. 営業に精算幅を聞く私は単価の金額までは聞けましたが、精算幅は聞けていません。自分の稼働が上限に近いのかどうかが分かるだけでも判断が変わります。

3つ目が一番大事だと考えています。客先には正確な記録があるのですから、月末に照らし合わせれば、自分が申告した時間とのずれはすぐ分かります。

4つ目については、聞いてみる価値があると思っています。精算幅は自分の稼働の目安に直結する話なので、確認したい理由を説明しやすい項目だと考えています。聞いて断られたとしても、断られたという事実自体が一つの情報です。

1つ目と2つ目を確かめるときは、給与明細だけでなく、入社時の雇用契約書や労働条件通知書も手元に出しておくと早く済みます。

ずれが見つかったときの相談先

手順を踏んで、給与や固定残業代の扱いに疑問が残った場合は、社内で抱え込まずに外の窓口を使えます。厚生労働省の案内では、賃金の不払いなどの申告先は労働基準監督署で、法違反かどうか分からない段階の相談は総合労働相談コーナーで受け付けています(出典: 労働基準行政の相談窓口|厚生労働省)。

夜や休日にしか動けない人には、電話の窓口もあります。

  • 労働条件相談ほっとライン 0120-811-610。平日17時から22時、土日祝日は9時から21時。匿名でも相談できます(出典: 労働条件相談「ほっとライン」|厚生労働省)
  • 総合労働相談コーナー 法違反かどうか分からない段階の相談先です
  • 労働基準監督署 賃金の不払いなどの申告先です

相談に行くときは、雇用契約書、給与明細、そして客先の作業報告と自分のメモがあると話が早く進みます。記録があるかどうかで、聞いてもらえる中身の深さが変わるからです。

残業代が出る・出ないは、制度と立場で決まります

2社目では全額実費で残業代が支給され、4社目では管理職として出ない。同じSESでも、結果が分かれました。

分けているのは、本人の努力や働きぶりではなく、固定残業代の有無や、役職の扱いといった、契約や制度の側の条件です。そのうえで、勤怠の記録が客先と自社で別々に存在し、突き合わせる人が本人以外にいないという構造が、どの立場でも土台にあります。

残業代が出る現場でも、請求の側は見えません。出ない立場にいるときは、役職の中身と賃金の総額を確かめる必要があります。どちらの場合も、確認の入り口は、契約書・給与明細・客先の作業報告という手元の記録です。

まとめ

SESで残業代が出ない理由の入り口は、労働時間の記録が客先と自社で二か所に分かれていて、給与計算に使われるのが自己申告のほうだという点にあります。客先には実態が残っているのに、それを突き合わせる人が本人以外にいません。

  • 2社目は、月40〜60時間の残業が全額実費で支給された 繁忙期は60〜80時間の月もありました。固定残業代の枠はなく、働いた時間のぶんがそのまま支給されました
  • 4社目は、管理職で残業代が出ない 自社の役職上の管理職ですが、労働基準法上の管理監督者に当たるかどうかは、役職名ではなく職務内容・権限・勤務態様・待遇で判断されます
  • 請求の側は、今も分からないまま 精算幅も超過単価も確認できていないので、あの残業が客先への請求に乗っていたのかを確かめる手段がありませんでした。単価を聞いただけでは還元率は確定しない、というのが今回整理して分かったことです
  • 制度の側にも、確認できる線引きがある 固定残業代は金額と時間数が判別でき、超過分は追加で支払う必要があります。月60時間を超えた部分の割増率は50%以上で、賃金の請求権には3年の時効があります

同じ状況にいる方に一つ勧めるとしたら、今月ぶんの客先の作業報告と自社の勤怠を並べてみてください。数字が合っていないなら、まずそこを確かめるのが先です。制度の是非を検討するのは、自分の記録が実態と一致してからでも遅くありません。