「契約書、見せてもらえますか」。今の現場に参画してしばらく経ったころ、そう営業に聞いたことがあります。

返ってきたのは、少し困ったような「それはちょっと難しいですね」という一言でした。SESエンジニアとして5年ほど、4社ほどの客先常駐を経験してきましたが、自社と客先の間で結ばれている個別契約書を、自分の目で見たことは一度もありません。

今回は、今の現場で実際に受け取った書面をもとに、本人が見られる書類と見られない書類の境界線を整理します。派遣で使われる「就業条件明示書」との違いも、あわせて押さえておきます。

この記事で分かること

  • 個別契約書(会社間の書面)と労働条件通知書(本人に交付される書面)は別物だという整理
  • 派遣の就業条件明示書との違いと、手元の書面の名前で見分けられること
  • 今の現場で実際に受け取った労働条件通知書に、何が書かれていたか
  • 2024年4月の労基法改正で新しく増えた「変更の範囲」という項目
  • 契約期間や更新のことを、自分がどこで初めて知ったか
  • 営業に個別契約書を見せてほしいと聞いた結果と、そこから分かる確認の仕方
目次
  1. SESの個別契約書、本人はどこまで見れるのか
  2. 個別契約書と労働条件通知書は別物です
  3. 派遣の就業条件明示書とは?SESの労働条件通知書との違い
  4. 就業条件明示書のフォーマットはどこで見られる?
  5. 今の現場で受け取った労働条件通知書の中身
  6. メンター期間中に届いたPDFと、そこに書かれていたこと
  7. 2024年4月の改正で増えた「変更の範囲」欄
  8. 2024年4月改正で追加された4項目
  9. 契約期間や更新のことは、どこで初めて知ったか
  10. 3か月ごとの更新のたびに、労働条件通知書は届いていません
  11. 共有フォルダの中も一応探してみました
  12. 個別契約書を見せてほしいと営業に聞いてみた
  13. なぜ個別契約書を本人に見せない運用になっているのか
  14. 基本契約と個別契約、注文書の流れをどう理解しているか
  15. 本人の手元にある書類には、結局金額が出てきません
  16. 本人として確認できること・できないこと
  17. よくある疑問
  18. 個別契約書は請求すれば見せてもらえますか
  19. 労働条件通知書がもらえないときは、どうすればいいですか
  20. 労働条件通知書は、メールやPDFで受け取ってもよいですか
  21. 就業条件明示書のフォーマットに、決まった様式はありますか
  22. まとめ

SESの個別契約書、本人はどこまで見れるのか

結論見られませんでした。個別契約書は会社間の書面で、本人に見せる義務がないからです。

私がこれまで経験してきた4社の客先常駐で、自社と客先の間の個別契約書そのものを見せてもらえたことは一度もありません。単価は各現場のリーダーや営業から聞いたことがありますが、それも口頭で数字を伝えられただけで、契約書の現物を手にしたわけではありませんでした。

その単価の話は、別の記事にまとめています。

関連記事SESの単価490万円で手取りはいくら?額面月収30万・手取り23万の内訳SESの2社目で聞いていた年間単価490万円(更新後530万円)に対し、額面月収は平均30万円、手取りは約23万円。単価と月収の…

SESの客先常駐は、多くの場合、自社と客先(または間に入る元請け)との間で結ばれる基本契約と、その都度の業務内容・期間・金額を定める個別契約という、2段構えの契約で成り立っています。個別契約は契約更新のたびに結び直されるのが一般的で、私の経験では3か月ごとの更新が最も多い形でした。

この個別契約書は、あくまで会社と会社の間で交わされる書面です。常駐しているメンバー本人がその原本を見る機会は、少なくとも自分の経験した範囲では設けられていません。

残業代の記事でも書いたとおり契約書を見られる立場に置かれたことは一度もなく、面談の場でも契約の当事者になったことはありません。

個別契約書と労働条件通知書は別物です

ここで整理しておきたいのが、「契約書」と一括りにされがちな書面の中に、性質の違う2種類が混ざっているという点です。1つは今書いた個別契約書、もう1つが、労働基準法第15条に基づいて、雇い主である自社が本人に必ず交付しなければならない労働条件通知書です。

個別契約書は自社と客先の間の書面なので、本人に見せる義務がそもそもありません。一方、労働条件通知書は本人に対して交付が義務付けられている書面です。

本人が法的に見る権利を持っているのは、個別契約書ではなく労働条件通知書のほうだという線引きは、この2つを混同していると見えてきません。私自身、この違いをはっきり意識したのは、今の現場に参画してからでした。名前も中身もどこか似ているので、この違いを知るまでは自分もこの2つを漠然と同じものだと思っていました。

客先と自社の間にあるのが個別契約書、自社から本人に交付が義務づけられているのが労働条件通知書。就業条件明示書は派遣労働者だけが対象

書面ごとに、誰と誰の間のものかが違います。

派遣の就業条件明示書とは?SESの労働条件通知書との違い

結論から言うと、就業条件明示書は派遣労働者だけが対象の書面です。SESの準委任なら、手元に届くのは労働条件通知書のほうです。

「個別契約書 見れない」と調べていると、労働条件通知書のほかに「就業条件明示書」という書面の名前がよく出てきます。私も最初は同じものだと思っていました。

就業条件明示書は、労働者派遣法第34条に基づいて、派遣元が派遣労働者に、派遣就業を始める前に明示する書面です(出典: 労働者派遣法|e-Gov法令検索)。派遣する旨や、第26条第1項に定められた派遣先・業務内容などの事項、抵触日の通知などを伝える役割があります。

労働条件通知書は労働基準法第15条にもとづき全労働者が対象で、就業条件明示書は派遣法にもとづき派遣労働者だけが対象です。

個別契約書労働条件通知書就業条件明示書
誰から誰へ自社と客先(会社間)雇い主から本人派遣元から派遣労働者
根拠契約自由の原則に基づく会社間の商取引労働基準法第15条・同施行規則第5条労働者派遣法第34条
主な中身業務委託の内容、契約金額、契約期間、精算幅など就業場所、業務内容、賃金、雇用契約の期間、変更の範囲など派遣先、抵触日、苦情処理など派遣就業の条件
対象会社どうし(本人への交付義務なし)全ての労働者派遣労働者のみ

SESの準委任契約は、原則として派遣ではありません。そのため就業条件明示書の対象外で、私の手元に届いたのも労働条件通知書でした。つまり、手元の書面の名前は、自分がどちらの契約形態で働いているかを見分ける手がかりになります。

もし準委任のはずなのに就業条件明示書が届いた、あるいは客先から日々の作業を直接指示されている、という場合は、契約の実態を確認するきっかけになります。違法と決めつける話ではなく、準委任と請負・派遣の違いや二重派遣の見分け方を読んで、自社の人事や営業に聞いてみる材料にするのが現実的だと思います。

関連記事SESの準委任契約とは|請負・派遣との違いと契約の確かめ方SESの準委任契約とは何か。契約書を本人が見られない立場から、請負・労働者派遣との違い、履行割合型と成果完成型の違いを、4社目の… 関連記事SESの二重派遣とは|違法になる条件と罰則を三次請けで検証三次請けのSESで働く中で、自分の契約が二重派遣にあたるのか気になり、職業安定法の定義・罰則、多重下請けとの違いに照らして検証し…

就業条件明示書のフォーマットはどこで見られる?

就業条件明示書のフォーマットを探している方も多いと思います。私は派遣で働いたことがないので、現物は持っていません。ここにひな形は載せません。

公的な見本としては、労働局が記載例を公開しています。たとえば山口労働局の就業条件明示書の記載例(PDF)があります。私はこのPDFの中身を細かく確認できていないので、詳しい記載事項は各労働局や厚生労働省の案内を見てください。

労働条件通知書のほうは、厚生労働省がモデル様式(一般労働者用)を公開しています。

今の現場で受け取った労働条件通知書の中身

今の現場は、もともと週1出社の予定で、最近はほぼフル在宅の案件で、参画後の2週間はメンター役の先輩社員がついてくれました。最初の2週間は毎日30分の1on1があり、その後は頻度が週1回に落ち着いています。契約書まわりの話が動いたのは、ちょうどこのメンター期間の中でした。

メンター期間中に届いたPDFと、そこに書かれていたこと

参画3日目、自社の人事担当からメールでPDFが届きました。件名は「労働条件通知書のご送付」というそっけないもので、添付されていたのは4ページほどの書面です。その場ですぐには読まず、その日の1on1が終わってから目を通しました。

書かれていたのは、契約期間(自社の正社員としては期間の定めなし)、就業の場所、従事すべき業務の内容、賃金、始業・終業の時刻、休日といった項目でした。

就業の場所:会社が指定する事業所における常駐勤務を含む

業務の内容:業務システムの保守・改修業務(Java、TypeScript等を使用)

私が受け取った労働条件通知書の記載(要旨)。客先の名前は伏せられた表現でした

そのほかの項目にも一応目を通しました。賃金は月給制で、固定残業代を含む場合はその時間数と金額を分けて明示する旨、昇給・賞与は「会社の定める時期に、業績等を勘案して行う」という決まり文句のような一文です。

社会保険への加入、退職に関する事項(自己都合退職の申し出期限、解雇事由に該当する場合の扱い)も、他社で見てきたものと大きく変わらない書きぶりで並んでいました。目新しさで言えば、正直このあたりまでは特にありません。

ここまで読んで気づいたのは、この書面のどこにも、個別契約書に書かれているはずの契約期間や更新の条件、精算幅といった項目が出てこないということでした。労働条件通知書が定めているのは、あくまで自社と自分の間の雇用条件です。客先との間で結ばれている個別契約の中身は、この書面が扱う対象そのものが違うのだと、読みながら理解しました。

2024年4月の改正で増えた「変更の範囲」欄

書面の後半に、見慣れない項目がありました。「就業の場所(変更の範囲)」「業務の内容(変更の範囲)」という欄です。メンターの先輩に聞いてみたところ「前はこの欄なかった気がします、たしか法律が変わったはずです」という答えが返ってきました。

調べてみると、2024年4月から労働条件明示のルールが変わり、労働基準法施行規則第5条に基づく明示事項に、将来の配置転換などによって就業場所・業務内容がどこまで変わり得るかを示す「変更の範囲」が追加されていました(出典: 2024年4月から労働条件明示のルールが変わります|厚生労働省)。

今の現場に参画したタイミングがちょうどこの改正の後だったので、自分が受け取った書式にはこの欄が最初から入っていたことになります。

私の書面の書き方

この欄には「会社の定める事業所」「会社の定める業務」という、かなり広い書き方がされていました。将来また別の客先に移る可能性まで含めて書かれている、という理解です。

個別契約書そのものは見られなくても、この欄を読むだけで、自分の働く場所や業務が今後どこまで動き得るかという大枠は、本人でも確認できるようになっていたわけです。

2024年4月改正で追加された4項目

先ほどの厚生労働省のページを読み直すと、2024年4月の改正で増えたのは「変更の範囲」だけではありませんでした。追加された明示事項は、次の4つです。

追加された明示事項対象・明示のタイミング
①就業場所・業務の変更の範囲全ての労働契約の締結時と、有期契約の更新のたびに明示が必要
②更新上限の有無と内容有期契約が対象。通算の契約期間または更新回数の上限
③無期転換申込機会無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、申し込める旨の明示が必要
④無期転換後の労働条件②③と同じく、有期契約の更新時が対象

②〜④は、有期契約で働く人に関わる項目です。私のように自社と無期雇用で結ばれているSESエンジニアなら、この3つは関係がないことが多いと思います。

一方、①は無期雇用でも必ず入る項目です。SESは客先が変わる働き方なので、労働条件通知書を受け取ったら「変更の範囲」欄を最初に読むのが、今の私の見方です。

有期雇用のSESの方は、更新のたびに②〜④の明示があるかどうかも確認してみてください。詳しい対象や時期は、厚生労働省のルール変更ページにリーフレットやQ&Aがまとまっています。

契約期間や更新のことは、どこで初めて知ったか

結論営業とのやり取りの中でだけです。労働条件通知書にも、現場の先輩の記憶にも載っていませんでした。

労働条件通知書を読んでも分からなかったのが、客先との契約が何か月ごとの更新なのか、という点です。この情報がどこから来るのか、実際にたどってみました。

メンター期間中、雑談のついでに「ここの契約って何か月更新なんですか」と聞いてみたことがあります。先輩の答えは「うーん、そこまでは自分も把握してないです、営業さんに聞いたほうが早いと思います」というものでした。現場の中にいる人間でも、契約の周期までは知らないというのは、少し意外でした。

メンター期間が終わって週1回の1on1に落ち着いたころ、自社の営業とのチャットで聞いてみました。返ってきたのは「3か月ごとの更新です」という一言だけです。

それ以上、更新の条件や精算幅について自分から突っ込んで聞くことはしませんでした。精算幅なら答えてもらえることがある一方、契約の中身そのものは聞いても限界があると分かっていたからです。結局、契約期間という情報は、書面ではなく営業とのやり取りの中でしか手に入りませんでした。

3か月ごとの更新のたびに、労働条件通知書は届いていません

ここでもう一つ気づいたことがあります。個別契約は3か月ごとに更新されているはずですが、労働条件通知書のほうは、参画時に一度届いたきりです。契約が更新されるたびに新しい通知書が発行されたことは、今の現場では一度もありません。

考えてみれば当然のことかもしれません。労働条件通知書が明示しているのは自社との雇用条件であって、客先との個別契約とは更新のタイミングがそもそも連動していないからです。

ただ、両方とも「契約」という言葉でひとくくりに考えていると、この頻度の違いには気づきにくいと思います。契約は3か月ごとに動いているのに、本人が受け取る書面は参画時の1回きり。この温度差も、個別契約の中身が本人に伝わりにくい理由の一つだと感じています。

2024年4月改正との関係

先ほどの厚生労働省のページをもう少し読み込むと、就業場所・業務の変更の範囲の明示は「すべての労働契約の締結」に加えて「有期労働契約の更新のタイミングごと」にも必要になる、と書かれていました。ただこれはあくまで有期契約が対象で、私の自社との雇用契約は無期(正社員としては期間の定めなし)です。

だから労働条件通知書が参画時の1回きりで、契約更新のたびには届かないという今の運用は、この改正の建て付けそのものとは矛盾していないのだろうと理解しています。

共有フォルダの中も一応探してみました

今の現場は、前フェーズの課題管理票が共有フォルダに残っていて、決定の理由まで追える珍しい現場です。これだけ記録が残っているなら、契約関連の書類も紛れているのではないかと思い、一度フォルダの中を探してみたことがあります。

フォルダで見つかったもの

見つかったのは、検収の対象範囲を確認するための成果物一覧や、月次の作業報告書のフォーマットといった、プロジェクト運営に関わる資料だけでした。個別契約書そのものや、契約金額・精算幅が読み取れるような書類は、一つも見当たりません。

現場のメンバー同士で共有される情報と、会社間で完結する情報とは、そもそも保管されている場所からして別だということを、このとき実感しました。

個別契約書を見せてほしいと営業に聞いてみた

冒頭に書いた「契約書、見せてもらえますか」というやり取りは、この少しあとのことです。契約更新の時期が近づいていることを聞いたタイミングで、思い切って聞いてみました。

私

契約書、見せてもらえますか。

自社の営業

それはちょっと難しいですね。

私

金額の部分だけ黒塗りにしたコピーとかも難しいですか。

自社の営業

そういう個別の対応はしていないので、申し訳ないです。

最初の「難しい」という返答には、次のような趣旨の説明が続きました。個別契約書には業務委託の内容、契約金額、契約期間、精算幅といった、会社間の取引条件がまとめて書かれている書類なので、本人に見せる運用にはなっていない。必要な情報は労働条件通知書のほうに反映されているはずなので、そちらで確認してもらう形になる、という説明です。

2つ目の質問は、念のため、もう一段階だけ踏み込んでみたものです。半分冗談のつもりでしたが、営業の反応は真面目なものでした。無理を承知の相談だったとは思いますが、会社としてそこまでの前例がない、というのが実情なのだろうと受け止めています。

突き放された感じはなく、むしろ丁寧な口調でした。ただ、「必要な情報は労働条件通知書に反映されている」という説明は、半分だけ正しいと感じました。就業場所や業務内容の大枠は確かに反映されていましたが、契約期間や更新の条件、精算幅までは書かれていなかったからです。

この食い違いを指摘するかどうか迷いましたが、指摘したところで書面の内容が変わるわけではないと判断し、そのまま流しました。

ポイント: 「必要な情報は別の書面にまとまっている」という説明を受けたときは、その書面を実際に自分で読み直してみる価値があります。労働条件通知書には自社との雇用条件しか書かれておらず、客先との契約期間や更新条件、精算幅は対象外です。

説明の言葉だけを信じず、手元の書面と照らし合わせる一手間が、認識のズレを防ぎます。

なぜ個別契約書を本人に見せない運用になっているのか

結論会社から説明されたわけではありません。私が考える理由は、単価が火種になること、会社間の商取引の書面であること、他社の情報が混じることの3つです。

営業に聞いても、この運用そのものの理由を突っ込んで説明されたことはありません。ただ、自分なりに考えると、理由は大きく3つありそうです。

本人に見せない運用になっている3つの理由(私の推測)

  1. 単価の話が交渉の火種になりやすい個別契約書には契約金額そのものが書かれているはずなので、これを本人が見れば、自分の給与との差が数字ではっきり分かってしまいます。会社側にはその警戒があると考えられます。
  2. 会社間の商取引の書面という位置づけ取引条件は自社の経営判断に関わる情報でもあり、社外の第三者はもちろん、雇用している本人にすら開示する義務がないというのが、契約自由の原則を踏まえた一般的な整理なのだと理解しています。
  3. 自社以外の会社の情報が混じっている可能性多重下請けの構造では、契約の相手が客先そのものではなく、間に入る元請けであることも珍しくありません。個別契約書を本人に見せることが、そうした他社の取引情報まで意図せず開示することにつながる、という事情もあるのかもしれません。

商流の全体像が現場のメンバーからは見えにくいことは、何次請けかを調べる記事に書きました。

関連記事SESで自分が何次請けか調べる方法|商流の見抜き方SESで自分が何次請けか調べる方法を、営業に聞いても答えが返ってこない前提でまとめました。設計書の表紙や質問票の往復日数など現場…

いずれも、私が営業や会社から直接聞かされた話ではなく、状況から自分なりに推測した理由にすぎません。会社を疑ってこう考えているわけではなく、開示しない運用にも一定の合理性はあるはずだ、というのが今の受け止め方です。

基本契約と個別契約、注文書の流れをどう理解しているか

営業とのやり取りを踏まえて、自分なりに理解した契約の積み重なり方を整理しておきます。専門的に検証したわけではなく、あくまで自分が見聞きした範囲での理解です。

  1. 基本契約自社と客先(または間に入る元請け)との間で、取引全体の枠組みを定める契約が結ばれます。
  2. 個別契約実際にどの業務を、いつからいつまで、いくらで委託するかを定める契約です。
  3. 注文書と注文請書個別契約は、注文書と、それを受けて発行する注文請書という形でやり取りされることが多いようです。

注文請書には、書面の内容によっては収入印紙が必要になる場合があるとも聞いたことがありますが、金額まではっきり確認したことはありません。

3つの書面の違いは、前の章の表のとおりです。この積み重ね方を知ってから、営業の説明が「半分だけ正しい」と感じた理由がはっきりしました。労働条件通知書は労働契約の中身を保証する書面であって、客先との個別契約の中身を保証する書面ではありません。2つの書面は、そもそも守っている対象が違うのです。

本人の手元にある書類には、結局金額が出てきません

ここまで調べて改めて気づいたのが、自分の手元にある書類をすべて並べても、契約金額にたどり着ける書類が一つもないということです。

手元の書類契約金額について
給与明細載っているのは自分の給与額だけで、単価は書かれていない
スキルシートの控え単価欄はない
労働条件通知書賃金の欄はあっても、契約金額の欄はない

単価は各現場のリーダーや営業から口頭で聞けたことがありますが、あれは書面ではなく、会話の中で伝えられた情報でした。誰かが教えてくれない限り、契約金額は自分の手元にある書類のどこにも現れない数字のままです。

本人として確認できること・できないこと

ここまでの内容を、次に同じ立場に置かれたときのために整理しておきます。

次に同じ立場になったときの確認事項

  • 労働条件通知書は必ず受け取る・保管する 交付されていなければ自社の人事に確認する権利があります。就業場所・業務内容の「変更の範囲」欄は、2024年4月以降なら必ず入っているはずです
  • 個別契約書は見られない前提で動く 会社間の書面である以上、本人への開示義務はありません。見せてほしいと頼むこと自体は自由ですが、断られても不自然ではないと理解しておきます
  • 契約期間・更新の周期は、営業に直接聞く 書面に載っていない情報は、営業が持っている数少ない窓口です。答えてもらえる範囲は限られますが、聞かなければ何も分かりません
  • 「別の書面に書いてある」と言われたら、その書面を自分で読み直す 説明の言葉だけで納得せず、実際に手元の書面と照らし合わせておくと、認識のズレに早く気づけます

見せてもらえないと分かってから、変えたことが一つあります。労働条件通知書や、営業とのやり取りで数字を教えてもらったチャットのやり取りは、すべて自分のクラウドストレージにも保存するようになりました。会社のメールや共有フォルダだけに置いておくと、契約が終了して離任したときにアクセスできなくなる可能性があるからです。

契約の中身そのものは変えられなくても、手元に残しておける記録を増やすことはできます。正直に言うと、私自身も労働条件通知書を隅々まで読んだのは、今回この記事を書くために見直したときが初めてでした。参画直後は流し読みして、それきりファイルを開いていません。

個別契約書が見られない以上、自分が持っている数少ない手がかりは、この書面と営業とのやり取りだけです。もっと早く、もっと丁寧に読んでおけばよかったというのが、正直な感想です。

よくある疑問

最後に、個別契約書や労働条件通知書について、よく出てくる疑問に短く答えておきます。

個別契約書は請求すれば見せてもらえますか

法的な開示義務はないため、断られても不自然ではありません。私も実際に断られました。頼むこと自体は自由なので、聞くなら「契約期間だけ教えてほしい」のように範囲を絞るほうが現実的です。

労働条件通知書がもらえないときは、どうすればいいですか

まず自社の人事に、書面での交付を求めてください。それでも解決しない場合は、労働基準監督署に相談する方法があります。

労働条件通知書は、メールやPDFで受け取ってもよいですか

私の場合、今の現場ではPDFがメールに添付されて届きました。厚生労働省は、労働者が希望した場合にメール等で労働条件を明示できる旨を案内しています(FAX・メール・SNS等での労働条件明示(厚生労働省))。

細かい要件までは私自身が確認しきれていないので、気になる方はリンク先を見てください。

就業条件明示書のフォーマットに、決まった様式はありますか

労働局が記載例を公開しているところまでは確認できています。法律上の様式の扱いは私が確認できていないので、断定は避けます。労働条件通知書のほうは、厚生労働省のモデル様式があります。

まとめ

  • 個別契約書は、本人が見られる書面ではない 私が経験してきた範囲では、そうでした。会社間の商取引にあたる書面なので、開示の義務がそもそもありません
  • 本人に交付されるのは労働条件通知書 労働基準法第15条に基づく別の書面です。この2つを同じ「契約書」として一緒くたに考えてしまうと、「契約書が見られない=何も確認できない」という誤解につながります
  • 就業条件明示書は、SES(準委任)では原則対象外 派遣で使われる書面なので、手元の書面の名前が、契約形態を見分ける手がかりになります
  • 通知書に載るのは就業場所・業務内容の大枠まで 今の現場の通知書には、2024年4月の改正で加わった「変更の範囲」まで書かれていました。契約期間の更新周期や精算幅までは対象外で、営業に直接聞くしかありませんでした

書面で分かること、書面では分からず人に聞くしかないことの2つを、はじめから分けて考えておくと、確認の仕方に無駄がなくなります。

もし今、自分の契約について何がどこまで分かるのか気になっているなら、まず手元の労働条件通知書を読み直してみてください。そこに書かれていない情報――契約期間、更新の条件、精算幅――は、営業に聞かなければ手に入らない情報だと割り切ったほうが、余計な期待をせずに済むはずです。