「新しい候補が見つかりました」というチャットが一本届いて、次の現場の話が始まったことが何度もあります。担当営業がついているのに、実際に何をしてくれる人なのかを説明できたことは、正直ありませんでした。
SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、営業という役割の輪郭は、現場を渡り歩くほどかえって曖昧になっていきました。
今回は、3社目の契約終了から今の4社目までに実際にあったやり取りをもとに、SES営業が商流のどこに立ち、何を決める権限を持っていて、何を持っていないのかを整理します。
この記事で分かること
- 契約終了の連絡から次の案件紹介、参画中のフォローまで、営業が実際にしていたこと
- 営業が答えてくれること、聞いても構造的に答えが返ってこないこと
- 営業のフォローが薄くなりやすい、稼働率・ノルマという事情
- 客先がエンジニアに直接言えない建前が、営業を挟む構造を作っている理由
- 権限がない側のエンジニアが、営業とのやり取りを自分から少しでも良くする工夫
目次
- SES営業の役割とは何か、客先常駐エンジニアから見た基本の仕事
- 案件紹介はチャット一本から始まりました
- 面談に営業が同席しないことも珍しくありません
- 参画中、営業からの連絡はひと月に一度あるかないかでした
- フォローが薄くなりやすい理由、稼働率とノルマという事情
- 単価や条件を聞いたとき、営業から返ってきたもの
- 契約終了の連絡は、営業が「決めて」いるわけではありません
- 客先がエンジニアに直接言えない建前が、営業を挟む構造を作っている
- 営業に聞いて答えが返ってくること、返ってこないこと
- 担当営業とのやり取りで、エンジニアの側からできること
- 月1回の近況確認に、具体的な材料を返す
- 契約更新の前月に、営業へ確認しておくこと
- 次の案件の希望を、必要になる前から伝えておく
- まとめ
SES営業の役割とは何か、客先常駐エンジニアから見た基本の仕事
結論案件情報とスキルシートを突き合わせて客先に提示し、参画から離任までの窓口を担う人です。客先や契約そのものを動かす人ではありません。
まず、営業が普段どこにいるのかから確認します。エンジニアである自分は客先に常駐していますが、営業は自社のオフィスにいて、複数のエンジニアの案件を同時に持っています。自分の現場に来ることは基本的にありません。
営業がやっていることを大づかみに言うと、保有している案件の情報と、抱えているエンジニアのスキルシートを突き合わせて、通りそうな組み合わせを客先に提示することです。書類が通れば面談の連絡が来て、決まれば契約と稼働管理に移ります。
- 案件紹介チャット一本と案件概要一枚
- 面談営業は同席しないこともある
- 参画中連絡は月1回程度
- 離任営業は伝える役。決めるのは上の階層
求人サイトの解説記事などでよく見る説明とほぼ同じで、ここに特別な裏話はありません。
案件紹介はチャット一本から始まりました
4社目の話が来たときも、この流れどおりでした。3社目の契約終了が決まってから10日ほど経ったころ、担当営業から「新しい候補が見つかりました、資料を送ります」という趣旨のチャットが届きました。
添付されていたのは、業務内容と必要スキルを箇条書きにした一枚の案件概要だけです。単価は書かれていません。
何次請けの案件なのかも明記されていませんでした。自分が何次請けかを調べる方法は別の記事にまとめましたが、その手がかりは営業からの案件紹介の時点ではまだ何も出てきません。
この段階で分かるのは、業務の中身と、必要とされているスキルの粒度だけでした。
案件紹介の時点で渡される情報は、想像より薄いというのが実感です。
営業を責めているわけではありません。営業自身、その案件の商流の深さまで正確に把握できていないことがある、というのは以前の記事でも触れたとおりです。
面談に営業が同席しないことも珍しくありません
4社目の面談は、オンラインで実施されました。日程調整はすべて営業とのチャットで完結し、当日、営業自身は同席していません。接続用のURLだけが事前に送られてきて、実際に画面の向こうにいたのは客先側のリーダーとプロパー社員の2人でした。
この面談では、客先のリーダーから「基本設計はどの範囲を担当されましたか」と聞かれました。この話はスキルシートの記載を扱った記事に詳しく書きました。
リモートの条件も面談で確認したい項目でした。リモートワークを扱った記事に書いたとおり、参画してみると、もともと週1出社の予定で、最近はほぼフル在宅です。
ここで改めて指摘したいのは、こうした条件面のやり取りが、営業が同席していない場で行われるという点です。
営業がその場にいれば、少なくとも自社が把握している範囲の情報は補足できたかもしれません。ただ、営業がいなかった以上、その場で条件面を補ってくれる人はいませんでした。面談の場に誰がいるかで、聞ける内容の解像度が変わるということです。
次に面談を控えている方が、日程調整の段階で確かめること
- 営業が面談に同席する予定か
- 同席してもらえない場合、何を優先して聞くかを事前に営業と決めてあるか(聞きそびれを減らせます)
参画中、営業からの連絡はひと月に一度あるかないかでした
現場に入ってからの営業とのやり取りも、実際にはかなり薄いものでした。4社目では、契約開始から最初の1か月ほど、営業からの連絡は特にありませんでした。
1か月半ほど経ったころ、初めてチャットで近況確認が来ました。「その後どうですか、体調含めて」という趣旨の定型文です。それ以降は月に1回程度、似たような文面が届く程度でした。現場を訪ねてきたことは、参画してから今まで一度もありません。
この頻度について、自分の働きぶりが客先からどう見えているかを尋ねたことがあります。ただ、評価の仕組みを扱った記事で書いたとおり、客先の評価が自社に届く経路は営業が客先の窓口担当と話したときの伝聞だけで、しかもその窓口担当は現場で自分の仕事を見ていない人です。
営業の連絡が少なかったのは、怠けていたからというより、伝えられる中身がそもそも薄かったからだと今は理解しています。
ポイント: 営業の連絡頻度を、自分への関心の度合いとして受け取ると消耗します。連絡が少ないのは、伝える情報のパイプがそもそも細いことの表れであって、担当を軽んじられているサインとは限りません。
フォローが薄くなりやすい理由、稼働率とノルマという事情
もう一つ、フォローの薄さには構造的な理由があると考えています。営業一人が抱えているのは自分だけではありません。
フォローが薄くなりやすい2つの理由
- 一人が抱える人数が多い他社に転職した元同僚や、現場で一緒になった協力会社の方から聞いた話では、一人の営業が同時に十数人単位のエンジニアを担当していることも珍しくないそうです。伝聞の域を出ないので、業界全体の平均としては書きませんが、少なくとも一人にかけられる時間が有限であることは間違いありません。
- 稼働率という数字の目標があるSES企業の営業には、稼働率、つまり契約が途切れずに埋まっているエンジニアの割合を維持するという数字の目標が課されている、とよく言われています。契約が切れて待機状態の人が出れば、その分の売上が止まるので、営業から見て優先度が高いのは「今まさに契約が切れそうな人」や「案件を探している人」であって、順調に稼働している人のフォローは後回しになりやすい、という理屈です。
4社目で自分への連絡が月1回程度だったのも、契約が順調に更新されている間は優先度が低かったのだろうと今は理解しています。逆に、契約終了の連絡や次の案件紹介など、稼働そのものに関わる場面では、比較的早く動いてくれました。
3社目を離れるときも、体制表で自分の名前が次のフェーズから消えているのを見つけてから連絡までが2週間、次の案件紹介まではそこから10日ほどでした。営業の反応速度は、案件の稼働状況に連動しているというのが、振り返っての実感です。
責めているわけではありません。一人が抱えられる人数には限界があり、優先順位をつけざるを得ない以上、この配分自体は合理的でもあります。ただ、この構造を知らずに「なぜ自分への連絡だけ少ないのか」と受け止めると、自分が軽んじられているという誤った解釈になりがちです。
単価や条件を聞いたとき、営業から返ってきたもの
参画から2か月ほど経ったころ、契約更新の話が出るタイミングで、一度だけ踏み込んで聞いたことがあります。今回の精算幅の下限だけ教えてもらえますか、という聞き方でした。
今回の精算幅の下限だけ教えてもらえますか?
140時間からです。
返ってきたのはその数字だけで、単価そのものには一切触れられませんでした。理由を尋ねると、「そこは会社間の話なので」という趣旨の説明があり、突き放された感じはありませんでしたが、それ以上は動きませんでした。
これは営業が意地悪をしているわけではないと考えています。単価は自社と客先の間の契約条件で、営業個人が独断で開示できる情報ではありません。精算幅の下限のような、稼働の目安に関わる情報は現場のメンバーに実務上必要なので答えられる一方、金額そのものは契約当事者である会社同士の話です。
単価と手取りの差を扱った記事で書いたとおり、単価交渉の主体はそもそも本人ではなく会社です。営業に単価を聞くのは、担当者個人の裁量を試すような行為になってしまい、答えが出にくいのは当然の構造だったというわけです。
契約終了の連絡は、営業が「決めて」いるわけではありません
3社目を離れることになった経緯は、契約更新の周期を扱った記事で、次期フェーズの体制表に自分の名前がなかったことをすでに書きました。
体制表に名前がないのを見つけてから2週間ほど経ったころ、営業から電話がありました。言葉は「今回、契約は今のフェーズまでで一区切りとさせてください。客先の体制見直しの都合です」というものでした。理由として伝えられたのは、この一言だけです。それ以上の細かい事情を営業自身が把握していた様子はありませんでした。本人が伝えていないだけなのか、営業も本当に詳しい理由を知らされていないのかは、こちらからは判別できません。
次の案件がどうなるか尋ねると、「今、何件か動いていますので、また連絡します」という返事があり、実際に4社目の案件情報が届いたのはそこから10日ほど後でした。
この一連の流れを振り返って感じるのは、営業は契約終了を決めている人ではなく、決まったことを伝える役目を担っているだけだということです。決定は客先と元請け、あるいは客先の中の体制見直しという、営業より上の階層で先に済んでいます。
客先がエンジニアに直接言えない建前が、営業を挟む構造を作っている
ここまで見てきた「案件紹介・面談・単価・離任連絡のどれも、必ず営業を経由する」という構造には理由があります。SESの客先常駐は準委任契約が中心で、客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前になっているからです。
この建前と、実際の現場でどこまで指示が個人に直接飛んでくるかのズレについては、偽装請負の判断基準を扱った記事で厚生労働省の疑義応答集をもとに詳しく整理しました。
今回の話に関わる部分だけ取り出すと、契約や条件に関わる話を客先の担当者がエンジニア本人に直接持ちかけると、指揮命令に近づいてしまう可能性があるということです。だからこそ、条件面の話は必ず営業を通す形になります。
面談の場でも、エンジニア本人は契約の当事者ではありません。契約を結ぶのは自社と客先という会社同士で、営業はその契約当事者である自社を代表してその場にいます。エンジニア本人がいくら条件を確認したくても、交渉できる立場そのものが最初から用意されていません。
この構造を踏まえると、営業の権限がどこまで及ぶかも見えてきます。
| 営業が持っている裁量 | 営業が持っていない権限 |
|---|---|
| どの案件をどのエンジニアに提示するか | 客先内部の労務ルール(リモート可否・休暇の取りやすさなど) |
| スキルシートの表現をどう調整するか | 単価そのものの決定・開示 |
| 精算幅の下限など、実務上答えられる範囲の情報開示 | 契約継続の可否そのもの |
| 参画・離任の実務連絡と日程調整 | 現場での指揮命令・作業内容の細部 |
こうして並べると、営業が持っているのは「窓口としての裁量」で、「客先や契約そのものを動かす権限」ではないことが分かります。営業は決定権者ではなく、決定を運ぶ経路という位置づけのほうが実態に近いです。
二次請け・三次請けという下流の立場にいるほど、この経路はさらに一段長くなります。自社の営業が客先の窓口担当に確認し、その窓口担当がさらに元請けに確認する、という形になれば、答えが返ってくるまでの時間もそれだけ伸びます。
営業に聞いて答えが返ってくること、返ってこないこと
ここまでの整理をもとに、実務で使える線引きをまとめます。営業に何かを尋ねるとき、この線引きを頭に置いておくと、期待値がずれにくくなります。
- 聞けば答えが返ってきやすいもの 精算幅の下限、面談や更新の日程、稼働状況の確認、次の案件を探している旨の意思表示
- 聞いても構造的に答えが返ってこないもの 単価そのものの金額、客先内部の労務ルールの詳細、契約が更新されるかどうかの見通し、指示の背景にある客先側の事情
- 聞き方を変えると答えが出やすくなるもの 「単価はいくらですか」ではなく「精算幅はどのくらいですか」、「リモートは可能ですか」ではなく「今チームの何人が週何日リモートしていますか」
3つ目については、面談で確認する項目そのものを工夫する余地がある部分です。面談で確認する項目を、自分の側で固定しておくという工夫を以前書きましたが、営業に対しても同じ発想が使えます。
答えられない質問を繰り返すより、答えられる形に聞き方を変えたほうが、得られる情報は増えます。
正直に書くと、3社目で契約終了の理由を詳しく聞き出そうとしたことはありませんでした。営業が知らないだろうと最初から見切っていたからです。
今振り返ると、少なくとも「もう少し詳しい事情を教えてもらえますか」と一度は聞いてみる価値はあったと思います。答えが返ってこなかったとしても、その時点で営業がどこまで情報を持っているかは分かったはずです。
担当営業とのやり取りで、エンジニアの側からできること
権限がないのは営業だけでなく、エンジニア本人も同じです。それでも、営業とのやり取りの質は、自分の側から多少は変えられると考えています。
3社目から4社目に移る前後と、4社目に入ってからで実際に試してみたことを、効果があった部分となかった部分に分けて書きます。
月1回の近況確認に、具体的な材料を返す
営業からの月1回の近況確認に、参画してしばらくは「特に問題ないです」の一言で返していました。
3か月目あたりから、担当している画面の範囲や、最近触れている技術を一言添えて返すようにしました。
連絡の頻度自体はそれで変わりません。ただ契約更新の時期になると、「今のフレームワークはまだ変わりそうにないですか」のような、以前より具体的な質問が返ってくるようになりました。
営業が客先の窓口に確認する際、こちらから渡した一言が材料になっているのだろうと今は理解しています。
契約更新の前月に、営業へ確認しておくこと
契約更新は3か月ごとで、前月に営業からチャット一行で連絡が来ます。この更新サイクルの仕組みは、別の記事に詳しく書きました。
このチャットを待つだけでなく、前月に入ったタイミングで自分から一度、次の更新の見込みについて何か聞けているかを尋ねるようにしています。
大抵は「まだ何も聞けていません」という返事で終わります。それでも一度だけ、次のフェーズで体制の人数が減るらしいという話を、更新の連絡そのものより前に教えてもらえたことがありました。
聞いても空振りに終わることのほうが多いですが、当たれば心の準備ができる分だけ得だと思っています。
次の案件の希望を、必要になる前から伝えておく
3社目の契約終了が決まった直後、案件紹介を待つだけでなく、次に入るならJavaかTypeScriptを使う案件がいい、と自分から営業に伝えました。
4社目の案件は実際にJava・TypeScriptを使う内容でした。ただ、これが希望を伝えた効果なのか、営業が持っていた案件にたまたま合っていただけなのかは、自分では判別できません。
効果を証明できないのは正直なところですが、伝えておいて損をした場面もなかったので、4社目に入った今も、近況確認の返信などで次の希望を早めに伝えるようにしています。
どれも営業の権限そのものを広げる工夫ではありません。伝える材料を増やすほど、営業が動ける余地も増えるというのが、3つとも試してみての実感です。
まとめ
SES営業の役割は、案件情報とスキルシートを突き合わせて客先に提示し、参画から離任までの窓口を担うことです。要点を振り返ります。
- 営業が実際にしていたこと 案件紹介は資料一枚から始まり、面談には同席しないこともあり、参画中の連絡は月1回程度でした。精算幅の下限は答えてもらえても、単価そのものには触れられません。3社目を離れるときも、契約終了の連絡は営業自身が決めているわけではありませんでした
- 構造の背景 客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前があるので、条件や契約の話は必ず営業を経由します。その営業自身も、客先内部のルールや単価の決定権は持っていません
- フォローが薄くなりやすい理由 営業一人が抱える人数の多さと、稼働率という数字の目標です
- エンジニア側の工夫 近況確認に具体的な材料を返す、契約更新の前月に一度聞いてみる、次の案件の希望を早めに伝えておく
営業を「使えない」と感じる場面があるとしたら、その多くは営業個人の能力の問題ではなく、そもそもその権限が営業の手元にないことが原因だというのが、4社目までの経験を振り返って見えてきたことです。権限がない側にいるのはエンジニアも同じですが、上の工夫は地味でも続ける価値があると感じています。
もし今、担当営業とのやり取りに物足りなさを感じているなら、まずその要求が営業の権限の範囲内かどうかを切り分けてみてください。範囲内なら聞き方を変えて再度尋ねる価値がありますし、範囲外なら期待を切り替えて、自分で確認できる手がかりを別に探したほうが早く答えにたどり着けます。




