「うちの会社、ホームページにマージン率載ってるんですよ」。隣の島に座っていた、派遣契約でその客先に来ていた方が、昼休みに何気なくそう言いました。
自分がいくらで客先に出されているのか調べる方法があるとは、それまで考えたこともありませんでした。
SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、この記事では、労働者派遣にはあってSESにはないマージン率の情報提供義務について、4社目での実体験と厚生労働省の統計をもとに整理します。
この記事で分かること
- 派遣だけに課されている、マージン率などの情報提供義務の中身(労働者派遣法第23条第5項)
- 厚生労働省の令和6年度統計と、関東ブロック1,792事業所を独自集計した、マージン率の実際の振れ幅
- SESの準委任契約が、なぜこの義務の対象外になるのかという法律上の理由
- 開示義務がないSES側で、公的データを使いながら単価の妥当性を判断するためにできること
目次
SESにマージン率の開示義務がない理由、4社目で気づいた違和感
4社目は、客先の社内向け業務システムを、独自の社内フレームワークで改修する二次請けの案件でした。なぜこのフレームワークが選ばれたのか、経緯を知っている人は現場に一人も残っていませんでした。
現場によってリモートの運用に差があることは、4社目に限らず経験しています。この現場自体の詳しい話は他の記事に書いたので、ここでは深追いしません。
この現場のフロアには、自分たちの改修チームとは別に、客先が直接契約している人材派遣会社から来ている方が、隣の島に座っていました。担当していたのは、改修対象のシステムに接続するマスタデータの整備と突合作業です。
業務の範囲が隣接していたので、仕様確認のやり取りで日常的に顔を合わせていました。
「うちの会社、マージン率がホームページに出てるんですよ」
参画から2か月ほど経ったころ、休憩スペースで交わした雑談がきっかけでした。その方が、何気ない調子で話しかけてきました。
うちの会社、ホームページにマージン率載ってるんですよ。この前初めて見ました。
たしか34%くらいだったと思います。平均賃金と平均料金が両方出ていて、引き算すれば誰でも計算できる形でした。
この一言に、正直かなり驚きました。自分がいくらで客先に出されていて、そこからいくら引かれているのか、疑問に思ったことはあっても、それを調べる方法が存在するという発想自体がありませんでした。
その日の夜、自社のホームページを確認してみましたが、載っていたのは会社概要・事業内容・採用ページ・企業理念といった、ごく一般的な内容だけでした。検索エンジンで自社名とマージン率を並べて調べても、それらしい情報は一切出てきません。
同じ現場で働いているのに、片方は数字が見えて片方は見えない。この差がどこから来るのか、当時の自分には分かりませんでした。
契約更新のタイミングで営業に精算幅の下限を聞いたときのやり取りは、別の記事に書きました。そこで返ってきたのは「140時間からです」という数字だけで、単価やマージンそのものに踏み込んで聞き直すことはしませんでした。
今振り返ると、あの雑談の直後だったからこそ、聞き方を変えていればもう少し違う反応が返ってきたかもしれない、とも思います。
派遣だけに課されている、マージン率等の情報提供義務とは
結論派遣元の会社は、事業所ごとの派遣労働者数や派遣先の数、マージン率にあたる割合、教育訓練の内容などを公表しなければなりません。
この差の正体を調べてみると、単なる会社ごとの方針の違いではなく、法律の適用範囲そのものが違うという構造にたどり着きました。まず、派遣に課されている義務の中身から確認します。
労働者派遣法の第23条第5項は、次のように定めています。
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額の平均額から派遣労働者の賃金の額の平均額を控除した額を当該労働者派遣に関する料金の額の平均額で除して得た割合として厚生労働省令で定めるところにより算定した割合、教育訓練に関する事項その他当該労働者派遣事業の業務に関しあらかじめ関係者に対して知らせることが適当であるものとして厚生労働省令で定める事項に関し情報の提供を行わなければならない。
読み下すと、派遣元の会社は次の項目について情報提供をしなければならない、という義務です。
- 事業所ごとの派遣労働者の数
- 労働者派遣の役務の提供を受けた者の数(派遣先の件数)
- 料金の額の平均額から賃金の額の平均額を控除した額を、料金の額の平均額で除して得た割合(=マージン率にあたる数字)
- 教育訓練に関する事項
- その他、厚生労働省令で定める事項
隣の島の方が話していた「平均賃金と平均料金が両方出ていて、引き算すれば計算できる」という説明は、この条文が求めている中身とぴったり一致します。派遣元の会社は、この情報を公表する法的な義務を負っています。
令和6年度の実績で見る、派遣料金とマージン率の実際の数字
では、業界全体で見るとどのくらいの水準なのか。厚生労働省が公表している「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」を確認すると、次の数字が載っていました。
令和6年度の派遣料金・賃金と、条文どおりに計算したマージン率|出典: 令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)|厚生労働省
これが令和6年度の、全業種・全職種を単純平均したマージン率にあたります。本記事の執筆時点(2026年9月)では、令和7年度分の集計結果はまだ公表されていません。公表されている中で最新なのは、この令和6年度の数字です。ただし、この36.3%を鵜呑みにして「派遣もSESも大差ない」と考えるのは早計です。同じ資料の職種別データを見ると、令和6年度の派遣料金(派遣労働者平均)には、職種によって6倍以上の開きがあります。
令和6年度の派遣料金(派遣労働者平均)の職種別の開き
全業務平均の数字は、この幅広い分布を単純平均したものにすぎず、特定の職種や案件の相場を代表する数字ではありません。平均値だけを見て一喜一憂するのは危うい、というのが数字を確認してみての実感です。
この実感は、職種ではなく事業所単位で見ても裏付けられました。厚生労働省は、都道府県ブロックごとに派遣会社の事業所単位のマージン率一覧をPDFで公開しています。今回、関東ブロックの一覧(出典: 都道府県ブロックごとの派遣会社のマージン率等の一覧(関東)|厚生労働省)を、自分で集計してみました。結果は次のとおりでした。
関東ブロック1,792事業所のマージン率(筆者による独自集計)
区分ごとの内訳は次のとおりです。
| マージン率の区分 | 事業所数 | 割合 |
|---|---|---|
| 20%未満 | 103所 | 5.7% |
| 20%以上30%未満 | 570所 | 31.8% |
| 30%以上40%未満 | 729所 | 40.7% |
| 40%以上50%未満 | 277所 | 15.5% |
| 50%以上 | 113所 | 6.3% |
表を棒グラフにしたものです。30%台に最も多く集まり、両端にも事業所があります。
この集計の前提
この分布は筆者が同PDFを独自に集計したものであり、厚生労働省が公表している集計値ではありません。掲載されているマージン率と、同じ行の派遣料金・賃金から計算した値が一致する1,792事業所に絞っています。
注意したいのは、全業務平均の36.3%が、全国平均から逆算した一つの代表値にすぎない点です。関東ブロックの事業所ごとの中央値は32.3%で、4ポイントほどずれていました。同じ派遣でも事業所によって1%未満から70%台まで振れ幅があり、単価の妥当性を考えるうえで参考になるのは、平均値よりこの幅の広さのほうだと考えています。
実際にどのくらいの会社が公開しているかも、同じ資料の表12「マージン率等の情報提供の状況」で確認しました。令和6年の実績で、提出事業所のうちインターネットで情報提供している事業所は77.5%でした。書類の備え付けは46.6%でした(複数回答)。
この情報提供義務は平成24年の労働者派遣法改正で導入され、令和3年4月からは、原則として常時インターネットで公開することが求められるようになりました(出典: 派遣会社のマージン率等について|厚生労働省)。隣の島の方が「ホームページで見た」と話していたのは、標準的な状況でした。
SESの準委任契約は、なぜこの義務の外側にあるのか
結論SESの準委任契約は、そもそも派遣法が対象とする「労働者派遣」に当たらないからです。会社が情報を隠しているからではありません。
ここまでの内容を踏まえると、素朴な疑問が浮かびます。同じように客先に人を送り出す働き方なのに、なぜSESにはこの義務がないのか。答えは単純で、SESの客先常駐で使われる契約が、そもそもこの法律が対象としている「労働者派遣」に該当しないからです。
労働者派遣法の第2条第1号は、労働者派遣を次のように定義しています。
労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
この定義の中心は「他人の指揮命令を受けて」という部分です。派遣では、派遣先の会社が派遣労働者に直接指揮命令をすることが、契約の前提として組み込まれています。
だからこそ、派遣先が労働者を実質的に選べてしまう危うさを補うために、特定行為の努力義務や、今回のマージン率の情報提供義務のような、労働者保護のための規定が派遣法にいくつも積み重ねられています。一方、SESの客先常駐は準委任契約が中心で、客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前になっています。この建前がどこまで実態と一致しているかは現場によって差があり、厚労省の疑義応答集をもとに詳しく整理した記事を別に書きました。
厚生労働省が示している37号告示では、請負(準委任を含む業務委託)として扱われるために、次の2つの要件が示されています。
請負として扱われるための2つの要件
- 労働力を自ら直接利用すること自社が雇用する労働者の労働力を、自ら直接利用する必要があります。
- 業務を独立して処理すること請け負った業務を自己の業務として、契約の相手方から独立して処理する必要があります。
この要件を満たしている限り、契約の形式は労働者派遣ではなく請負・準委任として扱われます。つまり、マージン率の開示義務がSESにないのは、適用される法律の条文そのものが違う、という構造的な話です。
派遣法は、その名のとおり労働者派遣にしか及びません。準委任契約であるSESの常駐は、最初からこの法律の射程の外に立っています。隣の島の方と自分の間にあった「見える・見えない」の差は、会社の姿勢の差である以前に、契約類型の差だったというわけです。
こうして並べてみると、違いがどこにあるかが分かりやすくなります。
| 労働者派遣 | SES(準委任契約) | |
|---|---|---|
| 客先の指揮命令 | 派遣先が労働者に直接指揮命令をする | 客先は個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前 |
| マージン率等の情報提供義務 | 派遣法第23条第5項により義務化されている | 対象外(労働者派遣に該当しないため適用されない) |
| 令和6年度の実績 | 派遣料金26,257円・賃金16,735円・マージン率約36.3% | 集計する法的な義務がなく、公的な統計自体が存在しない |
それでも、開示義務があるからといって単価の妥当性が分かるわけではない
結論マージン率が公開されていても、それだけでは単価の妥当性は測れません。賃金以外に会社が支払う費用がすべて含まれているからです。
ここまで、派遣にはあってSESにはない開示義務の話をしてきましたが、誤解しないでほしい点が一つあります。マージン率が公開されているからといって、それが単価の妥当性を測る万能の物差しになるわけではないということです。
マージン率の中身は、賃金以外に会社が支払っているすべての費用です。教育訓練費や社会保険料の会社負担分、営業活動にかかるコストなども、この差額の中に含まれています。
マージン率が高いからといって単純に「取りすぎ」とは言い切れませんし、低いからといって「良心的」とも限りません。この点は、制度を所管する厚生労働省自身が明言しています。
マージンには、社会保険料、教育訓練費なども含まれているため、マージン率は低いほどよいというわけではなく、その他の情報と組み合わせて総合的に評価することが重要です。
同じページでは、派遣で働く方に向けて、マージン率・賃金の平均水準・教育訓練の取組状況を組み合わせて派遣元を選ぶよう案内されています。マージン率という数字が一人歩きしやすいことは、制度を作った側も承知しているわけです。
SESの側では、そもそもこの数字自体が存在しないので、単価の妥当性を判断する材料はさらに限られます。
私の場合
単価60万円と月収30万円の実例を以前書きましたが、あのときも、自分の単価がその案件の相場として妥当なのかを確かめる手段は結局ありませんでした。
マージン率という数字の有無以前に、SESでは比較対象そのものを手に入れにくい、という状況が続いています。
開示義務がないSES側で、単価の妥当性を判断するためにできること
法律の建付けが違う以上、SESの側に派遣と同じ情報提供義務が課される見込みは、今のところありません。それでも、まったく何もできないわけではないと考えています。現場で実際に使ってきた、あるいはこれから使えると思っている方法を並べます。
単価の妥当性を確かめるためにできること
- 精算幅の下限だけでも聞いてみる単価そのものは会社間の話として答えてもらえないことが多いですが、精算幅(稼働時間の基準)は営業が答えてくれることがあります。4社目では「140時間からです」という数字だけ得られました
- 自分が何次請けかを確認する商流が深いほど、単価から額面までの間に入る会社の数も増えます。何次請けかを調べる方法を確認しておくと、単価の見え方が変わります
- 単価より額面・年収ベースで比較する月次の単価と手取りの差だけを見ると実態を見誤りやすいという話を単価と手取りの記事に書きました。ボーナスまで含めた年収ベースで考えるほうが、実感とのズレが小さくなります
- 厚労省の公開データで、派遣側の相場感を確認しておく厚労省が運営する人材サービス総合サイトでは、派遣会社ごとのマージン率等を検索できます。都道府県ブロック別の一覧(PDF)も公開されているので、自分の職種・地域に近い会社の水準を一度眺めておくと、体感との差が見えてきます
- 派遣の公開データは、あくまで温度感の参考に留める令和6年度のマージン率は全業務平均で約36.3%、関東ブロックの事業所単位で見ても0.7%から74.2%まで幅がありました。契約形態が異なるSESの単価と直接比較できる数字ではありませんが、「この業界にはこのくらいの振れ幅がある」という相場観の参考程度にはなります
正直に書くと、自分自身はこの中で実際に使ってきたのは最初の2つだけです。年収ベースでの比較は、この記事を書くために改めて数字を見直して初めて実感したことで、当時の自分はそこまで頭が回っていませんでした。
ただ、今からでも次の契約更新のタイミングで、単価そのものではなく精算幅や商流を聞き直すことはできます。開示義務がないという前提を受け入れたうえで、聞ける範囲を広げていくしかないというのが、今の結論です。
まとめ
SESにマージン率の開示義務がないのは、会社が情報を隠しているからではなく、そもそも適用される法律の条文が違うからでした。
この記事の要点
- 労働者派遣法第23条第5項の情報提供義務は、同法第2条第1号が定義する「労働者派遣」にしか及びません。準委任契約が中心のSESは、この法律の射程の外に立っています
- 令和6年度の統計では、派遣のマージン率は全業務平均で約36.3%、インターネットで情報提供している事業所は提出事業所の77.5%でした
- 関東ブロックの事業所単位で独自に集計すると0.7%から74.2%まで幅があり、平均値だけを鵜呑みにできる数字ではありません
- SESの側にはこの数字に相当するものを確認する法的な手段がないので、精算幅や商流など、聞けば答えが返ってくる範囲を一つずつ広げていくのが現実的な次の一手です
隣の島の方がホームページで見たと話していたのは、決して特殊な事例ではなく、むしろ標準的な状況でした。
もし今、同じ現場に派遣契約の方がいて、自分との情報格差にもやもやしているなら、それはあなたの会社だけが不誠実なわけでも、あなたが調べ方を知らないだけでもありません。契約類型によって適用される法律が違うという、業界の建付けそのものに理由があります。




