求人票に「ITS健保加入」と書いてあると、福利厚生が手厚い会社に見えないでしょうか。私は協会けんぽに入っている側なので、最初は少し気になりました。
SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、福利厚生を比べる機会は、同じ現場に来ている別会社の人と話したときくらいしかありませんでした。
今回は、ITS健保の加入基準と、現場で聞いた「制度はあるのに常駐だと使いにくい」という話、令和8年度の保険料率で計算した実際の差、そして求人票での見方を、実体験を交えてお伝えします。
この記事で分かること
- ITS健保の加入基準と、SES企業が加入しやすいのかどうか(公式の記述と私の推論の切り分け)
- 協会けんぽ加入の自社と、ITS健保加入の別会社の人との違い
- 保養施設・直営健診・旅行補助が、常駐だと使いにくい理由と、使いやすい付加給付
- 協会けんぽとITS健保の保険料の差が、手取りで月いくらになるか
- 求人票でITS健保の表記をどう見るか、福利厚生より先に見るもの
目次
- SESの福利厚生とITS健保|加入基準から見る、SES企業との相性
- ITS健保の加入基準は、業種・規模・報酬水準で決まります
- 「SESに多い」という公式の記述はありません
- 協会けんぽの私が、ITS健保の会社の人から聞いた話
- 自社の福利厚生を棚卸ししてみました
- 同じ島のCさんの保険証は、ITS健保でした
- ITS健保の福利厚生は、常駐だと使えるのか
- 施設型は、時間・場所・手配の3点で常駐とぶつかります
- 旅行補助は、申請の順番で一度逃したそうです
- 使いやすいのは、お金が戻る付加給付です
- 付加給付の恩恵を、私は受けられていません
- 保険料率の差は、手取りにどれくらい効くのか
- 協会けんぽ(東京)とITS健保の料率を並べます
- 差は年1万円前後で、40歳を超えると縮みます
- 求人票の「ITS健保」表記をどう見るか
- 福利厚生より、給与と手取りとのバランスを見ます
- まとめ
SESの福利厚生とITS健保|加入基準から見る、SES企業との相性
まず、ITS健保の加入基準を公式ページで確認します。そのうえで、SES企業と結びつけて語られやすい理由はあるのかを、公式に書かれていることと私の推論に分けて整理します。
ITS健保の加入基準は、業種・規模・報酬水準で決まります
ITS健保(関東ITソフトウェア健康保険組合)は、IT・ソフトウェア関連の事業所が集まって作る健康保険組合です。加入基準のうち、私が公式ページで確認できた主なものは次のとおりです。
| 項目 | 内容(公式の記載) |
|---|---|
| 業種 | ソフトウェアの研究開発・流通、コンピュータの販売・保守、情報提供など。既に加入している事業所の親会社・子会社・関連会社も対象 |
| 規模 | 被保険者が20名以上(関連会社は5名以上) |
| 社会保険の加入期間 | 社会保険に加入してから1年以上 |
| 地域 | 東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬・新潟・長野・山梨にある、協会けんぽ加入の事業所 |
| 報酬水準 | 標準報酬月額118千円以下の被保険者がいないこと(事業所の平均が組合平均=令和7年度は440千円を超える場合は例外)。標準報酬月額の平均が「(平均年齢+2)×1万円」以上であること(平均30歳なら32万円以上) |
| 加入者の構成 | 平均年齢・扶養率が組合平均を著しく上回らないこと、公租公課の滞納がないこと |
表の「協会けんぽ加入の事業所」という記載に注目してください。つまりITS健保は、今協会けんぽに入っている会社が移る先として想定されている組合のようです。
もう一つ、報酬水準の条件も見逃せません。「平均年齢+2」に1万円を掛ける式なので、社員の平均年齢が上がるほど、求められる報酬の平均も上がります。
「SESに多い」という公式の記述はありません
ここで正直に書いておくと、ITS健保の公式ページに「SES企業が多い」「SES向け」という記述は見当たりませんでした。SES企業の加入率のような統計も、私は確認できていません。
ここから先は私の推論です
SESは情報サービス業の一形態なので、業種の条件には合いやすいはずです。さらに、被保険者20名以上という規模の条件は、数十人から数百人規模のSES企業なら満たしやすい水準です。この2点から「SES企業が加入しやすい土台はある」とは言えますが、「SESほど加入している」とは断定できません。
一方で、報酬水準の条件は、若手が多く給与を抑えめにしているSES企業ほど満たしにくい可能性があります。ただし、これも公式の記述ではなく、条件の式から私が読み取ったものです。
つまり、会社の側から「入りたい」と申し込めば必ず通るものではない、ということです。ITS健保に入っている会社は、少なくともこの条件を通っている会社だとは言えます。
協会けんぽの私が、ITS健保の会社の人から聞いた話
自社は協会けんぽです。保険証の発行元は全国健康保険協会になっています。そして今の4社目(二次請け)の現場で、別のSES会社から来ているエンジニアと、昼休みに保険証の話になったことがあります。
自社の福利厚生を棚卸ししてみました
聞く前に、自社にどんな福利厚生があるのかを整理しておきます。私が把握している範囲は次のとおりです。
- 健康保険は協会けんぽ(自社の規模は数百人規模だと見ています)
- 定期健診は、提携する健診ネットワークの予約サイトから好きな拠点を選ぶ方式(受診時間は時間単位有給で処理)
- 通勤費は月15,000円を上限に、定期代か実費精算
- 賞与は年2回。退職金制度はなし
健診と通勤費の運用は、それぞれ別の記事に書きました。
つまり「福利厚生が手厚い会社」というより、「法律で決まっているものと、最低限の運用を淡々と回している会社」というのが自社への実感です。悪いとも思っていませんが、これを見て満足していたわけでもありません。
同じ島のCさんの保険証は、ITS健保でした
きっかけは、秋口にインフルエンザの予防接種の話になったことでした。同じ島に座る別会社のCさん(30代前半、自社の社員数は二百人ほどと聞きました)と、会話になりました。
予防接種の費用って、そちらの会社は出るんですか。
うちは健保のほうから補助が出ますよ。ITS健保なので。
ITS健保、名前は聞いたことあります。保養施設とか使ってますか。
いや、正直ほとんど使ってないです。平日は現場ですし、土日は家にいたいので。
予防接種の補助の内容や金額は、私は公式ページで確認できていないので、ここでは書きません。
Cさんの話で印象に残ったのは、制度の内容ではなく「使っていない」という一言のほうでした。福利厚生が厚いかどうかと、本人が使えているかどうかは、別の話です。
ITS健保の福利厚生は、常駐だと使えるのか
結論使えるものと使いにくいものが、はっきり分かれます。日中に足を運ぶ施設型は使いにくく、申請だけで済むお金の給付型は使いやすいです。
ITS健保の公式ページで、直営の健診センター、保養施設、旅行(宿泊)補助、スポーツ施設、レストランなどの存在が確認できます(出典: ITS健保)。ただし、保養施設の料金や予防接種補助、健診料金は確認できていないので、金額の話はここでは書きません。
施設型は、時間・場所・手配の3点で常駐とぶつかります
施設型の福利厚生が、常駐で使いにくい3つの理由
- 時間帯が現場と重なるレストランや健診センターは平日の日中に動いています。客先に出社する日は、昼休みの1時間では往復すら難しいと、Cさんも言っていました。
- 場所が客先から離れている直営の健診センターは大久保・山王の2拠点で、予約はWEBのみです(出典: 直営健診センター|ITS健保)。客先の近くにあるとは限らず、通える現場は限られます。
- 会社が別に手配した健診が優先されるCさんの会社は、健診は会社が契約した別の機関で受ける運用で、直営の健診センターは使っていないそうです。
私の今の現場は、もともと週1出社の予定で、最近はほぼフル在宅です。ただ、在宅でも勤務時間は変わらないので、平日に施設を使うには、勤務時間外か有給にするしかありません。
旅行補助は、申請の順番で一度逃したそうです
Cさんには、もう一つ聞いた話があります。旅行(宿泊)補助を一度使ったものの、別の旅行では使い損ねたそうです。
公式の条件は、1人1泊5,000円(最低2,000円は自己負担)、年度内で延べ3泊まで、会社から経費補助のある旅行は対象外、そして旅行後の申請はできないというものです(出典: 宿泊補助|ITS健保)。Cさんは「旅行から帰ってから申請しようとして、もう出せないと知りました」と話していました。
休みを取りにくい常駐の身だと、旅行の日程が直前まで確定しないこともあります。予定が固まってから申請する運用は、現場の都合と噛み合いにくいのだと私は受け取りました。
使いやすいのは、お金が戻る付加給付です
一方、申請だけで済む給付は、現場に関係なく使えます。ITS健保の保険給付一覧を見ると、付加給付として次のものが載っています。
出典: 保険給付一覧|ITS健保。傷病手当金・出産手当金・移送費の付加給付は「なし」と記載されています。
一部負担還元金は、同一人・同一月・同一医療機関(入院と、外来+調剤は別扱い)の自己負担額から2万円を引いた額が戻る仕組みです。高額療養費に当たる分は対象に含まれず、引いた後の額は100円未満が切り捨てられ、1,000円未満なら支給されません。
単純な例として、ある病院の外来で自己負担が月3万円になった場合、2万円を引いた1万円が戻る計算です。逆に、風邪で月3,000円程度の自己負担なら、2万円以内なので何も戻りません。
付加給付の恩恵を、私は受けられていません
私は自社の協会けんぽで、こうした上乗せの給付があるかを確認していません。そもそも自社に聞く機会がないまま、ここまで来てしまいました。大きな病気や手術がなければ、付加給付を使う機会もありません。
なお、傷病手当金の付加給付は「なし」と記載されています。長く休んだときの収入の面では、組合の有無で大きく変わらない可能性がある、ということです。
ここまでの話を、常駐で使えるかどうかの軸で並べ直すと次のとおりです。
施設型(日中に足を運ぶ)
- 直営の健診センター・保養施設・レストランなど
- 平日の日中に動いていて、昼休みでは往復も難しい
- 旅行補助は事前申請が必要で、日程が直前まで読めないと使い損ねる
- 常駐だと使いにくい
給付型(申請で戻るお金)
- 出産育児付加金・埋葬料付加金・一部負担還元金
- 申請だけで済む
- 現場に関係なく使える
- ただし使う場面は出産・大きな医療費・不幸に限られる
ポイント: 福利厚生を「何があるか」で見ると、施設型が目立ちます。常駐SESの場合は「日中に足を運ばずに使えるか」で見ると、現実的な価値が分かります。
保険料率の差は、手取りにどれくらい効くのか
ITS健保の魅力としてよく挙げられるのが保険料率です。ただ、ここは数字で考えないと、福利厚生の印象だけで判断してしまいます。令和8年度の公表値で、実際に計算してみました。
協会けんぽ(東京)とITS健保の料率を並べます
協会けんぽ東京支部の令和8年度は、健康保険が9.85%、介護が1.62%(40〜64歳)、子ども・子育て支援金が0.23%です(出典: 令和8年度都道府県単位保険料率|協会けんぽ)。
ITS健保は、健康保険が9.27%(調整保険料率1.30‰を含み、支援金を除く。令和8年4月分以降)、支援金が別に0.23%、介護が1.80%(40〜64歳)です。いずれも労使折半です(出典: 令和8年度保険料率|ITS健保)。支援金を足して条件をそろえると、40歳未満の合計は協会けんぽが10.08%、ITS健保が9.50%です。
この試算の前提
標準報酬月額を30万円と40万円の2パターン、本人負担は労使折半、端数処理は省いた概算です。私の現在の給与ではありません。
| 本人負担(月額) | 協会けんぽ東京 | ITS健保 | 差 |
|---|---|---|---|
| 標準報酬30万円・40歳未満 | 15,120円 | 14,250円 | 870円 |
| 標準報酬40万円・40歳未満 | 20,160円 | 19,000円 | 1,160円 |
| 標準報酬30万円・40歳以上(介護分あり) | 17,550円 | 16,950円 | 600円 |
協会けんぽ東京とITS健保の本人負担の差(令和8年度、概算)。
差は年1万円前後で、40歳を超えると縮みます
私が意外だったのは、40歳以上だとITS健保のほうが介護分が高く、差が縮むことです。標準報酬30万円なら、介護分の本人負担は協会けんぽが月2,430円、ITS健保が2,700円で、ITS健保が270円高くなります。差は月870円から600円(年約7,200円)になります。
もう一つ、この差は会社側にも同額が生じます。事業主負担が下がった分が給与に回るとは限らないので、本人の手取りに出るのは上の表の金額までだと私は見ています。
年約1万円という金額は、福利厚生の見た目の印象に比べると、地味かもしれません。ただ、毎月確実に出ていく費用なので、施設を使う機会より、こちらのほうが本人にとって確実に効く部分だと私は見ています。
求人票の「ITS健保」表記をどう見るか
転職する予定は今のところありませんが、私は時々、求人サイトでSES企業の求人票を眺めます。あるときに30件ほど見たところ、健保の名前まで書いてあったのは6件でした。ほとんどは「社会保険完備」とだけ書かれていました。
この偶然の数字から、SES全体の傾向は言えません。ただ、「ITS健保」と書かれていた求人は、社会保険の中身まで書いてあるという意味で、情報が具体的だとは感じました。加入基準を通っている会社だとも読み取れるので、規模や安定性を見る材料の一つにはなると思います(これは私の推論です)。
求人票・面談で確かめること
- 健保名の記載があるか(ITS健保・協会けんぽなど)。なければ面談で聞く
- 付加給付の有無(あるなら内容)
- 有給の取得日数の実績と、時間単位有給が使えるか
- 交通費の上限額と、リモート日の扱い
- 退職金・住宅補助・資格手当の有無
- 標準報酬月額の基になる月給の内訳(固定残業代が含まれるか)
最後の項目は、保険料に直結します。固定残業代が月給に含まれていると、標準報酬月額が高くなり、保険料の本人負担も増えます。福利厚生の見た目より、月給の内訳のほうが、手取りには大きく効きます。
退職金については、自社の制度を調べた話を別に書きました。
福利厚生より、給与と手取りとのバランスを見ます
ここまで調べて、私が出した結論は地味です。ITS健保かどうかを、転職先を選ぶ決め手にはしません。
理由は、常駐中心の私にとって、使える福利厚生の範囲が限られているからです。保養施設や直営の健診センターは使いにくく、残るのは付加給付と保険料率の差です。そして保険料率の差は、月給が数万円違えば吹き飛ぶ程度の金額(年約1万円)だからです。
また、単価に対する給与の割合(還元率)の話が、福利厚生の差よりはるかに大きいことは、単価と月収の差を4つの現場で比べた記事に書いたとおりです。
もちろん、家族の医療費がかかる人や、出産を控えている人にとっては、付加給付が大きな意味を持つこともあります。自分の状況に合うかどうかで判断してください。
まとめ
SESの福利厚生が薄いかどうかは、ITS健保の有無だけでは決まりません。私の見立ては次のとおりです。
- ITS健保は業種・規模・報酬水準の条件を満たした組合です SES企業が加入しやすい土台はありますが、「SESに多い」と言い切れる公式の記述や統計は確認できていません
- 施設型の福利厚生は、常駐だと使いにくいです 平日の日中、遠い場所、事前申請という条件が重なるため、Cさんも「ほとんど使っていない」と話していました
- 使いやすいのは付加給付と保険料率です ただし、付加給付を使う場面は限られ、保険料率の差も、標準報酬30万円(40歳未満)で月870円、年約1万円です。40歳以上は月600円に縮みます
- 求人票は健保名と給与の内訳を見ます 福利厚生の名前より、月給・交通費・有給の運用のほうが手取りに効きます
協会けんぽの私から見ても、ITS健保の会社が羨ましくないわけではありません。ただ、福利厚生の一覧を眺めるより、自分が実際に使える場面があるかを先に考えたほうが、判断を間違えにくいと感じています。
今の会社の福利厚生がどうなっているか分からない人は、保険証の発行元と、就業規則の福利厚生の項目を、一度見ておいてください。知らないまま使っていない制度が、意外と残っているかもしれません。




