「客先の健康診断、一緒に受けられますか」。隣の島に座るプロパー社員に聞かれたことがあります。

SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、健康診断は毎回、客先とは別のルートで手配されてきました。

今回は、二次請けの4社目で実際にあった受診日の調整と、受診時間が稼働時間にどう扱われたのかを、実体験と厚生労働省の資料をもとに整理します。

この記事で分かること

  • 客先常駐の健康診断は、なぜ客先ではなく自社で受けることになるのか
  • 4社目で実際にあった、拠点選びから受診当日までの流れ
  • 受診時間は稼働時間になるのか、有給・半休・工数報告の実際
  • 健診機関の拠点数の違いで、3社目と4社目でどれだけ負担が変わったか
  • 2028年に迫るストレスチェックの義務化拡大と、SESエンジニアとの関係
目次
  1. 客先常駐の健康診断はどこで受ける?結論は「自社」経由です
  2. 客先常駐と派遣、健康診断の実施義務を負うのは誰か
  3. 一般健診と特殊健診、受診時間の労働時間該当性は別物です
  4. 4社目で受けた健康診断、拠点選びから当日の流れまで
  5. 在宅中心なので、会場までの移動時間は勤務の中で調整しました
  6. 在宅中心なら、交通費の実費精算にも影響しません
  7. 受診時間の有給・半休の扱いと工数報告の書き方
  8. 作業報告書には「私用」とだけ書きました
  9. 3社目では、丸1日の有給を使いました
  10. ストレスチェックの50人未満義務化とSESエンジニアの関係
  11. まとめ

客先常駐の健康診断はどこで受ける?結論は「自社」経由です

結論客先ではなく、雇用契約を結んでいる自社(所属するSES企業)が手配します。

6月上旬、客先の同じ島に座るプロパー社員が「来週、人間ドックで休みます」と話していました。数日後、自社から健康診断の案内メールが届いたので、そのプロパー社員に自分の健診の話をしたところ、こう聞き返されました。

私

私も来月、健診があるんです。

プロパー社員

え、うちの健診センターじゃないんですか。

私自身、これまで4社の客先常駐を経験してきましたが、客先の健診枠に入れてもらったことは一度もありません。

プロパー社員の反応を見て、この仕組みは意外と知られていないのだと感じました。同じオフィスで机を並べていても、健康管理の面では別の会社の人間として扱われている、ということです。この記事では、なぜそうなるのかという背景と、実際に4社目でどう受診したのかを、受診時間の扱い方まで含めて書きます。

客先常駐と派遣、健康診断の実施義務を負うのは誰か

結論実施義務を負うのは、労働者を雇用している会社です。SESエンジニアの場合は客先ではなく、雇用契約を結んでいる自社にあたります。

客先常駐という働き方は、業務の指示や進め方こそ客先の現場に合わせますが、雇用契約そのものは自社との間にしか存在しません。健康診断の実施義務も、この雇用契約に紐づく形で自社側にとどまります。

ここでよく引き合いに出されるのが、労働者派遣との比較です。派遣社員の場合、一般健康診断は派遣元(雇用主)、特殊健康診断は派遣先が実施するという整理が、民間の解説サイトでは広く紹介されています。

確認できていないこと

正直に書いておくと、この整理を示す厚生労働省の一次文書を、私はこの記事を書くにあたって確認できませんでした。加えて、SESの客先常駐は労働者派遣ではなく、準委任契約であることが多いと言われています。派遣とSESでは指揮命令の建て付けそのものが違うので、この整理をそのまま当てはめることはできません。

確認できているのは次の2点だけです。

  • 健康診断の実施義務が雇用主(自社)にあるという一般的な理解
  • SESの準委任契約では、客先がエンジニア個人を直接雇用・指揮する立場にないという建前

この2つを合わせると、客先常駐であっても健康診断の手配は自社から来る、という私の実感と矛盾しません。「客先の健診に呼ばれない」のは、SES側の不備ではなく契約の建て付けどおりの結果ということになります。

一般健診と特殊健診、受診時間の労働時間該当性は別物です

ここでは、健診の種類ごとに受診時間の扱いがどう違うのかを、厚生労働省の資料で確認します。

健康診断には、全労働者が対象の一般健康診断と、有機溶剤や特定の化学物質を扱う業務など、限られた業務に対する特殊健康診断があります。私はこれまで、業務システムの開発・保守という仕事しかしてきていないので、特殊健康診断の対象になったことは一度もありません。ここから先は、自分が実際に経験している一般健康診断の話が中心になります。

賃金の扱いについては、厚生労働省のFAQで次のように整理されています。

一般健康診断について、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきもの

特殊健康診断については、受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要

厚生労働省のFAQの記述(要旨)|出典: 健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?|厚生労働省

一般健診の受診時間について、会社に賃金支払いの法的義務はありません。支払われたら会社の厚意、支払われなくても違法ではない、というのが出発点です。

昭和47年の通達でも同様の整理がされていて、一般健診は「業務遂行との関連において行なわれるものではない」ため労使協議事項とされています。特殊健診は「所定労働時間内に行なわれるのを原則」とし、時間外に実施する場合は割増賃金の支払いが必要とされています(出典: 労働安全衛生法及び労働安全衛生法施行令の施行について(昭和47年9月18日 基発第602号)|厚生労働省)。

一般健康診断特殊健康診断
対象常時使用する労働者全般有機溶剤業務など、限られた業務の従事者
受診時間中の賃金労使間の協議事項(支払いの法的義務なし)労働時間にあたり、賃金の支払いが必要
実施時間帯定めなし所定労働時間内が原則、時間外は割増賃金

この整理を知ったとき、正直なところ少し拍子抜けしました。健康診断はどこか「会社の義務」として全部お膳立てされているものだと思い込んでいたからです。実際には、受診すること自体は義務でも、その時間にお金が出るかどうかは会社の裁量が入り込む部分だったわけです。

4社目で受けた健康診断、拠点選びから当日の流れまで

ここから、実際に4社目で受けた健康診断の中身を書きます。まずは、案内が届いてから受診日を決めるまでの流れです。

  1. 5月下旬:自社から案内メールが届く件名は「定期健康診断のご案内」で、本文には提携する健診ネットワークの予約サイトのURLと、実施期間(6月中旬から7月末まで)が書かれていました。
  2. 予約サイトで拠点と日時を探す全国の提携医療機関の中から、自分で好きな拠点と日時を選ぶ仕組みでした。土日の枠は開いた時点ですでに翌々月まで埋まっていて、平日の午前中しか空きがありません。
  3. 在宅の勤務日に合わせる平日に受診するなら勤務を抜ける必要があります。4社目の現場は、もともと週1出社の予定でしたが、最近(2026年10月時点)はほぼフル在宅なので、出社日を休むのではなく、在宅の勤務日の中で受診の時間を確保することにしました。
  4. 移動の負担が小さい会場を選ぶ在宅中心で、客先への通勤経路に合わせる必要がないため、自宅から行きやすい会場を選べました。

在宅中心なので、会場までの移動時間は勤務の中で調整しました

在宅中心の働き方では、出社日を休むかどうかではなく、会場への往復と検査の時間を、その日の勤務の中でどう扱うかが論点になります。

私の場合は、受診のために勤務を抜ける時間帯をあらかじめ決めておき、会場への往復と検査にかかる時間を、後述の時間単位有給で処理しました。受診を終えて戻ったあとは、通常の稼働に戻っています。

在宅中心なら、交通費の実費精算にも影響しません

もうひとつ、在宅中心の働き方には副次的な利点があります。今の現場の交通費は出社日数に応じた実費精算です。

出社日に健診を入れると、その月の出社日数の数え方がずれて、自分で調整する手間が増えかねません。最近はほぼフル在宅で、出社の日数自体が少ないため、健診の日程が交通費の精算に影響することはほとんどありません。

受診時間の有給・半休の扱いと工数報告の書き方

一番気になるのは、この受診の時間がどう扱われたかだと思います。案内メールには、次の一文がありました。

受診時間は勤務時間に含まれません。時間単位の有給を消化するか、その日のうちに時間を調整して稼働時間を確保してください

自社の案内メールより

これは先ほど確認した「一般健診の受診時間についての賃金は労使間の協議事項」という整理どおりの運用です。自社が独自に決めたルールというより、法的に支払い義務がない部分を、時間単位有給という形で処理する選択をした、ということだと理解しています。

私は時間単位の有給を使う方式を選びました。受診で抜けた時間を有給扱いとし、戻ってからは通常の稼働時間として報告しています。

作業報告書には「私用」とだけ書きました

4社目の作業報告書は、日付・開始終業時刻・作業内容の3つの欄しかありません。その日は次のように記入しました。

私の記入内容

作業内容の欄に「私用のため時間単位有給使用」とだけ書きました。客先への連絡も、事前にチャットで「◯日の◯時台は私用のため不在にします」と伝えただけで、健診であることは特に説明していません。

聞かれれば答えるつもりでしたが、これまで理由を尋ねられたことはありません。有給の理由を伝える場面では、これまでも「私用です」で通ってきました。健診も同じ扱いで済んだ形です。

ポイント: 受診時間が勤務時間になるかどうかを自分で判断する前に、まず自社がどの方式(有給・半休・時間調整)を案内しているかを確認するのが早道です。一般健診は法的な賃金支払い義務がない分、運用は会社によって差が出やすい部分だからです。

3社目では、丸1日の有給を使いました

同じ健康診断でも、3社目にいたころはまったく違う負担でした。当時、自社が契約していた健診機関は都内の1拠点だけで、自宅からは片道1時間10分、客先からだと1時間25分かかる場所にありました。

3社目もリモートは週1〜2日ありましたが、拠点が遠すぎて、リモート日の午前に重ねても収まる距離ではありません。移動だけで往復2時間20分、院内の滞在を含めると4時間を超える見込みだったので、自社の担当者からも「半休だと厳しいので、1日の有給消化をおすすめします」と言われました。

結局、丸1日の有給を消化して受診しています。当時は年度末までの残り有給が6日という時期だったので、1日分の消化は正直それなりに痛い出費でした。今振り返ると、あの1日は健診の中身そのものより、移動時間のために消えた有給だったという感覚のほうが強く残っています。

3社目(二次請け・週1〜2日リモート)4社目(二次請け・もともと週1出社の予定、最近はほぼフル在宅)
健診拠点の選択肢自社契約の1拠点のみ提携ネットワークから選択可
自宅からの移動時間片道1時間10分行きやすい会場を選べた
使った休みの単位丸1日の有給時間単位の有給
客先への連絡終日不在の連絡不在の時間帯のみ連絡

同じ「年1回の健康診断」という制度でも、健診機関の拠点数と、そこまでの移動時間によって、実際の負担はここまで変わります。この差を生んでいるのは制度そのものではなく、健診機関の拠点数と移動時間でした。もし健診機関が遠方の1拠点しかないなら、リモート日があっても有給を1日分見込んでおいたほうが安全です。

受診日を決める前に確認しておきたいこと

  • 健診機関は1拠点だけか、複数拠点から選べるネットワーク型か
  • 受診時間の扱いは、有給消化か半休か、時間調整か(自社の案内文を確認する)
  • リモート予定日があるなら、その午前・午後に合わせられないか
  • 健診センターまでの交通費は、通勤費の規定の対象区間に含まれるか

ストレスチェックの50人未満義務化とSESエンジニアの関係

健康診断とは別に、自社からは毎年11月ごろ、オンラインで「心身の健康に関するアンケート」という名目の設問に回答する案内が来ます。数十問に5段階で答える形式で、提出すると「回答を受け付けました」という通知が返ってくるだけです。

私が把握できていないこと

正直に書くと、これが労働安全衛生法上のストレスチェックにあたるものなのか、それとも会社が独自に行っている満足度調査のようなものなのか、案内文には明記されておらず、私自身はっきり把握できていません。

客先常駐という働き方だと、自社の人事や総務がどんな制度をどんな根拠で運用しているのか、自分から聞きに行かない限り分からないままになりがちです。帰社日でさえ会社の全体像を知る貴重な機会になっていたことを考えると、この不透明さも同じ構図だと感じます。

ストレスチェック制度そのものは、現在は常時50人以上の事業場に実施義務があります。この対象範囲が、2028年4月から拡大されることが決まっています。中央労働災害防止協会のQ&Aによると、施行日は令和10年(2028年)4月1日で、施行日から1年以内に実施が必要です(出典: ストレスチェック50人未満義務化改正Q&A|中央労働災害防止協会)。

同じ資料では、派遣労働者はストレスチェックの対象労働者から除外され、実施義務は派遣元(雇用主)が負うとも説明されています。ここでも、派遣とSESの違いを意識しておく必要があります。SESの客先常駐は多くの場合、労働者派遣ではなく準委任契約です。

派遣労働者SESの客先常駐(準委任が多い)
対象労働者からの扱い除外される派遣のような対象除外の規定はない
実施義務派遣元(雇用主)雇用主である自社と考えるのが妥当

つまり、2028年の義務化拡大で新たに対象になるかどうかは、自分が働いている客先の従業員数ではなく、雇用契約を結んでいる自社の従業員数で決まります。

ここで正直に告白すると、私は自社の従業員数を正確に知りません。客先常駐という働き方は、同じ会社の同僚と顔を合わせる機会自体が少なく、会社の規模感を体感で把握する機会がほとんどない、というのが実感です。

年に一度届くアンケートが法定のストレスチェックなのか、それとも別物なのか。この記事を書くまで、私はその区別すら意識したことがありませんでした。名前のはっきりしない制度に、深く考えずに答え続けていたことになります。

自分のストレスチェックの位置づけを確認する方法

  • 今受けているアンケートが、労働安全衛生法に基づくストレスチェックなのかを総務・人事に確認する
  • 確認できないなら、2028年4月の義務化拡大に向けて、自社が対応方針を持っているかを聞いてみる
  • 結果が本人にどうフィードバックされる仕組みなのか(高ストレス者への面接指導の案内などがあるか)も合わせて確認しておく

義務化されるからといって、自分の働き方がすぐに変わるわけではありません。ただ、今まで名前も曖昧なまま回答していたアンケートが、実は法定の制度の一部だったと後から分かるより、先に確認しておいたほうが気持ちよく回答できると思います。

まとめ

  • 健康診断は自社が手配する 客先が個々のメンバーを直接雇用・指揮しないというSESの契約の建て付けどおりの結果で、不備ではありません
  • 受診時間の賃金は労使間の協議次第 一般健康診断の受診時間について、会社に賃金支払いの法的義務はありません。4社目では時間単位有給、3社目では丸1日の有給と、拠点数と移動時間で負担がまったく違いました

もし今、健診の案内が届いて「どこで受けるのか」「休みはどう扱われるのか」が分からず戸惑っているなら、自社が案内している消化方法(有給・半休・時間調整)を先に確認しておくと動きやすくなります。拠点までの移動時間を調べたうえで、可能ならリモート予定日に重ねてから予約するのがおすすめです。移動時間の見込みひとつで、使う休みの単位が丸1日にも数十分にもなります。

2028年4月にはストレスチェックの義務化対象が50人未満の事業場にも広がります。自社が対象になるかどうかを気にする前に、まず今受けている社内アンケートが法定のストレスチェックなのかどうかを、一度確認してみる価値はあると思います。