週次の進捗会議が終わった直後、「このあとは部内の話があるので、今日はここまでで」と言われ、画面の向こうの接続先ごと切り替わったことがあります。

SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐を経験してきましたが、この「呼ばれない側」に立つ感覚は、複数名で常駐している今の現場に来てから一番はっきり感じるようになりました。

今回は、客先常駐でプロパーとの壁をどこで具体的に感じるのか、その線引きがなぜ生まれるのかを、今の現場(4社目)の実体験から整理し、壁を前提にした立ち回り方までお伝えします。

この記事で分かること

  • プロパーだけの定例に切り替わり、決定事項だけが後から降りてくる具体的な場面
  • 「〇〇さん」と「〇〇社さん」という呼び方の違いに気づいた経緯
  • 社内Wikiで、見える情報と見えない情報が分かれていた実例
  • 壁の背景にある準委任契約の建前・秘密保持の誓約・37号告示の視点
  • 壁を前提にした情報の取り方と、信頼関係の作り方
目次
  1. 客先常駐でプロパーの会議に呼ばれないと気づいた場面
  2. 決定事項は、チケットの更新という形で降りてきました
  3. 呼び方にも線引きがありました|「〇〇さん」と「〇〇社さん」
  4. 一貫して会社名で呼ばれていたわけではありません
  5. 社内Wikiにも、見える情報と見えない情報がありました
  6. 開発情報はオープン、人事・総務系はクローズ
  7. 現場によって、壁の厚さは違いました
  8. なぜ壁ができるのか|契約の建前と秘密保持の視点
  9. 準委任契約の建前が「会社対会社」の関係を作る
  10. 秘密保持の誓約書が、情報の線引きを後押しする
  11. 疑義応答集(第2集)に「打ち合わせへの同席」という設問があります
  12. 壁を前提にした情報の取り方・信頼関係の作り方
  13. まとめ

客先常駐でプロパーの会議に呼ばれないと気づいた場面

今の現場(4社目)は、客先の社内向け業務システムを、独自の社内フレームワークで改修する二次請けの案件です。参画から9か月ほど経ちました。週次で開発の進捗定例があり、いつもは自社から私と同僚の2名、客先のプロパーが2〜3名、元請けの担当者が1名という顔ぶれで進みます。

参画から5か月ほど経ったある週、その定例がいつもより早く終わりました。プロパーのリーダーが「このあとは部内の話があるので、今日はここまでにしましょう」と言って会を締めたのです。Teamsの画面はそのまま接続が切り替わり、私たちには新しい接続先の案内は来ませんでした。

何を話す会なのか、聞かれもしませんでしたし、こちらから尋ねる空気でもありませんでした。この切り替わりは、その一回きりでは終わりませんでした。参画9か月の間に、月1回あるかないかの頻度で同じことが起きています。最初は偶然かと思っていましたが、今では定例の一部として織り込んで受け止めるようになりました。

決定事項は、チケットの更新という形で降りてきました

翌週、チケット管理システムを開くと、次期フェーズで予定していた改修対象画面の優先順位が変わっていました。先行する予定だった画面が後回しになり、別の画面が先に上がっていたのです。

理由が気になり、チケットのコメント欄で経緯を聞いてみました。

私

優先順位が変わった経緯を教えていただけますか

客先の返信

部内で整理した結果です。

返ってきたのは、この一文だけでした。悪気があっての回答だとは思っていません。ただ、経緯を追いかける手段が、こちらには最初から用意されていないのだと実感しました。呼ばれなかったこと自体より、決定の経緯をたどる手段がなかったことのほうが引っかかった、というのが正直な感覚です。

作業内容そのものへの不満はありませんでした。優先順位が入れ替わっても、担当する仕事の量が減るわけでも増えるわけでもなかったからです。それでも、自分たちが関わっている改修の方向性が、自分たちの知らないところで決まっているという事実は、じわじわと効いてきます。

会議の種類によって、情報の届き方がどれだけ違うかを並べてみると、次のようになります。

会議の種類出席者情報の伝わり方
開発の進捗定例自社2名・プロパー2〜3名・元請け1名その場で直接聞ける
部内定例(呼ばれない会)プロパーのみチケットの更新結果として、数日遅れで伝わる
結合テストの日程調整会社をまたいだ混成メンバーその場にいれば聞けるが、呼び方に線引きがある

同じ「情報が降りてくる」でも、直接聞ける場とチケット経由でしか分からない場とでは、解像度がまるで違います。

呼び方にも線引きがありました|「〇〇さん」と「〇〇社さん」

もう一つ、参画から4か月目ごろに気づいたことがあります。結合テストの日程を調整するために臨時で開かれたミーティングでの出来事です。参加者はプロパー3名、元請けの担当者1名、自社から私と同僚の2名、別の協力会社から1名の、合わせて7名でした。

進行していたプロパーのリーダーは、プロパー同士は下の名前やニックネームで呼び合い、元請けの担当者には「〇〇さん」と個人名で呼びかけていました。ところが私たちと別の協力会社のメンバーには、「〇〇社さん、この日程で大丈夫ですか」というように、会社名に「さん」をつけた呼び方をしていたのです。

一貫して会社名で呼ばれていたわけではありません

その場ではあまり気に留めませんでした。ただ、その後に出席した別のミーティングでも、同じ呼び分けが繰り返されているのに気づき、記憶に残るようになりました。参画初日の自己紹介では「シンペイさんですね、よろしくお願いします」と個人名で呼ばれていたので、最初から一貫して会社名で呼ばれていたわけではありません。

普段の1対1のやり取りでは名前で呼ばれ、複数の会社が同席する場になると会社名に切り替わる。この違いに気づいてから、意識して観察するようになりました。これが意図的な区別なのか、単なる習慣なのかは、正直なところ分かりません。名前で呼ぶ相手・立場と、会社名で呼ぶ相手・立場が、無意識のうちに分かれているだけかもしれません。

それでも、複数社が同席する場になった瞬間、自分が「個人」ではなく「会社の代理」として扱われている感覚を持ったのは事実です。

チャットのメンションでも、同じ傾向があります。会議の場に限った話ではなく、書き言葉のやり取り全体に及んでいる区別なのだと、後から気づきました。

場面呼ばれ方
参画初日の自己紹介・1対1のやり取り・個別のダイレクトメッセージ「シンペイさん」(個人名)
複数の会社が同席する会議「〇〇社さん」(会社名)
複数社が入っているチャンネル「〇〇社様」という宛名が多い

似たような線引きは、名刺の名乗り方を扱った記事で書いた「商流を見せたくない」という客先側の事情とも、根っこの部分でつながっているように思います。

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社内Wikiにも、見える情報と見えない情報がありました

3つ目は、情報そのもののアクセス権限にまつわる話です。今の現場は、前フェーズの課題管理票が共有フォルダに残っていて、決定の理由をたどれる珍しい現場だと以前書きました。

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開発に関する情報は、協力会社のアカウントでも比較的広く閲覧できる現場だったのです。その前提があったからこそ、別のページでアクセスを拒まれたときの落差が大きく感じられました。

参画から半年ほど経ったころ、隣の席のプロパー社員が雑談の中で「来月、全社の方針説明会があるらしいですよ」と話していました。詳細を自分でも確認しようと、社内ポータルの検索で該当のページを探し、リンクをクリックしたところ、「このページへのアクセス権がありません」という表示が出ました。

開発情報はオープン、人事・総務系はクローズ

開発関連の情報にはこれまで大きな不自由を感じたことがなかっただけに、人事・総務系の情報だけがきっぱり切り分けられていることに、このとき初めて気づきました。前フェーズを担当していた別の協力会社が残した設計書や検討記録まで、権限を申請することなく閲覧できていたので、余計にその落差が際立ちました。

情報の種類閲覧できたか例
開発関連権限を申請せず閲覧できた前フェーズの設計書・検討記録・課題管理票
人事・総務系「アクセス権がありません」全社の方針説明会のページ

自社の営業に確認してみると、「客先の内部向け情報にはアクセスできない前提で契約しています」という趣旨の説明がありました。契約書の文言そのものを見せてもらったわけではありません。

振り返ってみると、開発情報がオープンだったのは、それが今回の改修という契約の目的そのものに直結する情報だったからで、人事・総務系の情報は契約の目的の外側にある、という単純な線引きだったのだろうと今は理解しています。「見える範囲の広さ」は、親切さの表れというより、契約でお願いされている仕事の範囲そのものを映す鏡なのかもしれません。

ポイント: 「情報が見えるか見えないか」は現場によって一律ではなく、開発関連の実務情報はオープンでも、組織の内部向け情報だけは閉じられている、という混在の仕方をすることがあります。

一つの現場で経験した「見える範囲」を、別の現場でもそのまま当てはめない方がよさそうです。

現場によって、壁の厚さは違いました

ここまでは今の現場(4社目)の話ですが、他の現場と比べると、壁の感じ方はかなり違っていました。

2社目は三次請けで、指示の多くは客先本体ではなく間に立つ元請けの担当者から来ていました。客先のプロパーと直接顔を合わせる機会そのものが少なく、壁を感じる場面もあまり記憶にありません。

3社目は自社の人間が自分ひとりだけの配置でした。自社の同僚こそいませんでしたが、その分、客先のプロパーや別の協力会社の方との日常的な接点はむしろ多かったというのが実感です。

3つの現場を並べると、こうなります。

現場自社の配置人数プロパーとの日常的な接点壁を感じた場面
2社目(三次請け)複数名少ない(元請け経由が中心)ほとんど記憶にない
3社目(二次請け・一人配置)1名多い(日常会話は活発)契約・評価など「奥の情報」には距離があった
4社目(二次請け・今の現場)2名中程度(会議・チケット中心)会議の招集範囲・呼び方・Wikiのアクセス権限

配置人数が多いほど壁を感じにくいわけでも、少ないほど感じにくいわけでもありません。同じ会社の同僚がいることと、客先の輪の中に入れているかは、別の軸の話だったというのが、4社を経験しての見え方です。

なぜ壁ができるのか|契約の建前と秘密保持の視点

結論会社対会社で結ぶ準委任契約の建前と、参画時に署名する秘密保持の誓約が重なっているためだと、私は理解しています。契約書を直接見て確かめた話ではなく、経験した線引きからの推測です。

ここまで書いてきた3つの場面には、共通する背景があると考えています。

準委任契約の建前が「会社対会社」の関係を作る

SESの客先常駐は準委任契約が中心です。準委任契約は、民法643条・656条が定める、成果物ではなく業務の遂行そのものを委託する契約類型です。この建付けの下では、客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない建前になっています。

この建前を裏返すと、客先が仕事を委託している相手は、個人ではなく「会社」だということになります。日々の実務では個人に仕事が降りてきますが、契約上の当事者はあくまで会社同士です。

会議への招集も、呼び方も、情報のアクセス権限も、突き詰めれば「誰の会社の人間か」という区分に沿って線が引かれています。個人としての信頼関係とは別の軸で、この区分がずっと存在し続けているということです。

秘密保持の誓約書が、情報の線引きを後押しする

もう一つの背景が、秘密保持の誓約です。入場時の書類の詳細は、別の記事に書いています。

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私の場合

今の現場に参画する際、元請け名義・客先名義それぞれ1枚、計2枚の誓約書に署名しました。条文の細かい文言までは記憶に残っていませんが、客先の非公開情報を必要な範囲を超えて取得したり、外部に共有したりしないという趣旨の条項があったという記憶はあります。

準委任契約の建前と、この秘密保持の誓約という2つが組み合わさると、「プロパー社員同士なら共有していい情報」と「協力会社にまで共有する必要はない情報」を、客先の側が無意識に選り分けやすくなるのだろう、というのが私なりの解釈です。

断定できないこと

これは私が契約書を直接見て確認した話ではなく、実務で経験した線引きから逆算した推測にとどまります。断定はできません。

疑義応答集(第2集)に「打ち合わせへの同席」という設問があります

偽装請負の判断基準を扱った記事で、37号告示関係疑義応答集の第1集をもとに指揮命令の境界線を整理しました。この記事を書くにあたって改めて確認したところ、第2集の目次には「打ち合わせへの請負労働者の同席等」という設問があることが分かりました。

ただし、私が実際に確認できたのは目次までです。具体的な質問文・回答の中身までは読み取れていないので、この記事でその内容を紹介することはしません。会議への同席や、招集の範囲について心当たりがある方は、厚生労働省が公開している疑義応答集の一覧ページから、一次資料を直接確認することをおすすめします。

少なくとも、会議への同席という論点そのものが、業界で議論されてきたテーマの一つだということは、このタイトルの存在からもうかがえます。

壁を前提にした情報の取り方・信頼関係の作り方

ここまで壁の場面と背景を書いてきましたが、壁があると分かった上で、実際にやってきたことも正直に書いておきます。

一度だけ、うまくいったと思える例があります。結合テストの日程調整のミーティングのあと、進行していたプロパーのリーダーに、個別にチャットで聞いてみたことがあります。

私

次期フェーズの優先順位、差し支えない範囲で教えてもらえますか

プロパーのリーダー

性能検証の結果待ちで、確定したら共有します。

会議の場では出なかった一言です。大きな情報ではありませんが、部内定例という壁の向こう側の空気が、少しだけ伝わってきた瞬間でした。

壁を前提にした情報の取り方・立ち回り方

  • 会議の議事録・決定事項を、後から一言もらう習慣をつける 「部内で整理した結果です」だけで終わらせず、「差し支えない範囲で、判断の背景も教えていただけますか」ともう一段だけ踏み込んで聞くようにしています。断られることも多いですが、聞かないよりは情報が増えます
  • 1対1の場を意識して作る 複数社が同席する会議では呼び方も情報の粒度も変わりやすいので、込み入った確認は個別にチャットや通話でお願いするようにしています
  • 公開されている情報は取りこぼさない 開発関連の情報がオープンな現場なら、そこは最大限読み込みます。アクセスできない範囲を悔やむより、見える範囲を隅々まで使い切るほうが効率的です
  • 自分からは名前で呼ぶ 相手からどう呼ばれるかは選べませんが、自分がプロパーの方や他の協力会社の方を名前で呼ぶことは、いつでもできます。小さなことですが、関係の作り方として意識しています
  • 同じ立場の人同士で情報を突き合わせる 同じ自社の同僚や、別の協力会社の方と、それぞれが聞けた範囲の情報を持ち寄るだけで、一人で得られる情報より解像度が上がります

空振りだった例

この工夫のすべてがうまくいっているわけではありません。優先順位の変更について踏み込んで聞いたときは、それ以上の情報は結局引き出せませんでした。

同僚と情報を突き合わせたときも、収穫がゼロだったことがあります。部内定例の後に何を聞けたか確認し合ったところ、同僚に返ってきたのも同じ「部内で整理した結果です」の一文でした。新しい情報は増えませんでしたが、自分だけが特別に絞られているわけではないと分かったのは、それはそれで一つの収穫でした。

それでも、聞くこと自体をやめてしまうと、その一回で情報の経路がゼロになります。聞いて空振りに終わるのと、最初から聞かないのとでは、次に同じ場面が来たときの動きやすさが違うというのが、今のところの実感です。

もう一つ、壁があることを、プロパー社員個人への不満に変換しないよう意識しています。呼び方の違いも、会議の招集範囲も、目の前の担当者が個人的に線を引いているというより、契約の建前・秘密保持の仕組みの上に立って、その人なりの判断をしているだけだと捉えるようにしています。この見方に切り替えてから、壁そのものは変わらなくても、日々のやり取りで感じる摩擦はいくらか減りました。

まとめ

客先常駐でプロパーとの壁を感じるのは、気のせいでも、こちらの態度の問題でもないと考えています。要点は次の3つです。

  • 壁を感じた場面 部内定例からの締め出し、呼び方の違い、社内Wikiのアクセス権限の3つ
  • 背景 客先が個々のメンバーに直接指揮命令をしない準委任契約の建前と、参画時に署名する秘密保持の誓約。この2つで、プロパー同士と協力会社への情報共有の間に線が引かれやすくなっていると理解しています
  • 現場ごとの違い 三次請けで客先と接点の薄かった2社目、一人配置で日常的な接点はむしろ多かった3社目と比べても、今の現場での感じ方はまた別の質のものでした

壁そのものをなくすことは、メンバーという立場ではできません。それでも、決定の背景をもう一段だけ聞いてみる、公開されている情報を取りこぼさない、名前で呼ぶところから自分で関係を作りにいく、といった小さな動きは、今すぐ始められます。

もし今、会議に呼ばれない、呼び方が違う、といった線引きにもやもやしているなら、それは客先の担当者個人の問題ではなく、契約の建て付けの上に立った振る舞いである可能性が高いです。まずはその構造を知った上で、聞ける範囲を一つずつ広げてみてください。