「あなたみたいな人がうちの正社員にいたらいいのに」。客先の担当者から冗談交じりにそう言われた話を、現場の別の協力会社の方から人づてに聞いたことがあります。

SESエンジニアとして5年ほど、客先常駐で複数の現場を渡り歩いてきましたが、私自身は客先から直接そう声をかけられた経験は一度もありません。

今回は、SESから客先企業への転籍・引き抜きが制度としてどこまで可能で、実際にどの程度あるのか、契約書の話と自分の観測範囲の話を分けてお伝えします。

この記事で分かること

  • 労働者派遣法33条の引き抜き禁止規定が、SES(準委任契約)には直接及ばない理由
  • 引き抜き禁止条項の有効性が、どんな法的な枠組みで判断され得るか
  • 入社時に自分が署名した誓約書の記憶と、見たことのない自社・客先間の契約書の違い
  • 同期入社7人のその後を追って分かった、「転籍」と「転職」の実態的な違い
目次
  1. SESから客先への転籍・引き抜きは実際にあるのか
  2. 制度としてどうなっているか:派遣法33条とSES契約の違い
  3. 派遣法33条は何を禁じているのか
  4. なぜSESには33条が届かないのか
  5. 引き抜き禁止条項の有効性はどう判断されるのか
  6. 参考になる裁判例、ただしどちらもSESの事案ではない
  7. 自分が実際に見た書類と、見たことのない書類の話
  8. 観測範囲でどうだったか:同期7人のその後
  9. 唯一「転籍」と呼べそうな例は、実は正規の転職だった
  10. 残り3人は、SES業界の外や別のSES企業へ
  11. もう一つの弱い伝聞:雑談レベルで終わった声かけ
  12. 契約書で縛られていても転籍が少ない、本当の理由
  13. もし客先から声をかけられたら、何を確認しておきたいか
  14. まとめ

SESから客先への転籍・引き抜きは実際にあるのか

結論私の観測範囲では、ほとんどありません。同期7人のうち転籍と呼べる例は1件で、それも常駐中の引き抜きではなく、離職後の正規の中途採用でした。

「SES 引き抜き」で検索すると、上位には企業側の弁護士が防止策を解説する記事が並びます。引き抜き禁止条項の作り方、就業規則の整え方、誓約書のひな形といった、会社側がどう自衛するかという視点のものがほとんどです。

常駐している本人の側から書かれた記事は、私が見た範囲ではあまり見当たりませんでした。

私の立場

私はこれまで二次請け・三次請けの下流の立場で、業務システムの現場を4社ほど渡り歩いてきました。1〜3社目はメンバーとして手を動かす側で、リーダーやサブリーダーの経験はありません。4社目で管理職になりました。契約書の中身を見られる立場にもいません。

そういう一エンジニアの目線から見て、転籍・引き抜きという出来事がどのくらい現実味のあるものなのかを、この記事では整理します。

この記事の前提

先に断っておくと、私自身は客先から引き抜かれた経験がありません。誘われたことすらないというのが正直なところです。だからこの記事は「引き抜かれた体験談」ではなく、「引き抜きという出口が制度としてどう成り立っていて、自分の観測範囲でどこまで見えたか」を切り分けて書くものです。制度の話と実体験の話が混ざると、読んだ人が誤解する可能性があるので、章ごとに明確に分けます。

制度としてどうなっているか:派遣法33条とSES契約の違い

まず制度の話からです。ここでよく混同されるのが、労働者派遣法の引き抜き禁止規定と、SESの契約の関係です。

結論から言うと、労働者派遣法第33条は、SESの契約形態には直接適用されません。この区別を明確に書いている記事は意外と少ないので、順を追って説明します。

派遣法33条は何を禁じているのか

労働者派遣法33条には、派遣元事業主が派遣労働者との間で、派遣先への転籍を禁じる契約を結んではならないという趣旨の規定があります。条文を確認すると、次のように書かれています。

第三十三条 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

労働者派遣法 第33条第1項

第2項では、派遣先が派遣元との間で「うちが直接雇うことを禁じる」という契約を結ぶことも同様に禁止されています(出典: 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律 第30条~第38条|労働新聞社)。

つまり派遣という働き方では、派遣先への転籍を契約で縛ること自体が、原則として禁じられているわけです。

なぜSESには33条が届かないのか

ここが肝心なところです。SESに33条が届かない理由を、3つに分けて整理します。

SESに派遣法33条が届かない3つの理由

  1. 33条が規制するのは労働者派遣事業だけ派遣法33条が規制の対象にしているのは、あくまで「労働者派遣事業」です。
  2. SESは準委任契約という形で結ばれる多くの場合、準委任契約です。客先が現場のメンバーに直接指揮命令をしない建前になっており、この建前が守られている限り、法律上は労働者派遣ではなく請負・準委任として扱われます。
  3. 33条の主語が違う派遣元事業主・派遣先を主語にした条文であり、準委任契約を結んでいるSES企業と客先企業の間には、そもそも適用の土台がありません。

偽装請負の判断基準を扱った別の記事でも触れましたが、実態として客先から直接指揮命令を受けているかどうかは、現場によってかなり温度差があります。ただ、契約の建前上「準委任」であるという前提に立つ限り、そこに労働者派遣法という物差しをそのまま当てはめることはできません。

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つまり、SESの契約書に「常駐先企業への転籍・転職を禁ずる」という条項があったとしても、それを派遣法33条違反だと主張することはできません。33条という物差しが最初から用意されていない場所だからです。この区別を知らないまま「引き抜き禁止条項は派遣法違反で無効」という一般論だけを鵜呑みにすると、話がずれてしまいます。

引き抜き禁止条項の有効性はどう判断されるのか

結論絶対に有効とも、絶対に無効とも言い切れません。契約の中身が本人の職業選択をどれだけ不当に縛っているかを比べて、個別に判断されます。

では、SESの契約における引き抜き禁止条項は、無条件に有効なのでしょうか。ここは民法上の契約自由の原則と、それに対する制約のバランスで考える必要があります。契約自由の原則からすれば、企業同士が「常駐させたメンバーを直接雇用しない」という条項を結ぶこと自体は、本来自由です。

ただし、その内容が行き過ぎている場合は民法90条の公序良俗違反として無効になり得ますし、働く本人の立場から見れば、憲法22条1項が定める職業選択の自由との兼ね合いも問題になります。

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。(民法90条)

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。(憲法22条1項)

民法90条と憲法22条1項の条文

つまり、SESの引き抜き禁止条項が「絶対に有効」とも「絶対に無効」とも言い切れず、契約の中身がどれだけ本人の職業選択を不当に縛っているかという比較衡量で、個別に判断されるというのが法律の建てつけです。

ここで断定できないこと

目的が正当か、範囲が広すぎないか、期間が長すぎないかといった要素が考慮されるだろうとは思いますが、私が確認できた範囲では、この点を判断した確立した基準を示す一次情報にはたどり着けませんでした。ここは断定せず、「そういう比較衡量の枠組みで判断される」という粒度にとどめておきます。

参考になる裁判例、ただしどちらもSESの事案ではない

引き抜きに関する裁判例をいくつか確認しましたが、SESの準委任契約を直接争った判例は見つけられませんでした。参考になりそうなものとして次の2つがありますが、どちらも前提が異なる点に注意が必要です。

事件判断の内容SESに当てはめられない理由
バイオスほか(サハラシステムズ)事件(東京地判平28.5.31労判1275.127)派遣先での就労を禁止する条項が労働者派遣法33条1項に違反し無効と判断された(出典: 鈴悠法律事務所)労働者派遣契約の事案で、SES=準委任契約の枠組みとは前提が異なる
ラクソン等事件(東京地判平3.2.25)従業員の引き抜き行為が「社会的相当性を逸脱した」場合に違法となり、損害賠償の対象になり得るという判断(出典: 労働新聞社)英会話教室運営会社の事案で、IT・SES業界の話でも、派遣・準委任契約の話でもない。あくまで「引き抜き行為の違法性は、勧誘の計画性や態様によって左右され得る」という一般論の参考

ポイント: SES業界の準委任契約に特有の判例は、今回確認できた範囲では見つかりませんでした。「派遣法違反だから無効」という主張は労働者派遣契約が前提であり、SESにそのまま持ち込むことはできません。

契約書に転籍禁止の条項があった場合、その有効性は個別の事情次第で、一律に「無効だから気にしなくていい」とは言えないというのが実態に近い理解です。

自分が実際に見た書類と、見たことのない書類の話

制度の話はここまでにして、自分自身の経験に戻ります。1社目に入社したとき、雇用契約書とは別に、誓約書のようなものにも署名した記憶があります。

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1社目の入社時に署名した誓約書

研修初日のオリエンテーションで、いくつかの書類と一緒に流れで渡され、内容をじっくり検討する間もなくサインした、というのが正直なところです。

正確な条文までは覚えていませんが、在籍中に知り得た客先の業務情報を第三者に漏らさないという趣旨の秘密保持の条項と、もう一つ、退職後一定期間、会社が常駐させた企業と雇用契約その他の契約を結ばないという趣旨の条項があったという記憶があります。

期間が1年だったか2年だったかは、正直はっきり思い出せません。当時22歳の自分が、そこまで真剣に読み込んでいなかったというのが実態です。

ここで区別しておきたいのが、自分が署名した誓約書と、自社と客先の間で交わされている契約書は、まったく別の書類だということです。

自分が署名した誓約書自社と客先の間の契約書
当事者自分と自社自社と客先
内容を見たことがあるか自分も内容を見ている今に至るまで一度も見たことがない

単価すら上司から一度聞かされただけの立場ですから、自社と客先の間でどんな条項が交わされているかを知る手段は、そもそも持っていません。

自分が見られるのは自分と自社の間の書類だけで、自社と客先の間の契約書は見えないというのは、意外と見落とされがちな整理だと思っています。

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「うちの会社の契約書に引き抜き禁止条項があるかどうか」を気にする前に、まず自分が入社時に何にサインしたかを確認するほうが、現実的な第一歩です。

観測範囲でどうだったか:同期7人のその後

ここからは制度の話ではなく、実際に自分が見聞きした範囲の話です。1社目に入社したのは2021年4月で、集合研修2週間と自習期間3週間ほど、合計およそ5週間の研修期間がありました。

同期は7人、講師は自社の30代の先輩社員1人でした。あの頃は「SESってこういうものか」という感覚で、この手厚さが当たり前だと思っていたのを覚えています。

5年経った今、あの同期7人がどうなっているかを追ってみると、40代の壁を扱った記事でも触れた通り、SESの客先常駐を続けているのは半分に届かないくらいです。具体的には、私を含めて3人が今も客先常駐を続けていて、残り4人はそれぞれ違う道に進んでいます。

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全員の状況を正確に把握しているわけではなく、共通の同期経由の伝聞が混ざっている前提で読んでください。

唯一「転籍」と呼べそうな例は、実は正規の転職だった

4人のうち1人(以下、Bさんとします)は、3年目の終わりごろ(2024年3月ごろ)に自社を退職し、その後、それまで常駐していた客先企業の中途採用に応募して採用された、と共通の同期から聞きました。年収や待遇の具体的な数字までは聞いていません。

これだけ聞くと「引き抜きがあったのか」と思うかもしれませんが、話を聞いた限りでは事情が少し違います。流れは次のとおりだったようです。

  1. 3年目の終わりごろ(2024年3月ごろ)に、自社を退職したここでいったんSES企業の籍を抜いています。
  2. それまで常駐していた客先企業の、通常の中途採用の公募に応募し直した客先が現場に来ていた本人へ直接声をかけたわけではありません。
  3. 採用された常駐中に「うちに来ないか」と誘われたわけではなく、離職してから正規の採用ルートに乗った、という順番です。

これは私の理解では、いわゆる「引き抜き」とは質が違う出来事です。

観点「引き抜き」という言葉のニュアンスBさんのケース
タイミング在職中・常駐中本人が先に籍を抜いてから
声のかかり方相手側から声がかかる通常の転職活動と同じ土俵で、公募に応募して採用された

同期7人という限られたサンプルの中で、客先企業への転籍と呼べそうな唯一の例が、実は「引き抜き」ではなく「転職」に近い形だったというのは、この記事を書くために調べ直して初めて気づいたことでした。

残り3人は、SES業界の外や別のSES企業へ

もう1人は2年目の終わりごろに退職し、自社開発企業に転職したと聞いています。SESという働き方そのものから離れた例です。

もう1人は4年目ごろに退職し、別のSES企業に移ったらしいと聞きましたが、詳しい経緯は分かりません。最後の1人は3年目あたりで連絡が取れなくなり、風の噂で「辞めたらしい」と聞いた程度で、行き先は把握していません。

2021年4月入社の同期7人、2026年9月時点の内訳人数
SESの客先常駐を継続(私自身を含む)3人
常駐先だった客先企業へ、退職後に中途採用で転職(Bさん)1人
自社開発企業へ転職1人
別のSES企業へ転職(詳細不明)1人
連絡が取れなくなり、行き先不明1人

もう一つの弱い伝聞:雑談レベルで終わった声かけ

3社目、金融系のWebサイトの保守改善を担当していた時期に、同じ現場にいた別の協力会社の方が、客先のプロパー社員から「あなたみたいな人がうちの正社員にいたらいいのに」というようなことを雑談の延長で言われた、という話を人づてに聞いたことがあります。

これが本気の採用検討だったのか、その場限りの社交辞令だったのかは分かりません。その方がその後どうなったのかも、私は把握していません。一度きりの、しかも間接的な伝聞なので、これを業界の傾向として語るつもりはありません。

ただ、正式なオファーになった例(Bさんのケース)と、雑談で終わった例を並べてみると、「うちに来ないか」的な言葉が実際に転籍に結びつくケースは、少なくとも私の観測範囲ではかなり稀だったという実感を補強する材料にはなっています。

契約書で縛られていても転籍が少ない、本当の理由

結論条項の有効性そのものより、客先との接点の少なさ、客先企業側の事情、本人側の心理的な壁という構造的な理由が大きいと考えています。

ここまでの話を整理すると、SESの契約に転籍禁止の条項があったとしても、それが法律上絶対に有効というわけでも、絶対に無効というわけでもありません。それでも実際に転籍が少ないのだとしたら、理由は次の3つにあるのではないかと考えています。

転籍が少ない3つの構造的な理由

  1. 下流の立場だと、客先のプロパー社員との接点が限られる私がこれまでいた現場は二次請け・三次請けが中心で、客先のプロパーと日常的に会話するかどうかは現場によって差がありました。接点がなければ、そもそも声がかかりようがありません。
  2. 客先企業側にとっても、現場での個別の声かけは割に合わない今使っているSES企業との取引関係を壊すリスク、直接雇用に切り替えるための採用・労務手続きのコスト、他の常駐メンバーへの波及を考えれば、通常の中途採用市場で募集をかけるほうが、企業としては筋が通っているはずです。
  3. 本人側の心理的なハードルが高い契約終了・案件終了という受動的な異動を何度も経験してきた身としては、今の待遇や生活のリズムを自分から手放す決断は、想像以上に重いものです。案件が終わって流されるように次の現場に移るのと、自分の意思で今の環境を捨てて動くのとでは、必要な覚悟の量がまるで違います。

Bさんのケースが「常駐中の声かけ」ではなく「離職後の公募応募」という形になったのも、2つ目の筋に沿った動き方だったと考えると納得がいきます。

比較として、派遣契約とSES(準委任契約)の違いを整理しておきます。

観点労働者派遣契約SES(準委任契約)
指揮命令派遣先が直接行う(建前として明示)客先は指揮命令しない建前(実態が伴わないと偽装請負)
派遣法33条の適用適用される(転籍禁止契約は原則違法)適用されない(そもそも規制の対象外)
転籍禁止条項の扱い法律で原則禁止契約自由の範囲内。公序良俗・職業選択の自由との比較衡量で個別判断
転籍の実態(私の観測範囲)経験なし同期7人中、正規の転職に近い形で1人のみ

もし客先から声をかけられたら、何を確認しておきたいか

ここまでは、声がかかること自体の少なさを整理してきましたが、実際に声がかかった場合にどう動くべきかも、判断材料として残しておきます。

私自身にこの経験はないので、これは体験に基づくアドバイスではなく、ここまで整理してきた制度面の理解と、Bさんの一件から逆算して導ける、確認すべき項目の整理です。

声をかけられたときに確認する4つのこと

  • 誓約書の内容を先に確認する入社時に署名した誓約書に、退職後の転籍制限がどんな期間・範囲で書かれているかを、まず自分の目で確かめます。記憶が曖昧なら、人事に開示を求められないか検討する価値があります
  • 声かけの性質を見極める常駐中に直接誘われたのか、離職後に公募へ応募し直す形なのかで、法的なリスクの大きさは変わります。Bさんのケースのように後者に近い形であれば、契約上の懸念は相対的に小さくなります
  • 直接雇用の条件を書面で確認する単価と月収・年収の違い、賞与の有無、SESで受けていた諸手当がどう変わるかは、口約束ではなく書面で確認しておきたいところです
  • 自社との関係が変わることを織り込む転籍が実現しても、これまでお世話になった自社の営業やチームとの関係は、それまでと同じではいられません

この4点はどれも、私自身が試したことのある行動ではありません。実際にそういう場面に立ったことがないからこそ、変に期待を膨らませるより、確認すべき項目を先に並べておくほうが、いざという時に冷静に判断できると考えています。

客先からの声かけを待つ以外に、自分から外の求人を見て、今の経験で選べる行き先を知っておく方法もあります。IT職種に特化した転職エージェント(@PRO人など)なら、直接雇用の求人がどんな条件で出ているかを聞けるので、客先から声がかかったときの比較材料になります。エンジニアとして1年以上の実務経験があり、39歳以下で勤務地が一都三県か大阪なら、経験者向けのユニゾンキャリアもあります。

まとめ

SESから客先への転籍・引き抜きは、制度としては「一律に禁止されているわけでも、無条件に自由なわけでもない」というのが正確なところです。

  • 制度 労働者派遣法33条はSESの準委任契約には及ばず、契約に転籍禁止の条項があったとしても、その有効性は契約自由の原則と公序良俗・職業選択の自由の比較衡量で個別に判断されます。SES業界特有の判例は、今回調べた範囲では見つかりませんでした
  • 観測範囲 同期7人のうち、客先企業への転籍と呼べそうな例は1件だけで、それも常駐中の引き抜きではなく、離職後の正規の中途採用でした。私自身は客先から声をかけられた経験も、誘われた経験もありません

「引き抜きに期待して現場での振る舞いを変える」というのは、少なくとも私が見てきた範囲の実態からすると、あまり現実的な戦略ではなさそうです。

もし今、常駐先からの引き抜きに淡い期待を持っているなら、まず自分が入社時にどんな誓約書に署名したかを確認してみることをおすすめします。契約自由の範囲内で結ばれている条項がある以上、期待よりも先に、自分が縛られている可能性のある範囲を把握しておくほうが、実務的には意味のある一歩になるはずです。