営業からのチャットに、「今回は商流の条件で出せませんでした」という一文だけが書かれていたことがあります。理由も条件の中身も、それ以上は書かれていませんでした。
SESエンジニアとして5年ほど、4社の客先常駐と、その合間の案件探しを何度か経験してきました。
今回は、募集要項に並ぶ「1社先まで」「個人事業主不可」といった商流制限が何を指しているのか、エンド・元請けがそれを設ける理由、そして深い商流にいる自分たちへの影響を、実際にあったやり取りから整理します。
この記事で分かること
- 「1社先まで」「貴社まで」「個人事業主不可」という条件文言が、それぞれ何を制限しているのか
- 商流の数え方が、起点をどこに置くかで食い違うことがあるという実例
- エンド・元請けが商流制限を設ける5つの理由(私の整理)
- 公正取引委員会の調査から見える、商流が深い側の実態
- 三次請け以下の立場が、この制限でどう影響を受けるか
- 制限そのものは変えられなくても、自分の側でできる確認の仕方
目次
SESの商流制限とは|「1社先まで」で案件が出せなかった話
3社目の契約終了が決まった経緯は、別の記事に書きました。
次期フェーズの体制表に自分の名前がなく、そこから2週間ほどで営業から電話があり、契約終了を告げられています。そのとき営業が口にした一言と、数日後にチャットで届いた連絡が、次のものです。
今、何件か動いていますので、また連絡します。
今回は商流の条件で出せませんでした。
チャットは、まさにその「動いている案件」のうちの1件についてでした。聞くと、募集要項には「元請け社員またはその直接の協力会社(1社先まで)」という指定があったそうです。
この案件で自社が入るとしたら、元請けと自社の間にもう一社挟まる並び(私の数え方では三次請けの位置)になる予定だったため、対象外と判定されたとのことでした。募集要項の原文は私自身は見ておらず、ここまでは営業から聞いた内容です。
単価も、業務内容の細かいところも、結局聞かないまま終わりました。営業から伝えられたのは、条件文言と、対象外だったという結果だけです。
選考に落ちたのではなく、そもそも出す前の段階で止まっていたというのが、このとき初めて実感したことでした。
面談前の絞り込みが自分の見えないところで終わっていることは、これまでも書いてきました。商流制限はその絞り込みよりさらに手前、スキルシートを出すかどうかの判断そのものに関わっているのだと、このとき分かりました。
単価や詳細は開示されないまま終わった
正直に言うと、少し悔しい気持ちはありました。ただ、それより先に「商流制限」という言葉自体を、このとき初めてはっきり意識しました。
それまでも、案件によって条件が違うことは何となく分かっていましたが、それが「商流」という切り口で明文化されているとは考えたことがなかったからです。
募集要項の「貴社まで」「1社先まで」は何を指しているのか
結論エンドや元請けが、契約を結ぶ相手の階層をあらかじめ制限している、という意味です。ただし「貴社」の数え方は、起点によってずれることがあります。
募集要項でよく見る表現には、次のようなパターンがあります。
| 文言 | 意味 |
|---|---|
| 貴社まで | 案件を出している会社が直接契約している相手の会社まで、という意味で使われることが多い表現 |
| 1社先まで | 元請けから数えて1段階下の会社まで、という段数を明示した表現 |
| ◯社先まで | 1社先よりやや緩く、2社先・3社先までを許容する表現 |
| 個人事業主不可 | 契約主体を法人に限定する表現。商流の深さとは別の軸の制限 |
なお、この記事ではエンド(客先)の直接の契約先を元請け、その先に入る会社を二次請け、さらにその先を三次請けと数えます。「1社先まで」は、元請けと直接契約している会社までを指す書き方です。ただし、この数え方も会社や案件によって揺れます。
一見どれも似た意味に見えますが、この文言の解釈は現場でぶれることがありました。
商流の数え方は、起点によって解釈が割れる
先ほどの案件の数日後、もう1件、営業から別の案件の話がありました。募集要項の文言は「貴社まで」とだけ書かれていたそうです。
営業は最初、「今回は行けるかもしれません」と少し前向きな様子でした。自社から見て、貴社=自社まで含めて考えれば対象になる、という解釈だったようです。
ところが、元請けの窓口に確認したところ、答えは違いました。「貴社」というのは、今回の発注部署が直接契約している中間の会社を指しており、自社はその先に入る想定だったため、結局対象外だったのです。
営業からは「解釈がずれていました、すみません」という趣旨の連絡がありました。
営業が最初に考えた解釈
- 元請け(発注部署)案件を出している側
- 中間の会社発注部署と直接契約
- 自社=私自社を「貴社」に含めて考えた
元請けの窓口の答え
- 元請け(発注部署)案件を出している側
- 中間の会社ここまでが「貴社」
- 自社=私その先なので対象外
「貴社まで」という文言は、誰から見て「貴社」なのかが明示されていないと、起点によって指す範囲が変わります。商流という言葉自体、誰の立場から数えるかで見え方が変わる代物です。
自分が何次請けかを調べる方法は、別の記事にまとめてあります。
このエピソードも、募集要項の原文は見ておらず、営業から聞いた話をそのまま受け止めただけです。自分で元請けの担当者に確認を取ったわけではありません。
ただ、条件文言を額面通りに受け取ると、途中でひっくり返ることがあるという学びにはなりました。「貴社まで」と書かれていたら、誰から見た貴社なのかを先に確かめておく。これだけで、営業も私も、期待してから外れるという無駄を避けられたはずです。
なぜエンド・元請けは商流を絞りたがるのか
結論関わる会社が増えるほど、管理・法務・セキュリティ・予算のどれでも発注側の負担とリスクが増えるからです。
ここからは、自分が経験した範囲を離れて、なぜこうした制限がそもそも存在するのかを整理します。エンドや元請けから理由を直接聞いたわけではないので、以下は私の推測を含む整理です。
商流を絞りたがる5つの理由(私の整理)
- 管理コストを抑えたい関わる会社の数が増えるほど、会議の招集範囲や連絡経路が複雑になります。
- 二重派遣・偽装請負のリスクを避けたい商流が深いほど、指揮命令の実態が契約の建付けとずれるリスクが上がります。
- 再委託の承諾という手続きの手間を減らしたい準委任契約では、再委託のたびに委託者の許諾が要ります。
- 情報セキュリティの範囲を絞りたい関わる会社が増えるほど、非公開情報に触れる人数も増えます。
- 単価の目減りを防ぎたい商流の各段階でマージンが乗るほど、同じ予算から現場に届く金額が減っていきます。
このうち、自分がこれまであまり意識していなかったのが、再委託の承諾という手続き面の話です。
準委任契約では、受任者は委託者の許諾を得たとき、あるいはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者(再委託先)を選べないと定められています(民法第644条の2)。この規定は準委任にも準用されます(民法第656条、出典: 民法|e-Gov法令検索)。
つまり、元請けが受けた業務を二次請けに、二次請けがさらに三次請けにと流していくたびに、本来はその都度、上流の会社の許諾が必要になる建て付けです。この許諾のやり取りも積み重なるので、あらかじめ「1社先まで」と線を引いておけば、この手続きそのものを増やさずに済む、という発想は成り立つはずです。
二重派遣・偽装請負については、厚生労働省(労働局)が公開している37号告示の疑義応答集・適正化の資料に、準委任契約であっても、実態として発注者と受注者側の労働者の間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣に該当する、という趣旨の記載があります(出典: 37号告示に関する疑義応答集・適正化の資料|東京労働局)。二重派遣は職業安定法第44条で禁止されている行為です。
ここで押さえておきたいのは、これらの資料に「商流が深いこと自体が違法」とは書かれていない点です。商流が深いほど、契約上の相手と実際に指示を出す相手がずれるリスクが上がる、というのが構造としての話です。自分の三次請け案件を職業安定法の要件に照らして検証した記事でも、深さだけで違法になるわけではないと整理しています。
公取委の調査で見える、商流の深い側の実態
単価の目減りという論点については、公正取引委員会が2022年6月に公表したソフトウェア業の実態調査が参考になります。資本金3億円以下の約2万1000社に協力を依頼し、4,739社が回答したものです(回答率は22.6%)。
数字を読むときに注意したいのは、以下の各割合の母数が、2万1000社ではなく各設問の回答数(買いたたきなどの設問は約2,600社)だという点です。「2万1000社のうち15.7%」ではなく、「回答した会社のうち15.7%」が正確な読み方です。
設問は、当時の下請法の禁止行為に該当すると考えられる経験があるか、というものでした。
当時の下請法の禁止行為に該当すると考えられる経験があると答えた割合(回答した会社が母数)|出典: ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(p.25〜26)|公正取引委員会
同じ調査では、「中抜き」についても聞いています。報告書は中抜き事業者を、多重下請構造の下で商流上は形式的に関与するものの、実際には何ら業務を行わないのに利益を上げている者(与信の供与など実質的な貢献を除く)と定義し、自社が参加したプロジェクトでそうした事業者の存在を感じたことがあるかを尋ねました。
「中抜き」事業者の存在を感じたことがあると答えた割合(立場別)|出典: ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(p.25〜26)|公正取引委員会
元請けの18.5%に対して、最終下請けは33.5%です。立場が下流になるほど「感じたことがある」割合が高いことが分かります。ただし、これは実感を尋ねた設問で、実際に中抜きがどれだけあるかを測った数字ではありません。
報告書の自由回答には、次のような声も載っています。統計ではなく回答者個人の声ですが、現場で聞く話と重なる内容です。
エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがあり、間に入っている企業は何もしない。(報告書p.26、自由回答)
エンド側から見れば、商流を浅く保つことは、こうした構造的なリスクを自分たちの発注の範囲から遠ざける手段の一つになっているのだろう、というのが私の理解です。
別の資料にも、同じ方向の声があります。公取委の令和6年度下請法運用状況(2025年5月公表)には、改善協力委員の声として、昔は多重委託構造をよく耳にしたが、責任が不明確になるので近年は再委託までが多い、という趣旨のコメント(情報サービス業)が載っています(出典: 令和6年度における下請法の運用状況|公正取引委員会)。商流を浅くしたいという意識は、業界全体の流れでもあるのかもしれません。
下請法は「取適法」に変わりました
2026年1月1日施行の改正で、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」に改称されました(令和7年法律第41号)。用語も、下請事業者は中小受託事業者、親事業者は委託事業者に変わっています。
主な変更点は、従業員数による適用基準の追加、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止です。上の調査は旧法下のものなので、本文では「当時の下請法」と書いています。
再委託された役務提供も対象になり得ますが、個別のSES契約が該当するかは契約と実態次第なので、ここでは断定しません。詳しくは公正取引委員会の取適法のページで確認できます。
個人事業主不可という条件は、なぜ別に存在するのか
案件探しの期間中、営業との電話で雑談として聞いた話があります。「最近は個人事業主お断りの案件も増えてますね」という一言でした。
自分は正社員として所属しているので、この条件で直接弾かれたことはありません。理由を尋ねると、営業からは「与信とか、請求書まわりの管理が面倒だからじゃないですかね」という、営業自身の推測が返ってきました。
断定できない点
これは営業の個人的な見立てであって、確認が取れた理由ではありません。法人同士なら取引口座の与信枠や支払いサイトの管理に乗せやすい、という推測は成り立ちますが、各社の本当の理由は私には分かりません。
確かなのは、これが商流の深さとは別の、契約の相手が法人か個人かという軸の制限だという点です。「1社先まで」を満たしていても、個人事業主不可の案件には入れません。自分が正社員であっても、募集要項を読むときは二つの軸を分けて見ておくと、営業との会話が噛み合いやすくなります。
深い商流にいるエンジニアへの影響
ここまでの制限のパターンを、影響の出方で整理すると次のようになります。
| パターン | 典型的な文言 | 主に効いてくる相手 |
|---|---|---|
| 深さの制限 | 「1社先まで」「貴社まで」 | 二次請けより先(三次請け以下)に入る会社のエンジニア |
| 段数の緩い制限 | 「2社先まで」「3社先まで」 | さらに深い階層(四次請け以下など)のエンジニア |
| 契約主体の制限 | 「個人事業主不可」 | フリーランス・個人事業主 |
私が今までいた3社目・4社目は、どちらも二次請けの立場でした。ただ、同じ会社に所属していても、案件ごとに間に挟まる会社の数は変わります。今回のように間にもう一社入る案件だと、所属会社は同じでも、案件単位で対象外になることが分かりました。
私の場合
2社目は三次請けで、単価は月60万円、月収は額面で30万円でした。この立場だと、深さの制限にはさらに引っかかりやすかっただろうと、今振り返って思います。
当時は商流制限という言葉自体を意識していなかったので、実際にどれだけ弾かれていたのかは分かりません。
商流が深いというだけで、土俵に上がる前に対象外になる案件があるというのは、今回の経験で初めて実感したことです。
単価が下がる、質問しづらくなるといった「入ってからの影響」とは別に、商流制限は入り口の時点で効いてきます。何次請けかを自分で調べる方法は、前述の記事にまとめてあります。
制限を設ける側の理由が分かっていても、深い側にいる私たちの選択肢が狭まる事実は変わりません。ただ、これは自分のスキルや実績の問題ではなく、所属会社と案件の並びで決まる条件です。落ち込む必要はないというのが、2件経験した私の感想です。
「対象外でした」と言われたときの、自分でできる立ち回り
商流制限そのものは、エンドや元請けが決めることで、エンジニア本人にも、自社の営業にも動かせません。それでも、確認しておくと期待値がずれにくくなることはあります。
営業に確認しておくこと
- 面談前に、自社が入る予定の商流を聞く「今回は何次請けの想定ですか」と聞くだけなら、営業も答えやすい質問です
- 「対象外でした」と言われたら、条件文言まで聞く結果だけでなく、どういう文言だったのかを聞いておくと、次に似た案件が来たときの判断材料になります
- 「貴社まで」と書かれていたら、誰から見た貴社かを聞く今回の2件目のように、起点が違うだけで結果が変わります。営業から元請けの窓口に確認してもらえるかも尋ねておくと安心です
- 希望条件として「なるべく浅い商流を」と伝えておく伝えたからといって必ず通るわけではありませんが、伝えないよりは選択肢に残ります
正直に言うと、今回の2件の案件について、自分から何か行動を起こしたわけではありません。営業からの報告を受け止めただけで、次の案件を待ちました。
それでも、商流制限という言葉と、その数え方が起点によってずれるという事実を知っただけで、次に「対象外でした」と言われたときの受け止め方は変わると思っています。
理由が分からないまま弾かれたと感じるのと、条件文言まで理解した上で弾かれたと分かるのとでは、同じ結果でも納得の仕方が違います。
まとめ
SESの商流制限とは、エンドや元請けが、契約を結ぶ相手の階層をあらかじめ「1社先まで」「貴社まで」といった形で線引きしておく仕組みです。個人事業主不可という条件は、これとは別に、契約主体を法人に限定する軸の制限です。
この記事の要点
- 私は、この条件に引っかかってスキルシートを出す前に対象外になったことが2件ありました。1件は段数そのもの、もう1件は「貴社まで」の数え方のずれが理由でした
- 背景には、管理コスト、二重派遣・偽装請負のリスク、再委託の承諾手続き、情報セキュリティ、単価の目減りといったエンド側の事情があると、私は整理しています(理由を直接聞いたわけではありません)
- 公取委の2022年の調査では、「中抜き」を感じた割合は元請け18.5%、中間下請け29.2%、最終下請け33.5%でした。下流ほど高い傾向です
- 三次請け以下に入る並びの案件では、この制限は入ってからの単価や裁量の話より手前、入り口の段階で効いてきます
- 制限そのものは動かせなくても、条件文言まで確認する習慣をつけておけば、同じ「出せませんでした」でも受け止め方は変わります
もし今、理由も分からないまま案件が流れたと感じているなら、それは自分のスキルや実績の問題ではなく、商流の条件で最初から土俵に上がれていなかっただけかもしれません。一度、営業にその条件文言を聞いてみることをおすすめします。




