客先の社員に人前で強く詰められたとき、「これは自社に言うべきか、客先に言うべきか」と迷って、結局どこにも言えないまま時間が過ぎていませんか。私は4社の客先常駐を経験しましたが、他社の方が高圧的な言葉を受ける場面を、何度か同じ部屋で見てきました。
SESは給料を払う会社と、毎日顔を合わせて指示を受ける会社が別です。そのせいで、相談先の判断が難しくなります。今回は、客先常駐でパワハラを受けたときの相談先の選び方を、公的な資料の確認結果と実体験を交えてお伝えします。
この記事で分かること
- 最初の相談先は、原則として雇用主である自社の営業・人事になる理由
- 客先に直接言うべきでない場面と、客先の窓口が動く場面の違い
- 公的な指針で、客先の事業主に何が「望ましい」とされているか
- 営業に事実を伝えるときの順番と、記録に残す項目
- 客先の秘密保持ルールとぶつからない記録の残し方、社外の相談窓口
目次
- 客先常駐のパワハラ相談先は、まず雇用主である自社が基本
- 「給料を払う側」と「指示を出す側」が別になる構造
- 相談先ごとの役割を表にまとめる
- 2社目で見た、他社の方が客先の担当者に詰められる場面
- 設計レビュー会で、人前で何度も繰り返された言葉
- 私は当日、何も言えませんでした
- 客先の社員のパワハラは、指針でどこまで扱われているか
- 客先の事業主には「望ましい取組」として載っている
- 「職場」は常駐先も含みうる
- 当たるかどうかは、労働局は判断しない
- 自社の営業に伝える順番|事実・影響・希望の3点
- 感情ではなく、日付と言葉と影響を並べる
- 営業の役割と、期待しすぎないこと
- 記録の残し方|客先の秘密保持と持ち出し禁止のルールを守る
- 3社目では、データの社外持ち出しが禁止でした
- 自分の言葉で書く記録の項目
- 人に話した記録も、証拠になりうる
- 社外の窓口を使う場面と、労災について
- 総合労働相談コーナーは、整理の場として使う
- 体調に出ているなら、労災の観点も
- 指導と高圧的な言動の境目で、私が迷った場面
- 「何回目ですか」と書きかけて消した
- 受ける側の見分け方にも使える
- まとめ|相談先は自社から、記録は自分の言葉で
客先常駐のパワハラ相談先は、まず雇用主である自社が基本
結論から書くと、最初の相談先は自社の営業か人事・相談窓口です。客先に直接ぶつけるのは、自社と相談したうえで選ぶ手段のひとつです。ここでは、その理由と、相談先ごとの役割を整理します。
結論あなたの雇用主は自社です。現場に入れるかどうかを決める契約も、自社と客先の間にあります。だから最初に動いてもらう相手は自社になります。
「給料を払う側」と「指示を出す側」が別になる構造
SESでは、雇用契約は自社との間にあります。一方、毎日の作業の依頼や進捗の確認は、客先の担当者や元請けの窓口の人から受けます。
客先には、あなたを雇っている責任はありません。客先とあなたの間にあるのは、自社と客先が結んだ契約だけです。客先に直接言っても、あなたの待遇や配置を決められるのは客先ではない、という点が出発点になります。
契約形態ごとの指揮命令の違いは、別の記事で詳しく書きました。
また、客先の人があなたに直接細かい指示を出す状態が続いていると、二重派遣や偽装請負の問題が別に出てくることがあります。パワハラの相談とは論点が違いますが、同じ現場で並んで起きることがあります。
相談先ごとの役割を表にまとめる
誰に何を頼めるのかを、先に整理しておきます。
| 相談先 | 頼めること | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 自社の営業 | 客先への状況確認、窓口の変更依頼、配置の調整 | 客先の人の言動で、仕事が続けにくいとき | 事実を整理して伝えないと「気にしすぎ」で流されやすい |
| 自社の人事・相談窓口 | 社内の正式な相談として記録、本人の心身の確認 | 営業に言いにくいとき、営業の対応に納得できないとき | 社内の窓口があるかは会社による |
| 客先・元請けの窓口 | 現場での注意、同席の調整 | 自社を通して頼んだとき、または自社が間に入っているとき | 自社の頭越しだと、契約上の関係がこじれることがある |
| 総合労働相談コーナー | 面談・電話での相談、助言・指導やあっせんの案内 | 自社が動かないとき、社外に一度相談したいとき | 個別の事案がハラスメントに当たるかは判断されない |
| こころの耳・法テラスなど | 心身の相談、法的な案内 | 眠れない、出社が怖いなど、症状が出ているとき | 現場の調整はしてもらえない |
表の窓口は、厚生労働省の「あかるい職場応援団」で案内されているものです。総合労働相談コーナーは、会社の所在地の労働局や労働基準監督署にあり、電話でも相談できます。
2社目で見た、他社の方が客先の担当者に詰められる場面
ここで、私が2社目の三次請けの現場で見た場面を書きます。私自身が詰められた話ではなく、同じ部屋にいた立場の話です。
設計レビュー会で、人前で何度も繰り返された言葉
参画して1年ほどたった頃です。詳細設計のレビュー会は10人前後が集まり、客先の担当者が設計書を見ながら指摘していました。その中に、別の協力会社の30代前半くらいの若手の方がいました。
指摘の内容自体は仕様に関するもので、おかしくはありませんでした。ただ、同じ指摘が再度出たとき、客先の担当者が資料を机に置いて言いました。
これ、何回目ですか。前も言いましたよね。
すみません、直します。
やる気がないなら、今日は帰ってもらっていいです。
指摘が繰り返されたこと自体は、レビューの場では起こりえます。しかし、人前で「帰ってもらっていい」と言うのは、指摘の範囲を超えていると私は感じました。
同じ場面は月に2回ほどありました。その方は反論せず、毎回「すみません、直します」と答えていました。そして2週間ほどで、レビュー会に出てこなくなりました。契約終了なのか、別の現場に移ったのかは、聞いていないので分かりません。
私は当日、何も言えませんでした
正直に書くと、その場では何も言えませんでした。止めに入るべきだったのか、今でも整理がついていません。
後日、自社のリーダーに「ああいう場面を見ました」と一言だけ共有しました。返ってきたのは、次の言葉でした。
レビュー会で、他社の方が人前でかなり強く言われていました。
うちの人間が言われたら営業に上げる。他社さんの件は、こちらからは何も言えない。
リーダーの返答は冷たいようですが、構造としては正確でした。他社の人の件は、他社の営業が動かなければ話が始まりません。当事者が声を上げなければ、周りは動きにくいのです。
この経験から、私は一つの判断軸を持つようになりました。見ている側にできることは、止めに入ることより、事実を自社の窓口に残すことだと考えています。
客先の社員のパワハラは、指針でどこまで扱われているか
次に、公的な資料で「客先の社員の言動」がどう扱われているかを、厚生労働省の資料に沿って整理します。
客先の事業主には「望ましい取組」として載っている
厚生労働省のパワーハラスメント防止指針(令和8年10月1日適用版)は、労働施策総合推進法第31条に基づく指針です。この指針の「6」に、自社の雇用する労働者以外の者に対する言動についての項目があります。
ここでいう「以外の者」に、他の事業主が雇用する労働者が含まれています。つまり、客先の事業主から見て、常駐している私たちのような他社の社員です。客先の事業主は、自社の社員が他社の労働者に対して言動に注意を払うよう配慮し、同じ方針を示すことが「望ましい」とされています。
さらに、他社の労働者から相談があった場合は、自社向けの措置も参考にして、必要に応じて適切に対応するよう努めることが「望ましい」と書かれています。
「望ましい」は義務ではない
指針の書き方は「望ましい」で、客先に必ず対応を求められるわけではありません。自社の社員がパワハラを行った場合に事業主が講じる措置は義務ですが、それは自社の社員の話です。客先の対応は、相談したときに動いてもらえるかどうか、客先の姿勢に左右されます。
出典: パワーハラスメント防止指針(令和8年10月1日適用版)
「職場」は常駐先も含みうる
同じ指針では、「職場」は通常の就業場所だけでなく、業務を行う場所を含むとされています。客先常駐の現場も、含まれうる場所です。
つまり、客先の会議室で起きたことも、就業場所で起きた話として扱えます。営業に相談するとき、「社外のことだから」と流されない材料になります。
なお、セクハラについては、取引先の社員が行う性的な言動で自社の社員の就業環境が害される場合、セクハラに該当すると解釈事項Q&A(問40)に書かれています。内容に性的な言動が含まれるなら、パワハラとは分けて伝えてください。
当たるかどうかは、労働局は判断しない
ここは誤解しやすい点です。厚労省の解釈事項のQ&A(問45)には、個別の事案がハラスメントに当たるかどうかを、都道府県労働局は判断しないと書かれています。事実確認は、事業主の義務とされています。
つまり、労働局に相談しても「それはパワハラです」と認定してもらえるわけではありません。相談の目的は、判定ではなく、情報と次の動き方を得ることになります。
自社の営業に伝える順番|事実・影響・希望の3点
客先の人の言動を営業に伝えるとき、「あの人がひどい」から始めると、受け取る側は判断できません。伝える内容は、組み立ててから渡します。
感情ではなく、日付と言葉と影響を並べる
営業が欲しいのは、客先に何を確認すればいいかという材料です。私なら、次の順番で書きます。
- いつ・どこで・誰に日付、場所(会議名)、言った人の役職と名前、その場にいた人の数を書きます。
- 何を言われたか覚えている言葉を、そのままの表現で書きます。要約や評価は入れません。
- どんな影響が出ているか眠れない、会議の前に動悸がする、質問できなくなって作業が止まっている、などの具体的な変化を書きます。
- 何を希望するか現場の変更を求めるのか、窓口の変更や同席の調整で足りるのかを、自分で決めて伝えます。
最後の「希望」が抜けると、営業は「とりあえず様子を見ましょう」と返しやすくなります。現場を変える以外の選択肢も、先に頭に置いておくと話が進みます。
現場そのものを変えたい場合の伝え方は、別の記事に書いています。
営業の役割と、期待しすぎないこと
営業は、客先との契約を結んでいる窓口です。客先に状況を確認し、窓口の担当者の変更や同席の調整を頼む力は、営業にあります。営業の役割の全体像は、次の記事にまとめました。
ただし、営業が客先との関係を優先して、動きが鈍くなることはあります。契約の継続が絡むからです。そのときは、自社の人事や相談窓口に、営業とは別の経路で同じ事実を伝えておくことをおすすめします。
営業の動きが鈍かった場合の次の手として、社外の窓口があります。後の章で整理します。
記録の残し方|客先の秘密保持と持ち出し禁止のルールを守る
証拠を残したほうがよい、とはよく言われます。ただ、SESの現場では、客先の情報を持ち出すこと自体がルール違反になる場合があります。ルールを破らずに残す方法を考えます。
3社目では、データの社外持ち出しが禁止でした
3社目の現場では、データの社外への持ち出しは禁止で、インターネットも一部制限されていました。こうした現場は珍しくありません。
画面のスクリーンショットを撮る、チャットを私物のスマホで撮影する、客先のメールを自分のアドレスに転送する、といったことは、パワハラの証拠のつもりでも、契約違反として自分に返ってくるおそれがあります。
だからこそ、客先の情報を使わずに、自分で書いた記録を残します。
自分の言葉で書く記録の項目
あかるい職場応援団の相談窓口のページでは、相談前に整理する項目として、日時、場所、言われた内容、言った人、その場にいた人が挙げられています。この5点を、自分のメモとして残します。
自分用のメモに残す項目
- 日時と、場所(会議名や席の位置)
- 言われた内容(覚えている言葉をそのまま、かぎ括弧で)
- 言った人の名前と役職
- その場にいた人(名前が分からなければ人数と所属会社)
- その日のうちに自分がしたこと、体調や気持ちの変化
メモは、その日のうちに書きます。数日たつと言葉が曖昧になり、後から「本当にそう言われたのか」と問われたとき、自分でも確信が持てなくなります。
記録は、客先の資料やシステムの画面に触れない範囲で、自分の手帳や、自社の手元で管理するノートに残すのが無難です。録音や撮影をしたい場合は、客先の規則に反しないか、先に自社の営業や人事に確認します。
人に話した記録も、証拠になりうる
もう一つ、地味ですが効くのが、信頼できる人にその日のうちに話しておくことです。同僚や自社のリーダーに口頭で伝えたり、チャットで「今日こんなことがあった」と短く送っておいたりすれば、あとで時期を確認する材料になります。
私が2社目のリーダーに話したのは口頭だったので、日付も内容も残っていません。今なら、その日のうちにチャットで短く送っておきます。ただし、他人の悪口の延長に見えない書き方を意識します。事実だけを書けば、読む人が冷静に受け取れます。
社外の窓口を使う場面と、労災について
自社が動かない、あるいは自社に言いにくい事情があるときの選択肢を整理します。社外の窓口は、現場を直接動かす力はありませんが、状況を整理する助けになります。
総合労働相談コーナーは、整理の場として使う
会社所在地の労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーは、電話でも相談できます。ハラスメントのほか、労働問題全般を受け付けています。先ほどの5項目のメモを持っていけば、話がまとまりやすくなります。
ここで注意したいのは、相談しても、現場がすぐ変わるわけではないことです。先に書いたように、ハラスメントに当たるかどうかの判断はされません。次に何をすればいいかの整理と、必要な窓口の案内を得る場だと考えると、期待のずれが出ません。
体調に出ているなら、労災の観点も
2023年9月に精神障害の労災認定基準が改正され、評価表の具体的な出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追加されたと、厚生労働省が公表しています。パワーハラスメントの6類型すべてについて、心理的負荷の強さの具体例も拡充されました。
ただ、常駐先の社員の言動が、この「取引先」から受けた迷惑行為に当たるのか、「上司」や「同僚」の言動として評価されるのかは、この発表だけでは分かりません。当てはまるかどうかは個別の判断になるので、症状が出ているなら労働基準監督署に確認する、という動き方になります。
現場を離れたあとの手続きや、途中で契約が切れる場合の話は、次の記事も参考になります。
指導と高圧的な言動の境目で、私が迷った場面
最後に、被害を受ける側でなく、言う側になりうる話を書きます。4社目で管理職になり、3〜5名の成果物を見る立場になってから、この境目で迷う場面が増えました。
「何回目ですか」と書きかけて消した
ある後輩の成果物に、同じ種類の誤りが3回続けて出てきたときのことです。レビューコメントに「これ、何回目ですか」と打ち込みかけて、手を止めました。
2社目で見た場面が頭にあったからです。あの言葉は、事実としては正しくても、言われた側には「責められた」としか届きません。
結局、「同じ種類の誤りが3件目です。チェックリストに追加するのはどうでしょうか」と書き直して送りました。事実と、次にどうするかだけを書いたことで、後輩も防ぎ方の話に乗ってくれました。
私が使っている境目の見分け方
指摘する側として、送る前に「この文を、他の全員が見ている前で読み上げても平気か」を考えます。人格や意欲に触れていれば、指導ではなく攻撃に寄っていると判断して、書き直します。
受ける側の見分け方にも使える
同じ基準は、受ける側の見分けにも使えます。指摘が、成果物やその書き方に向いているうちは、厳しくても指導の範囲だと考えられます。
一方、「やる気がない」「帰ってもらっていい」のように人に向いた言葉が出たら、境目を超えている目安になります。判断に迷うときは、先ほどの5項目のメモを取ったうえで、自社の営業やリーダーに「これは指導の範囲でしょうか」と聞く形で、第三者の目を入れるのがよいと思います。
まとめ|相談先は自社から、記録は自分の言葉で
客先常駐のパワハラの相談先は、雇用主である自社が最初です。指針でも客先の対応は「望ましい」にとどまり、客先が必ず動くとは限りません。
そのうえで、動き方は次のように整理できます。
持ち帰ること
- 最初の相談先は、自社の営業か人事・相談窓口にする
- 伝えるときは、事実・影響・希望の3点を並べる
- 記録は、客先の情報に触れずに自分の言葉で、その日のうちに残す
- 自社が動かないときは、総合労働相談コーナーなど社外の窓口を使う
- 体調に出ているなら、こころの耳や労働基準監督署にも相談する
- 言葉が人に向いていたら、境目を超えていると見る
私自身は、2社目で他社の方が詰められる場面を見ても、その場では何もできませんでした。動けなかった理由は、止めに入る立場かどうか分からなかったことと、窓口が別の会社だったことです。
この構造は、あなたが当事者になったときにも同じように働きます。だからこそ、声を上げる相手を先に決めておくことが、いちばん効きます。ひとりで抱え込む前に、事実を書き出して、最初の1人に渡してください。




