最近ほぼフル在宅になって浮いた時間で、副業をいろいろ調べてみたことがあります。
その延長で「いっそフリーランスとして独立したら、手取りはどう変わるのか」を自分の数字で計算してみました。
SESエンジニアとして5年ほど、複数の客先常駐を経験してきましたが、こうした試算を自分でやってみたのは今回が初めてです。
今回は、国民年金や国民健康保険、インボイスの2割特例と、2027年分から使える3割特例まで踏み込んで独立後の手取りを試算し、それでも独立に踏み切らなかった理由を、実体験ベースで書きます。試算は2026年分の制度が前提です。
この記事で分かること
- SESの会社員のまま働く場合の手取り・社会保険料・保障のかたち
- 同じ単価(年530万円、月約44万円)でフリーランス独立した場合の、国民年金・国民健康保険・所得税・住民税を含めた手取りの試算
- 青色申告特別控除65万円の条件と、インボイスの2割特例・2027年分からの3割特例の違い
- SESの3か月ごとの契約更新と、フリーランス新法が発注事業者に課す義務との違い
- 試算した結果、独立に踏み切らなかった理由と、自分の数字で計算し直す手順
目次
- SESからフリーランス独立、手取りを試算してみた理由
- SESとフリーランス、契約から何が違うのか
- SESの会社員のまま働く場合の手取りと社会保険を整理する
- 同じ単価でフリーランス独立したら手取りはいくらになるか
- 国民年金と国民健康保険、独立すると全額自分で背負う
- 青色申告特別控除65万円と、インボイスの2割特例・3割特例
- インボイス未登録のまま独立したらどうなるか
- 独立後の手取りをまとめて計算する
- 単価が下がったらどうなるかも計算してみる
- SESの3か月更新と、フリーランス新法が発注側に課す義務を比べる
- 試算した結果、独立に踏み切らなかった理由
- 試算に入れていない、営業と事務にかかる時間
- 独立を検討し直すとしたら、何が変わったときか
- 独立しないなら、会社員のうちにできること
- 自分の数字で独立後の手取りを試算する手順
- まとめ
SESからフリーランス独立、手取りを試算してみた理由
今の現場は、もともと週1出社の予定で、最近はほぼフル在宅です。通勤がない分の時間で何かできないかと考えるようになりました。
副業を検討したときのことは別の記事に書きましたが、自社の届出制と客先の秘密保持誓約書を確認していく中で、副業として稼げる金額には限りがあると分かってきました。
そのとき頭をよぎったのが、「副業ではなく、いっそ独立したらどうなるのか」という疑問です。実際に副業で3か月かけて稼げたのは4本・28,600円ほどでした。悪くはない結果ですが、生活を変えるほどの金額ではありません。
SESからフリーランスへの独立は、ネット上でよく見かけるテーマです。ただ検索して出てくるのは、エージェント企業が運営する記事がほとんどでした。
独立のメリット・デメリット、向いている人の特徴、単価交渉のコツといった内容が中心です。実際の手取り額まで具体的な数字で試算している記事は、あまり見当たりませんでした。税金や社会保険料についても「国民健康保険や国民年金がかかります」で終わっているものが多く、それが月にいくらになるのかまでは書かれていません。
だったら自分で計算してみようと思ったのが、この記事のきっかけです。2社目のときに聞いていた自分の単価、年間530万円(月に約44万円)という数字を土台に、会社員のまま働く場合と、同じ単価で独立した場合を並べて試算してみることにしました。
SESとフリーランス、契約から何が違うのか
独立を考える上で、まず整理し直したのが契約の形そのものでした。SES会社員としての契約は、自社と客先の間で結ばれる準委任契約が土台になっています。
独立してフリーランスになると、この契約を今度は自分自身が当事者として結ぶことになります。発注元と直接、業務委託契約(準委任や請負)を結ぶ個人事業主という立場です。
この違いは、単価や税金以上に大きな意味を持ちます。契約の当事者が「自社」から「自分自身」に変わるからです。
請負契約は成果物の完成に対して報酬が発生し、準委任契約は委任された業務の遂行そのものに対して報酬が発生するという違いがあります。独立後にどちらの形態で契約するかによって、責任の重さも変わってきます。
| 比較する軸 | SES会社員(今の自分) | フリーランス(独立後) |
|---|---|---|
| 契約の形態 | 自社との雇用契約(期間の定めなし) | 発注元との業務委託契約(個人事業主) |
| 契約の当事者 | 自社と客先(自分は当事者ではない) | 自分自身が当事者 |
| 労働基準法の保護 | 適用される(有給休暇・休業手当など) | 原則として適用されない |
| 単価交渉 | 営業担当が代行 | 自分で行う |
| 収入が途切れるリスク | 契約が終了しても自社から給与が出る | 契約が切れれば即座に収入がゼロになる |
| 確定申告 | 年末調整で完結 | 自分で青色申告 |
労働基準法の保護が外れる行は、特に大きな変化です。最低賃金、残業の上限規制、有給休暇、そして契約終了時の休業手当まで、意識せずに守られていた仕組みがまとめて外れます。
表にしてみると、金額の差以上に「何かあったときに誰が引き受けるか」が丸ごと変わることが分かります。
SES会社員のうちは、契約が終了しても自社から給与は通常どおり支給されてきました。独立すると、この受け皿がなくなります。
SESの会社員のまま働く場合の手取りと社会保険を整理する
独立後の数字を出す前に、今の自分がどういう条件で働いているのかを整理しておきます。
試算の土台にするのは、2社目のときに聞いていた単価です。アサイン時は年間490万円、4月の更新で年間530万円(月に約44万円)になりました。当時の額面月収は残業代を含めて平均約30万円、賞与を含めた額面年収はおよそ430万円でした。
2社目のときの数字。手取りは額面30万円から標準的な控除で試算した値です。
この計算の詳しい内訳は、単価と手取りの差を書いた記事にまとめました。
今の現場(4社目)の単価も、年640〜700万円と聞いています。ただ、今は管理職の扱いで残業代が出ず、額面の組み立てが2社目と違うため、同じ手順では比べにくくなります。そこで、手取りまで計算した材料が残っている2社目の数字を使います。契約書そのものを見せてもらえる立場ではない点は、今も変わりません。
ただ、会社員として働く上での保障の中身は、単価が変わっても大きくは変わりません。ここを先に押さえておきます。
- 社会保険料(健康保険・厚生年金)は会社との折半で、全額を自分で負担しなくてよい
- 賞与が年2回、額面合計で年3か月分程度支給される
- 有給休暇が労働基準法に基づいて付与される
- 契約終了で待機になった場合、休業手当の対象になり得る建てつけがある
- 雇用保険に加入しているため、離職した場合は失業給付の対象になる
有給休暇は制度としては労働基準法に基づいて付与されますが、実際に使いやすいかどうかはまた別の話です。退職金は、自社に退職金制度そのものがないことを確認済みなので、あえてリストから外しました。独立しても、もともと失うものが少ない項目です。
社会保険料が会社との折半になっている点は、独立を考える上で一番大きな差になります。厚生年金と健康保険の保険料は、会社と本人がおおむね半分ずつ負担する仕組みだからです。
独立すると、この「会社が半分持ってくれていた分」を含めて、全額を自分で払うことになります。まずはここから試算していきます。
同じ単価でフリーランス独立したら手取りはいくらになるか
結論同じ年530万円(月約44万円)で試算すると、独立後の手取りは年約408万円(月換算で約34万円)です。ただし、その単価が続くという前提は都合のいい仮定です。
ここからは、年530万円という単価をそのまま独立後の請求額に置き換えて試算します。
フリーランスエンジニアの単価相場を調べると、月60万円台、80万円台といった数字がいろいろなサイトに出てきます。ただ、SESやITエンジニアの単価相場を対象にした公的な統計は見当たりませんでした。
出回っている相場観の多くは、エージェント各社が自社の成約実績を集計したものです。母集団も算出方法も公開されていないことがほとんどで、そのまま自分の単価の目安にするのは慎重になったほうがいいと感じています。
だからこそ今回は、相場の数字ではなく、自分が実際に聞いている年530万円という一つの数字を使って試算することにしました。
この試算の前提
先に断っておきたいのは、これはかなり都合のいい仮定だということです。エージェントを挟まずに元請けと直接契約して、今と同じ水準の単価を払ってもらえる保証はどこにもありません。
エージェント企業は、案件を探す営業活動や契約・稼働管理、何かあったときの責任の引き受け先になっています。その分の価値を、発注側が個人にそのまま払ってくれるとは限りません。
それでも、手取りまで計算できる材料が残っている具体的な数字がこの530万円なので、まずはこの金額を土台に計算してみます。年間の売上(税抜)は530万円です。
国民年金と国民健康保険、独立すると全額自分で背負う
会社員をやめると、健康保険と厚生年金から国民健康保険と国民年金に切り替わります。国民年金の保険料は令和8年度で月額17,920円です(出典: 国民年金保険料|日本年金機構)。年間では215,040円です。
国民健康保険の保険料は自治体ごとに率が違うため、練馬区の令和8年度の計算方法を一例に使います(出典: 国民健康保険料の計算方法(令和8年度)|練馬区)。単身で39歳以下の世帯と仮定すると、保険料は基礎分(医療分)・後期高齢者支援金分・子ども・子育て支援金分(令和8年度に新設)の3つの合計です。算定のもとになる所得は、事業所得から住民税の基礎控除43万円を引いた430.4万円(473.4万円−43万円)になります。
練馬区の令和8年度率で、所得430.4万円・単身39歳以下として試算。
3分野ごとに所得割と均等割が決まっていて、たとえば基礎分は430.4万円×7.51%+4.76万円=約37.1万円です。年度ごとに定められた上限額(賦課限度額)は3分野の合計で96万円なので、この所得ではまだ頭打ちにはなりません(出典: 子ども・子育て支援金の保険料|練馬区)。
40歳以上なら介護分が加わります
40〜64歳は介護分(所得割2.43%・均等割17,800円・上限17万円)も加わり、同じ所得で約12万円増えて合計約64万円になります。所得税・住民税の減り方を差し引いても、手取りは年10万円ほど少なくなる計算です。
正確な金額は、自分が住んでいる自治体の計算ページで確認するしかありません。練馬区の数字はあくまで一例で、自治体によって率も上限額も違います。
もう一つ注意したいのは、国民健康保険料が前年の所得をもとに計算される仕組みだという点です。独立1年目は、会社員時代の給与所得がベースになるため、実際の事業所得とはズレが生じます。たとえば会社員時代の額面年収430万円をベースに保険料が決まる年に、実際の事業所得はまだ立ち上がっていない、というようなことも起こり得ます。ここでの試算は分かりやすさを優先して独立後の事業所得をそのまま当てはめているので、独立したばかりの年ほど、保険料の重さの感じ方は試算と違ってくるはずです。
青色申告特別控除65万円と、インボイスの2割特例・3割特例
独立すると、事業所得から差し引ける控除も自分で用意する必要があります。代表的なものが青色申告特別控除です。
国税庁によると、青色申告特別控除には65万円・55万円・10万円の3段階があります(出典: 青色申告特別控除(No.2072)|国税庁)。
65万円の控除を受けるには、いくつかの条件を段階的に満たす必要があります。試算では65万円控除を前提に置いたので、国税庁のページに書かれている条件を、もう少し具体的に見ておきます。
65万円控除に必要な条件
- 正規の簿記の原則、一般的には複式簿記で日々の取引を記帳する
- その記帳をもとに、貸借対照表・損益計算書・所得の金額の計算に関する明細書を作成し、確定申告書に添付する
- 電子帳簿保存かe-Taxでの申告のどちらかを満たす
- 確定申告期限(翌年3月15日)までに提出する
これらがそろって初めて65万円の控除が認められます。どれか一つでも欠けると控除額は55万円に下がり、複式簿記そのものをしていなければ10万円までしか控除できません。会計ソフトを使えば複式簿記のハードルはそこまで高くありません。ただ、白色申告に慣れていると、この手間自体が新しい負担になります。
そもそも青色申告をするには、事前に税務署へ開業届と青色申告承認申請書を提出しておく必要があります。独立するタイミングから逆算して、この届出も済ませておかなければ、65万円控除の土俵にすら乗れません。ここでは65万円の控除を満たした前提で計算します。
もう一つ、独立して初めて向き合うのが消費税とインボイスです。適格請求書発行事業者として登録すると、取引先から消費税分を上乗せしてもらえる代わりに、その消費税を自分で納める義務が発生します。ここで効いてくるのが2割特例です。
2割特例の期限と、2027年分からの3割特例
国税庁の資料によると、2割特例が適用される期間は2023年10月1日から2026年9月30日までの日が属する課税期間までとされています(出典: インボイス発行事業者の「2割特例」適用可否フローチャート|国税庁)。
個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日の暦年です。2割特例を使えるのは2026年分の申告までで、2027年分からは使えません。
ただし、令和8年度税制改正で、個人事業者に限った「3割特例」が設けられました。2027年分・2028年分の申告で、納める消費税を預かった消費税額の3割にできる仕組みです。法人は対象外で、免税事業者が登録して課税事業者になる期間に限り、確定申告書に付記すれば適用できます(出典: インボイス制度に関する令和8年度税制改正について|国税庁)。
要件には基準期間の課税売上高1,000万円以下があると国税庁の特集ページで確認しています。条文そのものは未確認なので、適用前に必ず国税庁の案内で確かめてください。2029年分以降は3割特例も使えず、簡易課税か本則課税になります。
2割特例では、預かった消費税額の20%だけを納めればよく、残りは事業の手元に残ります。以降の試算は、2026年分の制度で2割特例を使う前提です。
2割特例を使った場合の消費税の計算(年間)。
ただし、この42.4万円は最終的に事業の収入として合算され、所得税・住民税の課税対象になります。丸ごと自由に使えるお金というわけではありません。会計上は、預かった消費税と納めた消費税の差額を「雑収入」として計上する処理になります。
2027年に独立するなら、3割特例を使うことになります。納付額は53万円×30%=15.9万円で、手元に残るのは37.1万円です。2割特例より5.3万円少なく、課税後の手取りでは年3.7万円ほど減る計算です。2割特例が使える2026年分と比べて、独立する年によって数字が少し変わる点は押さえておいてください。
インボイス未登録のまま独立したらどうなるか
ここまでの試算は、インボイス発行事業者として登録した前提で計算しました。登録しない、つまり免税事業者のままという選択肢もあります。免税事業者のままだと、消費税を上乗せして請求しても、その分を自分で納める必要はありません。
単純に見れば、その分だけ手取りが増えるようにも見えます。ただ、免税事業者からの仕入れは、発注元にとって仕入税額控除を受けられない、または経過措置の範囲でしか控除できない取引になります。経過措置の控除割合は、2026年10月1日から2028年9月30日までが70%、2030年9月30日までが50%、2031年9月30日までが30%で、それ以降は0%です(出典: インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(令和8年4月)|国税庁)。
発注元からすれば、同じ金額を払うなら、インボイスを発行できる事業者に発注したほうが自社の税負担を抑えられます。免税事業者のままだと、消費税相当分の値下げを求められたり、契約自体を敬遠されたりする可能性がある、と一般に言われています。
自分がもし独立するなら、目先の消費税分を惜しんで免税事業者のままでいるより、インボイス登録して2割特例を使うほうが、取引先から見た印象としても安全だろうと考えています。インボイスの登録には税務署への申請が必要で、登録が完了するまで一定の期間がかかります。独立するタイミングから逆算して、早めに申請しておく必要があります。
独立後の手取りをまとめて計算する
ここまでの数字を積み上げて、年間の手取りを計算します。
会社員のうちは出社にかかる交通費が別途支給されていましたが、独立すると、客先へ通う交通費もこの経費の中に自分で組み込むことになります。
必要経費は、通信費やパソコンの減価償却、会計ソフトの利用料、交通費相当分などを合わせて年34万円と仮定しました。内訳は次の表の通りです。
| 経費の内訳(仮定) | 年間の目安 |
|---|---|
| 通信費(自宅回線・スマホ按分) | 8.4万円 |
| PC・周辺機器の減価償却 | 10.0万円 |
| 会計ソフトの利用料 | 1.2万円 |
| 客先への交通費相当分 | 12.0万円 |
| 書籍・学習教材 | 2.4万円 |
| 合計 | 34.0万円 |
内訳を見ると、会社員のうちは会社が持ってくれていた交通費が、独立すると自分の経費に置き換わるだけだと分かります。実際の金額は職種や環境でかなり変わるので、自分の状況に合わせて置き換えてください。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 売上(税抜、年530万円) | 530.0万円 | 2社目の更新後の単価をそのまま使用 |
| 消費税差益(2割特例、預り53万円−納付10.6万円) | 42.4万円 | 納付後に残る分。雑収入として事業所得に合算 |
| 総収入 | 572.4万円 | 上記2つの合計。消費税の納付分はすでに差し引き済み |
| 必要経費(仮定) | ▲34.0万円 | 上の内訳表の合計 |
| 青色申告特別控除 | ▲65.0万円 | 複式簿記+電子帳簿保存またはe-Taxが条件 |
| 事業所得 | 473.4万円 | 国民健康保険・所得税・住民税を計算するベースになる金額 |
この事業所得をもとに、国民年金や税金の実額を計算すると、次のようになります。
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 国民年金 | ▲21.5万円 | 令和8年度、月額17,920円×12 |
| 国民健康保険(基礎+支援金+子ども・子育て) | ▲52.2万円 | 練馬区の令和8年度率、39歳以下・単身で試算 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | ▲20.2万円 | 課税所得約295.7万円、税率10%から控除額9.75万円を引いて算出 |
| 住民税 | ▲36.2万円 | 課税所得約356.7万円、所得割10%+均等割0.5万円の概算 |
| 手取り(現金ベース) | 約408.3万円/年(月換算 約34.0万円) | 総収入572.4万円から必要経費と上記4項目を引いた金額 |
所得税の課税所得は、事業所得473.4万円から社会保険料控除(国民年金と国民健康保険の合計約73.7万円)と基礎控除104万円を引いて求めています。令和8年度の税制改正で、基礎控除の本則は62万円に引き上げられました。合計所得が489万円以下の場合は、2026年分・2027年分に限り特例加算42万円がつくため、今回のケースでは104万円です(出典: 令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし|国税庁(PDF))。特例加算は2028年分以降はなくなります。住民税の基礎控除は43万円のままとして計算しました。
ここで注意しておきたいのが、手取りの計算で青色申告特別控除65万円を二重に引いていない点です。この控除はあくまで税額計算のためのもので、実際に現金が出ていくわけではありません。消費税の納付10.6万円も同じ理由で一度しか引いていません。総収入572.4万円の時点で、すでに納付後の金額が反映されているためです。
会社員として同じ年530万円の単価で働いていた場合、単価と手取りの記事で計算した通り、月々の手取りはおよそ23万円です。賞与(概算で約70万円)も含めた年間の手取りは、月次の手取り率(約77%)をボーナスにもそのまま当てはめると、おおよそ330万円という見立てになります。この会社員側の数字は税制改正前の標準的な控除で出したもので、基礎控除の引き上げ分、数万円ほど動く可能性があります。
これと比べると、独立した場合の手取り約408万円は、年で約78万円多い計算になりました。
同じ単価(年530万円)で比べた年間の手取り。
この差の大部分は、税金や社会保険料の違いではありません。単価と額面の差(更新後で月に約14万円、単価の約32%)が、独立するとなくなることから生まれています。一方で、会社が折半してくれていた社会保険料を全額自分で払うことや、必要経費が加わることで、その分は打ち消されます。
独立で手取りが増える理由の本体は、税制優遇ではなく中間マージンがなくなることにあるというのが、この試算で一番はっきりした点でした。
単価が下がったらどうなるかも計算してみる
530万円という前提が崩れたらどうなるかも、念のため計算してみました。仮に単価が前提の8割、年424万円(月約35万円)になった場合で同じ手順を回すと、独立後の年間手取りはおよそ326万円になります(国民健康保険料は約40.1万円まで下がる計算です)。
| 単価の前提 | 独立後の年間手取り(目安) | 会社員(年530万円単価想定)との差 |
|---|---|---|
| 年530万円(前提通り) | 約408.3万円 | 約+78万円 |
| 年424万円(前提の8割) | 約326.5万円 | 約−4万円 |
単価が2割下がると、会社員として同じ年530万円の単価で働いていた場合の手取り(約330万円)とほぼ同じ水準になりました。独立で手取りが増える余地は、単価が下がるとあっという間に小さくなるということです。
ここから見えてくるのは、独立の本当のリスクが「単価が多少下がること」だけではないという点です。単価の下落に加えて、契約そのものが取れず、収入がまるごとゼロになる期間が発生することのほうが、手取りへの影響は大きくなります。
先ほどの比較表で挙げた「収入が途切れるリスク」と、単価の下落の両方が、この試算全体の中で一番効いてくる変数だと、計算してみて改めて分かりました。
SESの3か月更新と、フリーランス新法が発注側に課す義務を比べる
数字だけ見ると独立に傾きそうになりますが、お金以外の条件も比べておく必要があります。特に気になったのが、契約の安定性に関するルールの違いでした。
今の現場を含め、これまでの契約は3か月ごとに更新されるのが基本でした。更新の連絡は前月に営業からチャットで一行来るだけで、更新面談のような場は一度もありません。
この仕組みは、会社員として雇われているからこそ成立している部分があります。契約の当事者は自社と客先であって、自分自身は雇用契約によって守られた立場にいます。独立してフリーランスになると、この契約の当事者に自分自身がなります。ここで初めて調べたのが、2024年11月に施行されたフリーランス新法でした。
公正取引委員会によると、この法律は発注事業者に対して次の4点を義務付けています(出典: フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組|公正取引委員会)。
- 取引条件を書面等で明示する(明示すべき事項は9つ)
- 報酬の支払期日を、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に定める
- 禁止行為として定められた7つの類型に該当しない
- 契約を中途解除する場合は、原則30日前までに予告する
9つの明示事項、7つの禁止行為の類型がそれぞれ具体的に何を指すのかまでは、この記事では踏み込んでいません。正確な内容は公正取引委員会のページで確認してください。取適法(2026年1月に下請法から改正)が資本金と従業員数の区分で保護対象を線引きしているのに対して、フリーランス新法は、発注事業者の規模を問わず一定の義務を課す法律だという理解です。
| 比較する項目 | SES会社員としての自分の実感 | フリーランス新法が発注事業者に課す義務 |
|---|---|---|
| 契約条件の明示 | 単価は各現場のリーダーや営業から聞いているが、個別契約書は見たことがない | 取引条件を書面等で明示する事項が9つ定められている |
| 報酬の支払 | 給与としては毎月決まった日に支給 | 給付受領後60日以内のできる限り短い期間内に支払う義務 |
| 契約の終了 | 更新連絡は前月にチャット一行、更新されない理由の説明もない | 中途解除は原則30日前までの予告が必要 |
この表を作ってみて感じたのは、フリーランス新法の内容が、自分がSES会社員として実感してきた「不透明さ」を、発注事業者の義務としてかなり具体的に言語化しているということです。
裏を返せば、今の自分がSES会社員として受けている扱い(契約書の非開示、更新理由の説明なし)は、この法律が是正しようとしている状態に近い面がある、とも言えます。
私の場合
もし今の客先がフリーランス新法の対象になる取引だったとしたら、単価や契約期間、更新条件までを書面で受け取れていたはずです。実際に自分が受け取っているのは、就業場所や業務内容が書かれた労働条件通知書1枚だけで、契約期間や単価には触れられていません。
ただし重要な注意点があります。この法律が定めているのは、あくまで発注事業者、つまり自分が契約する相手の義務です。
義務を果たしているかどうかを見極め、必要なら是正を求めるのは、契約の当事者になった自分自身の役割になります。
会社員なら、契約条件の細部まで自分で把握していなくても、営業担当が間に入って契約を管理してくれます。フリーランスになったら、この役割を代わりにやってくれる人はいません。
自分が一度も個別の契約条件を自分で確認したことがない、という事実に気づかされたのは、この法律を調べたことの一番の収穫でした。
試算した結果、独立に踏み切らなかった理由
結論最大の理由は、年530万円の単価が独立後も続く保証がないことです。数字では独立が有利でも、今の自分にはそれを再現できる条件がそろっていませんでした。
数字だけを見れば、同じ単価で独立したほうが手取りは増えます。それでも、今の自分は独立に踏み切っていません。理由を正直に整理しておきます。
独立に踏み切らなかった4つの理由
- 年530万円の単価が独立後も維持できる保証がない今回の試算は「同じ単価が続いたら」という仮定の上に成り立っています。しかも単価が2割下がると、手取りは会社員とほぼ同じ水準になります。営業活動、契約管理、責任の引き受け先をすべて自分一人でこなせるようになって初めて前提が現実になりますが、今の自分にその準備ができているとは思えませんでした。
- 消費税の優遇が年々薄くなり、2029年以降は読めない2割特例は2026年分で終わり、2027年・2028年分は3割特例になります。2027年に独立すれば手元に残る消費税は42.4万円から37.1万円に減り、2029年以降は簡易課税か本則課税です。優遇が薄くなっていく制度を前提に大きな決断をするのは、少し危ういと感じました。
- 個別契約書を見たことも、条件を交渉した経験もないフリーランス新法は発注側の義務を定めたものです。自分から契約内容を理解し、必要なら指摘する力までは保証してくれません。
- 会社員の保障を手放すことへの心理的な抵抗有給休暇、賞与、契約終了時の休業手当の建てつけは、一度も本気で使ったことがない制度ですが、なくなると考えると急に大きく感じられました。
試算に入れていない、営業と事務にかかる時間
ここまでの試算にはもう一つ、営業活動と事務作業にかかる時間を入れていません。今の会社員としての働き方では、次の現場を探すのも、契約条件を伝えるのも、営業担当の仕事です。自分がやるのは、目の前の業務に集中することだけです。
独立すると、次の契約を探す営業活動、請求書の発行、入金の確認と催促、確定申告のための記帳、これらすべてが自分の仕事になります。青色申告特別控除65万円のために複式簿記で記帳する作業も、会計ソフトを使えば軽くはなりますが、ゼロにはなりません。月に数時間だとしても、積み重なれば無視できない時間になります。
この時間は、530万円という売上を生み出す時間とは別に確保しなければなりません。試算の数字には表れませんが、独立するなら先に織り込んでおくべきコストだと考えています。SES会社員のうちに営業活動を自分で経験する機会はほとんどなく、この技術は独立後に一から身につける必要があります。
ポイント: 数字の上で有利に見えても、それが「今の自分が再現できる条件」かどうかは別の話です。試算はあくまで判断材料の一つであって、それだけで決断するものではありません。
独立を考えるなら、単価が維持できる根拠、制度が変わったときの余力、契約を自分で管理する準備、この3つがそろっているかを確認してから動くほうが安全だと思います。
これは「独立はやめたほうがいい」という結論ではありません。自分の場合、今の数字と状況を並べてみたら、まだ踏み切るタイミングではなかった、というだけの話です。
契約書など書面の形で、単価と契約条件を自分の目で確認できる機会があれば、この判断は変わるかもしれません。
会社から単価を聞けていても、独立後に同じ単価が通用するかは別の話です。フリーランス向けの案件紹介サービス(クラウドワークス テック
など)で、自分の経験に近い案件がいくらで出ているかを見ることはできます。530万円という前提が独立後にも通用するのかを確かめる材料にはなると思います。
独立を検討し直すとしたら、何が変わったときか
今回は独立に踏み切りませんでしたが、状況が変われば判断は変わり得ます。自分の中で基準にしているのは、次のような変化です。
- 契約書など書面の形で、単価と契約条件を自分の目で確認できたとき
- 元請けや客先から、直接業務委託で契約してみないかと打診されたとき
- 3割特例が終わる2029年分以降の消費税の負担(簡易課税か本則課税か)を、自分の数字で見積もれたとき
- 確定申告や請求書発行の実務を、副業の範囲で一度経験しておけたとき
このうち一番現実的なのは、最後の「実務を副業の範囲で経験しておく」ことだと思っています。
今の副業はWebライティングですが、請求書の発行や入金確認だけでも、業務委託の実務に慣れておく材料にはなります。
いきなり独立という大きな決断をする前に、小さな業務委託契約を経験しておくことは、次に判断し直すときの材料になるはずです。
独立しないなら、会社員のうちにできること
独立に踏み切らないと決めた場合でも、何もしないままにしておく必要はありません。会社員を続けながら確認しておけることは、いくつか残っています。
- 残業代の計算に使われている精算幅の仕組みを確認しておく
- 営業担当が単価についてどこまで答えられる立場にいるのかを知っておく
- 3か月ごとの契約更新が、次はいつ来るのかを把握しておく
- 契約が終了して待機になったときの、休業手当の建てつけを確認しておく
このうち自分がまだ手をつけられていないのは、個別契約書の中身を確認することです。
単価は各現場で聞けていますが、精算幅や更新条件は書面で見たことがありません。次の更新のタイミングで、営業担当に確認してみようと思っています。
精算幅の仕組みと営業担当の立場については、それぞれ別の記事に書きました。
独立するかどうかを一度きりの決断にしなくても、会社員のうちに確認できることを一つずつ潰していけば、次に判断するときの材料は今より増えるはずです。
自分の数字で独立後の手取りを試算する手順
ここまでの試算は、あくまで自分の数字を当てはめた一例です。同じ考え方で、自分の数字を使って計算し直せるように、手順をまとめておきます。
- 今の請求単価を年換算する分からなければ、聞ける範囲の見積もり額を使います。独立後に同じ金額を維持できる保証はないので、控えめに見積もるほうが安全です。前の章で試したように、8割程度に下振れした場合も一度計算しておくと安心材料になります。
- 必要経費を仮に見積もるこの記事で示した内訳(通信費・機材の減価償却・交通費相当・会計ソフト代など)を参考に、自分の生活に合わせて組み替えてください。
- 青色申告特別控除65万円が使えるか確認する要件は複式簿記+電子帳簿保存またはe-Tax申告です。
- インボイス登録するかを決める登録するなら、独立する年に使える特例(2026年分は2割特例、2027年・2028年分は3割特例)を確認します。2029年分以降は簡易課税か本則課税になり、特例を使った翌年に簡易課税へ移るなら、確定申告期限までに簡易課税選択届出書を出す必要があります。
- 国民年金を年換算する全国一律なので迷う要素はありません。令和8年度の月額17,920円をそのまま年換算するだけです。
- 国民健康保険を試算する自治体によって率も上限額もまったく違います。住んでいる自治体の計算ページで、所得割率・均等割額と、基礎・支援金・子ども・子育て(40歳以上は介護も)の分野ごとの内訳を調べて、必ず確認し直してください。
- 所得税・住民税を概算する事業所得から社会保険料控除・基礎控除を引いて計算します。扶養家族の有無や他の控除の有無で大きく変わるので、実際の税額は所得控除の内容、自治体、年度によって変わることを前提にしてください。
- 会社員としての現在の手取りと比較する賞与を含めた年間ベースで比べてください。月次だけを見ると、会社員側の数字が実態より少なく見えてしまいます。
単価だけでなく稼働月数も自分の数字に置き換えてください。この記事の試算はすべて12か月フルで稼働できた前提ですが、次の契約が決まるまでの空白期間が生じれば、年間の売上はその分だけ減ります。単価×12か月ではなく、単価×実際に稼働できそうな月数で年間売上を出し直すと、より現実に近い数字になるはずです。
3番目と4番目は特に見落としがちです。青色申告特別控除もインボイスの2割特例・3割特例も、条件を満たさなければ受けられません。試算の段階で確認しておかないと、後になって手取りが想定より少なかった、ということになりかねません。
数字が出そろったら、最後にもう一つ加えてほしいことがあります。それは「その単価が来年も再来年も続く根拠があるか」という問いです。会社員のうちは、単価が下がっても給与がすぐには変わらないことが多いです。フリーランスになると、単価の変動がそのまま手取りに直結します。
この違いは、表には出てこない数字です。
まとめ
同じ単価(年530万円、月約44万円)で試算する限り、フリーランスとして独立したほうが手取りは年間で約78万円多くなる計算になりました(2026年分の制度、国民健康保険料を全部入りで試算した場合)。ただし単価が2割下がると、会社員とほぼ同じ水準(約4万円下回る)になります。中間マージンがなくなる効果はありますが、会社が折半していた社会保険料や経費を引くと、余白はそれほど大きくありません。
それでも、今の自分は独立に踏み切っていません。単価が維持できる保証がないこと、消費税の優遇が2割特例から3割特例へ薄くなり、2029年以降は読めないこと、契約を自分で交渉した経験がないこと、会社員としての保障を手放す不安を天秤にかけた結果です。独立を否定するつもりはなく、同じ単価なら数字の上で独立に分があることも、単価が2割下がればその差がほぼ消えることも、この試算ではっきりしました。あとは、その数字を自分がどこまで再現できるかという、お金以外の準備の話です。
もし個別契約書を一度でも自分の目で見せてもらえる機会があれば、そのときはまた違う判断になるかもしれません。今のところ、その機会はまだ訪れていません。3か月ごとの契約更新の連絡が来るたびに、この試算をもう一度見直すようにしています。
独立を考えるなら、動く前に確かめること
- 自分の請求単価を年換算してみたか
- 国民年金・国民健康保険・所得税・住民税、インボイスの扱いまで計算したか
- 単価が維持できる根拠があるか
- 制度が変わったときの余力があるか
- 契約を自分で管理する準備ができているか
もし今、独立を考えているなら、まず自分の請求単価を年換算し、この記事の手順で一度計算してみてください。数字が出れば、少なくとも「なんとなく不安」という状態からは抜け出せるはずです。検索すれば「独立すべき」という記事はいくらでも出てきますが、自分の数字を当てはめて計算し直すところまでやってみると、見える景色は少し変わってきます。




